「でも……、それならなんで、颯兄と茉白ちゃんには彼女いるって言ったの? 別にそこまで好きな人がいるって伝えても良くない?」
茉白ちゃんには、もしかしたら、いいお兄ちゃんでいたいからっていうのもあるかもだけど、親友の颯兄にはなんで隠してるのか、そこだけはわかんない。
「あぁ……。そんなホントのこと言って、みんな傷ついたって仕方ないだろ」
視線を落としたまま、理玖くんは今まで見たことない寂しそうな顔をしていて……。
理玖くんが好きになって傷つくって一体……。
「傷つくって……、なんで……?」
その理由を聞いて、理玖くんのこの表情が晴れるわけでもないし、あたしのこの気持ちも晴れるわけじゃないのだろうけど。
でも、理玖くんが発するすべての言葉が、あたしにはわからなくて、だからその意味が知りたくて……。
「どれだけ好きでも、どれだけ自分のモノにしたくても、許されない相手なんだよ」
理玖くんのその言葉に、また胸がギューッと苦しくなる。
理玖くんから出たその言葉に、なぜか切なくて苦しい。
すると、そのあとに、耳を疑う衝撃的な言葉が理玖くんの口から飛び出した。
「好きな相手が……。妹だから……」
……はっ? ……へ?
え、ちょっと待って……。どういうこと……。
今、なんて言った……? あたしの聞き間違い……?
その言葉を聞いた瞬間、更にあたしの心臓は今までに感じたことない胸打つ激しさと痛みを訴える。
「え……? え……? ちょっと待って……? 妹って……、茉白ちゃんが好きってこと……?」
きっと聞き間違いではないその相手。
だけど普通ではありえないその相手に、あたしは間違いであってほしいと思いながら、その名前と相手を確認する。
「そう。妹の茉白。……オレはずっと昔から、茉白が好きだった……」
え、え……。ちょっと思考がついていかない。
なのに心臓は尋常じゃないくらいの動きをして、心と頭がバラバラの動きをしてどう反応していいかわからない。
好きな相手が茉白ちゃん……? しかもずっと好きだったって、何……?
そんな答えが返ってくるなんて思ってもみなくて、あたしは動揺するだけで上手く言葉も出てこない。
「フッ。ありえないだろ。妹に恋愛感情だなんて」
「…………」
あたしは理玖くんの顔も見れず、何も言葉に出来ず、ただ放心状態になる。
今、どんな顔をしてその言葉を言ってるんだろう。
どんな気持ちで、それをあたしに話したんだろう。
ありえないその話を、あたしはすぐに自分の中で受け入れられなくてどうしていいかわからない。
だけど、それ以上に誰にも言えないその感情を、あたしに話した理玖くんが、今どんな想いをして、あたしに話してくれたのかを考えると、どうしようもなく胸が切なくて痛い。
普段はあんなに明るくて冗談や適当なことしか言わない理玖くんが、今まで聞いたことのない沈んだ声で、その事実をあたしに告げている。
そんな声の理玖くんが、今どんな顔をしているのかを、あたしは見る勇気もなくて、ただ俯いたまま地面を見つめてしまう。
だけど、耳越しに聞こえてくる理玖くんのその声が、泣きそうなくらい寂しく切なく響く……。
「茉白さぁ。……実はホントの妹じゃないんだ」
すると、今度はまた更に衝撃な言葉を理玖くんが口にする。
「えっ!?」
あたしはその言葉を聞いた瞬間、また違う驚きで隣の理玖くんを思わず見る。
「オレら。血つながってないんだ」
え……。待って。またそんな信じられないような話……。
あたしは、その理玖くんの言葉に戸惑いながらも、そう言って寂しそうに前を見つめ切なく笑う理玖くんから、今度は目を離せない。
「フッ。驚いた?」
すると、理玖くんは少し笑いながら、隣のいるあたしに視線を合わして声をかける。
ドキッ。
あたしはその瞬間、また違う胸の動きを感じる。
「え、あ……、うん……。驚いた……」
そして、そのままその言葉を繰り返す。
あまりにもいっぺんに衝撃な話を聞いたせいで、あたしはどう言葉にしていいかもわからない。
何から考えて、どんな言葉を選べばいいか、そんなことでさえわからなくなるほど、あたしの思考はあまりのショックで働かずにいる。
「幻滅した……?」
すると、あたしがそれ以上反応出来ないのを見て、理玖くんがあたしを見ながら尋ねる。
幻滅……なのかな。
いや、幻滅っていうより、衝撃……、ショック……?
今、自分の気持ちに当てはまる言葉はわからないけど。
でも、なんでか、その事実を知ったことで、幻滅、という感情はあたしには生まれてこなくて。
そうじゃなく、それよりも、納得……?
何か自分の中でパズルが当てはまったような、そんな不思議な感覚。
あぁ、多分それだ……。
あたしはその事実を聞いて、逆に安心したんだ。
ずっと腑に落ちなかった理玖くんの女性に対しての付き合い方。
どこか投げやりに感じる、誰にも真剣になっていないように感じる、そんな感覚。
ホントは優しい人だって知っているから。
だから、そんな理玖くんが誰にも真剣にならないのが少し寂しかった。
そんな風にしか人を好きになれないんだと少し悲しかった。
だけど、ホントは、血のつながらない茉白ちゃんが好きで、そういう付き合い方をしていた……。
他の女性に対してそういう付き合い方するのはどうかとは思うけど、でも、実際は誰かを一途に想い続けているというその事実が、あたしにとっては幻滅よりも羨ましく感じた……。
……あぁ。そうか……。そういうことか……。
……あたし、理玖くんのこと、好きなんだ……。
衝撃的な事実を聞いたその瞬間、叶わない相手を想い続けているとわかった瞬間、あたしはそんなありえない絶対想いが届かない人に恋していたのだと、初めて気付いた――。
ハハ。なんだこれ。
恋心を自覚した瞬間、告白もしないうちに失恋とか、こっちの方がありえないでしょ。
だって、それを聞いた瞬間、羨ましいって思ってしまった。
そんなに理玖くんに一途に想ってもらえてる茉白ちゃんが、心底羨ましいって思った。
妹だから、その愛情は当たり前で。
昔から特別に優しく愛情を注いでいた理玖くんをずっと見てきてたから。
あたしには軽くしか接してこない理由。
そして茉白ちゃんに必要以上に優しい視線と言葉と態度で接していた理由。
妹だからじゃなく、ずっと好きだったからなんだ……。