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第39話 明かされる真実①


 そのまま歩き続けていると、近所の公園に辿り着く。


「そこ、座る?」


 すると、その公園のベンチを指さして理玖くんが声をかける。


「あっ、うん」


 返事をして二人してそのままそのベンチに腰を掛けた。


 そして、少し落ち着くと。


「何から話すかな……」


 理玖くんの中でいくつか存在している何かを、自分の中で確認しているのか、視線を落としながらボソッと呟く。


「理玖くんの中で整理出来たらゆっくりでいいよ」


 何を整理しているのかもわからないけど、でもこういう口数少ない時は理玖くんの中で伝えにくい何かがある時なのを知っている。


 理玖くんは、案外言葉を選ぶ人で、大事な重要な何かを伝えるときは、ちゃんと考えて伝えようとする。


 だから普段そんな人が簡単に伝える時だったり誤魔化して伝える時は、ホントにそこに理玖くんの意思がそこまで重要でないのもわかる。


 だからこそ理玖くんの真実がわからない。


 一歩踏み込まないとその気持ちも真実も明かしてくれない。


 そしてその心の扉もなかなか開けてはくれない。


 だから、きっとそういうことは、理玖くんの中で一人抱えてるんじゃないかと思う。


 そういえば昔もそんな時あったかも。


 一瞬表情が変わった時とか、言葉を選ぶ雰囲気を感じる時があって、その時はなぜか幼いながらもそれ以上話しかけちゃいけない気がして、躊躇して声をかけられない時があった。


 今はなんかその時のような気がして。


 親しいからこそそういうのもわかってしまうから、あたしはただひたすら理玖くんの話しだそうとするタイミングを、そのまま待つ。



「沙羅……」


「はい」


 すると、ようやく口を開いて静かにあたしの名前を呼びかける。


「お前が気になってることは、どれ……?」


 あたしの気になることに答えてくれるってことかな。


「え? あ、あぁ。うんと、彼女……は、ホントはいるのいないの? どっち?」


 やっぱりこれが一番気になるところで、この真実がわからないとどれも話が噛み合わない。


「あぁ~。それは……、いない」


 すると、やっぱりそれはあたしに話してくれたのと同じだった。


「なら、なんでさっき二人にはあんなこと?」


「彼女はいないけど……。好きな相手は……いる」


 今まで言わなかったその言葉が、理玖くんの口から伝えられた。


 そっか……。好きな、人は、いる……のか。


「へ、へぇ~。そんな人いるんだ?」


 あれ? なんであたし声裏返って、動揺したりしてるんだ……?


「フッ。まさかそんな相手いるとは思わなかった?」


「うん……。だって理玖くんの周り、あんなにたくさんの女性いるから」


「……好きな相手が、いるからだよ」


 すると、その言葉を噛み締めるように静かに呟く理玖くん。


「え、なんで?」


 好きな相手がいるから他の女性と軽い付き合いするってこと?


 いたら余計普通そんなの出来ないはずなのに、意味がわからない。


「ん~。オレの中で、存在しちゃいけない気持ちだから」


 存在しちゃいけない気持ち?


 好きな人に対してってこと?


 好きになる気持ちは自由だし、好きな人がいるなら他の女性なんて必要ないと思うんだけど……。


「存在しちゃいけないって、どういうこと?」


「お前さぁ……。好きになっても意味ない相手。好きになったことある?」


 ん? 好きになっても意味ない相手ってどういう意味だろう。


「それって自分を絶対好きになってくれないとか、彼氏いる相手とか、そういうこと?」


「まぁ、うん。そんな感じ」


「う~ん。あたしはそういう相手だってわかったらすぐ気持ち引っ込めちゃうかも。そこまでして振り向かせる自信とかもないし、もしそういうのがわかった時点で気持ちなかったことにしちゃうっていうか」


 王子様のような相手を探し続けてるからこそ、無謀な相手とかに頑張る勇気もなくて。


 だけど、心のどこかで、そんな運良く自分を選んでくれる理想の相手に出会える可能性なんてないのかもしれないとも、実は思ったりもしてる。


 だから、口ではいつもそんな風に言ってるけど、その裏には、理想の王子様以上に、自分にとっての理想の相手を探してるのかもしれないと、最近思い始めてる。


「へ~。そんだけ恋に恋してるお前だから、そういうのも関係なしに好きになってるのかと思ってた」


「う~ん。そういう意味でなら慎重ではあるとは思う。脈がないってわかったら好きにもならないから」


「それってさ。まだ後戻り出来るくらいだからだよな」


「えっ、まぁ、うん」


「なら。すげー好きってわかってから、実はそうだったってわかったら、お前どうすんの? そんな簡単に諦められんの?」


「え……」


 実際多分そこまでになってからの人はいなかったかもしれない。


 チョロいのはチョロいんだけど、実はその分、ホントにこの人をあたしは好きになれるのかなとか、好きになってもいい人なのかなとか、ハマりきるまでに慎重になってるから。


 でも、だからかな。


 チョロくても、ホントに心から好きだと思えるような人に結局は出会ってないような気がする。


「そこまでになるまでに好きな気持ち持っていかないから……」


 すると。


「フッ。そんな調子よく気持ちコントロールなんて出来るかよ」


 理玖くんは少し呆れた感じで呟く。


「それは……」


「本気で好きになったらさ、そんなん言ってらんねぇんだよ。好きになったら自分でどうにも出来ないし、一緒にいればいるほどもっと好きになって気持ちなんてコントロールなんて出来ない」


 それは、理玖くんはそういう気持ちになってるってことだよね……?


 理玖くんからそんな言葉を聞くなんて違和感でしかないのに、だけど今の理玖くんはそれをいい加減に言ってるわけでもなくて。


 理玖くんが、誰かにそんな感情を持っているということに、ちょっと胸の辺りがギューッと切なくなってしまう。


 なんでだろう。今までいい加減に付き合ってきた女性たちには、そこまで感じなかったのに、なのに、それくらい想う人がいるんだとわかった瞬間、その人へのその感情を聞いて、あたしはなんでこんなに胸が苦しくなるのだろう……。



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