「沙羅……? なんか言って……」
あたしが理玖くんへの気持ちに気付いて、自分の中で葛藤していると、何も言わずにいたあたしに理玖くんが切なそうに声をかける。
「あっ……、ごめん……」
「幻滅でもなんでもいいから、なんか反応して……。お前に黙ってられるのは、なんか堪える……」
すると、また思っても見ない反応を理玖くんがする。
「幻滅……したとかはないよ」
「え……?」
「そりゃ、ビックリしたけど……。だからと言って、その気持ち否定しようとも思わない」
それは今一番自分が感じることだから。
叶わない相手を好きだと想ってるその気持ちを、否定する権利は誰にもない。
ただ真剣に誰かを好きなことを、他人がそれを幻滅する資格もない。
きっと理玖くんは、好きになった相手が、茉白ちゃんだっただけ。
好きになった相手が血のつながらない妹だっただけ。
そして、あたしも好きになってしまった相手が理玖くんだっただけ。
理玖くんが言ったさっきの言葉が、そのまま自分に跳ね返ってくる。
その気持ちに気付いた瞬間、多分もう後戻りは出来なくて。
そんな理玖くんだから、きっとあたしは好きになったのかもしれない。
ホントは不器用で、優しくて、一途で……。
今まで感じてた自分が誰かを好きだという気持ちは、結局は上辺だけの薄っぺらい想いだったのだとわかる。
好きになる前に止められるほど、あたしはその人を好きじゃなくて。
それくらいしか感じない人で。
だけど、ホントに後戻りできない想いというのは、それがずっと温めてきたモノだとか、その瞬間に感じたモノだとか、多分そんなの関係ないんだ。
どんなタイミングでも、自分にとって好きだと自覚した本物の想いなら、もう後戻りできないほどに自分の中に存在してしまっているということだから。
あたしはきっと、好きだと自覚したのがこの瞬間だったというだけで、ホントは理玖くんへの想いは、昔から奥深く根深く存在し続けていたのかもしれない。
きっといつでもどんな時も、あたしは理玖くんへの感情がずっと動き続けていた。
昔から構ってくれて、あたしだけ気を遣わずからかってくれるとことか、どんな形でもあたしを少し他の人より特別扱いしてくれることが嬉しかった。
だけど、そんな理玖くんがいつの間にかあたしに構わなくなって、特別扱いしてもらっていたそのポジションが、いつの間にか知らない誰かに奪われてるのが悲しくて寂しくて、小さいながらにそんな隣に誰か大人の女性がいる姿を見るのが切なかった。
そのうち、いつの間にか会わなくなって、一切顔も合わせることもなくなって、理玖くんにとっては、あたしはそんなちっぽけな存在だったのだと自覚して悲しかった。
だから、あの日再会して、理玖くんに会えたのがホントは嬉しかったんだ。
ホントはあの時、昔以上に自分好みのカッコいい姿になっていて、ホントはドキドキしてトキメいてたのも、自分の中で気付いてたのに認めたくなかっただけ。
なのに、もっと女性にだらしなくて誰でも相手にしている理玖くんになっていて、なんかすごくムカついて、大人になった自分になっても、結局は理玖くんに相手にされなくて、妹扱いなのも悲しかった。
結局理玖くんの隣にいるのが自分じゃない誰か別の女性なのがイラついて、誰かに甘い表情をして言葉をかける理玖くんが切なくて……。
どんな時も本心を見せてくれない理玖くんに寂しくて……。
すべては、そういうことだ。
理玖くんと小さい頃に出会ってから、再会した今までずっと。
理玖くんはあたしの中で嫌っていうくらい、ずっと存在し続けていた。
きっとその頃から、あたしの理玖くんに対しての何かしらの感情がすでに生まれていたということだ。
それが自分にとって最初から恋愛だったのか、いつからそうなったのかもわからないけど。
でも、多分、あたしの中で、理想だなんだと言ってる間も、一番かけ離れてる理玖くんと比例させて、あたしはあたしの気持ちが満たされる相手をただ探そうとしていただけだったんだ。
理想なんて、それこそ確実性がないモノで。
頭で描いているだけの理想。
だけど、心で感じる現実。
現実でその想いが確かになってしまったら、理想だとかそんなのどうでもよくなって、結局は現実でその想いと向き合うしかないってことなんだ。
「なんか、意外だな」
「えっ?」
「沙羅には、絶対幻滅されると思ってたから」
幻滅より、好きだと自覚してしまったこの想いをどうするべきかの方が、あたしには悩ましい……。
「誰かを好きになる気持ちは誰も否定出来ないよ……。だけど、理玖くんがそんな誰かを一途に想う人だとは思わなかった……」
「オレん中でさぁ、茉白は絶対なんだよ。茉白を好きだと想う気持ちは誰にも超えられないし負けもしない。たとえ、颯人にもね……」
あぁ……、なんて切ない告白なんだろう。
そうだ……。きっと颯兄と付き合う前から、理玖くんは茉白ちゃんを好きだってことなんだ……。
そして、それほど茉白ちゃんが好きなんだと、強いブレない想いを聞いて、あたしの心臓が痛くて苦しいと悲鳴を上げ始めそうになる。
「いつから……好き、だったの……?」
知りたくないけど、知りたい。
知りたいけど、知りたくない。
そんな想いが行ったり来たりするけど、あたしはやっぱり尋ねてしまう。