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第42話 明かされる真実④


「いつからだろうな……。茉白はずっとオレにとって、宝物のような大事な存在だったから……」


 うん、昔から茉白ちゃんを大切にしていた理玖くんなら、きっとそうだよね。


「小さい頃、茉白がうちに引き取られてきた時さ。両親はオレに包み隠さず茉白のこと打ち明けてくれたし、オレもそれなりに理解出来る年齢だったんだよね」


「それは颯兄と知り合う前ってことだよね?」


「そうだな。オレが小学生の時だったから。でも茉白はまだ1歳とかで、茉白はその時のことはあんま覚えてない」


「そうなんだ……」


「母親の親友の子供でさ。事故で両親が亡くなって、それでうちで引き取ったんだ」


「そうだったんだ……」


「幸い、うちの家は金銭的にも十分余裕があるし、父親も母親がそう望むならって快く受け入れて。子供好きな二人だったし、女の子も欲しかったらしいから、それからはまぁ沙羅が知ってるように溺愛だよ」


「うん。すごく可愛がってたもんね。叔父さんと叔母さん」


 小さいながらに、二人の茉白ちゃんの可愛がりっぶりは強く記憶に残ってるほど微笑ましい光景だった。


「うちに来た時の茉白。ホント可愛くてさ……。初めて見た瞬間から、オレもこの子を絶対守ってやるんだって強く思ったのを今でも覚えてる」


「茉白ちゃん。昔から可愛かったもんね」


 目がキュルキュルでお人形さんのようでワンピースがとてつもなく似合う美少女だった。


 初めて理玖くんに連れられて茉白ちゃんに会った時、あまりの可愛さにあたしも一目惚れしたくらいで、すぐに友達になろうってあたしからナンパしたくらいだもんな。


「だから、ずっとそんな感情でずっと可愛がって守ってきたから、自分の中でそれが妹としてなのか、恋愛感情なのかわかんなくなって……。だけど、あいつが少しずつ成長してきて、オレもどんどん妹ってだけの気持ちじゃないって気付きだして、あぁこのままの気持ちだとダメだなって思った」


「それは恋愛感情って意識しだしたってことだよね……?」


「あぁ……。だけど、茉白は妹だし、そんな感情許されないから……」


 もうそこから理玖くんは自分の中で葛藤してたってことなんだ……。


 理玖くんの中で自分で受け入れたのがそれくらいで。


 だけど、妹だからとかそうじゃないとか関係なくしても、理玖くんの中では茉白ちゃんが誰よりずっと大切な存在だったのは間違いない。


 無意識でも自覚してても、どちらにしたって理玖くんの茉白ちゃんへの想いは、きっとそれほど確かで揺るがないモノだったはずだから。


 でもその頃から、理玖くんとしても自分の中でいろんな葛藤を抱えてたってことなんだろうな……。


「両親にも、その頃からずっとお前が守ってやれって言われ続けてきてさ。オレがいつの間にかそんな妹に恋愛感情持つようになったとか、絶対気付かせたくもなかった」


「だから、今も実家には帰ろうとしてないの……?」


「そう。一緒にいたら、どっかでそんな気持ちバレそうな気がしてさ。茉白とは一緒にいればいるほど好きな気持ち抑えられなくなるし、そんなの絶対あの家ん中で存在させちゃいけないんだよ」


 そっか。だから、実家に帰ろうとしなかったんだ……。


 茉白ちゃんが好きなのに、会えない辛さってどういうものなんだろう。


 だけど、ご両親も茉白ちゃんも傷つけたくなくて、きっと実家に行かないようにして、その気持ち隠そうとしてたんだろうな……。


 なんだよ。どこまで優しいんだよ。


 不器用すぎるんだけど。


 それで全部自分だけで抱えてるってことなんだ。


「だから。他の誰かを好きになろうって思って、その頃からいろんな女と付き合った」


 そっか……。だから、か……。


 だからあの頃から急に女性関係激しくなったんだ……。


「だけどさ……。いろんな女と付き合えば付き合うほど、茉白がいいって思っちゃうんだよ。茉白以上に誰も好きになれないって、嫌ってほど実感した」


 理玖くんがそう発する言葉から、茉白ちゃんへの痛いほど強い想いが伝わってくる。


 自分の気持ちを認めたとこで、理玖くんには苦しい現実。


 あたしでも自分の気持ちに気付くまで、こうやって葛藤があったくらいだから、きっと理玖くんはもっと大変だったんだと思う。


 そっか。あたしはただ自分の気持ちを認めたくなかっただけだけど、理玖くんはその好きが許されない状況になるんだ……。


 そんなの今まで考えたことなかったな……。


 それほど好きだと自覚してるのに、好きだと想ってはいけない状況だなんて、どんな辛い状況なんだろう……。


「だったら、なんで……? なんで今もたくさんの女性と関係持ったりするの……?」


 茉白ちゃんの想いをそれだけ貫いてるのに、なんでそんな関係を続けてるんだろう……。


「心と身体は別だろ……。っていうか、だからかな。どうやったって叶わない茉白を想い続けてるからこそ、満たされない気持ちがあるっていうかさ……」


「満たされない気持ち……?」


「お前にはちょっと理解出来ないだろうけど。心が満たされないからこそ、身体は満たされたいっていう、そういうどうしようもない欲望がさ……」


 あぁ、また勝手にそうやってあたしを入れさせようとしない。


 自然にあたしを最初からそうやって扱うことで、あたしは理玖くんの中で絶対ない存在なのだと思い知らされる。


 ずっとあたしは妹的な存在なのだと、どうやったってあたしはその位置にはいかないのだと、理玖くんはそう思い込んでる。


「でも、それで、理玖くんは満たされてるってこと……?」


「そうだな……。そういう存在がいるだけで、ちょっと救われた気持ちになんだよ。このオレの行くところのないどうしようもない気持ちが、その時は茉白のこと忘れて報われたように思える」


「相手は茉白ちゃんじゃないのに……?」


 茉白ちゃんじゃなくても、理玖くんはそれで満たされるの……?


「ホントは存在させちゃいけない気持ちだからさ。それなら出来るだけオレも忘れたいって思うし、もしかしたら、そこから気持ちが変わるかもしれないし」


 そうだよね。茉白ちゃんへの想いをホントは存在させたくないってことだよね。


 だけど、妹として絶対愛情は存在してるし、恋愛感情だけを失くすのって、どうすればいいんだろう。


 だからといって、きっと茉白ちゃんのことは好きでいたい。妹として。


 だから、理玖くんも他にそういう想いになれる人を探してるってこと……?


「じゃあ、茉白ちゃん忘れられるくらいの人には、まだ出会ってないってこと……?」


「そういう意味では出会ってないかな。だけど、オレもいい加減な気持ちでいるわけじゃないし」


「そうなの……?」


「向こうはさ、オレがいいって、その時は必要だと思ってくれるわけだし。その想いには応えたいって思う。実際その時はオレも茉白のことは忘れられるわけだし。オレも男だしね。そういう関係でいられる存在はやっぱ必要っていうかさ」


 お互いそれで割り切れるのかとか、あたしにはやっぱりよくわからない。


 だけど、きっとそういう人たちは、そういう感情で成り立つってことなんだろうな……。


 だけど、あたしも理玖くんを好きだって自覚した以上、そういうことも、前ほど平気で聞いてはいられなくて。


 そして、理玖くんにとって、あたしはまったく例外なのか、他人事のようにその話をされるのが切ない……。


「それで付き合わないとか、相手の女性可哀想……」


 あたしは自分がそのポジションにいることも出来ないことで、少し僻みからかその女性と想いを重ねてしまう。


「ずっと茉白の代わりになるような相手探したんだけどな。それはもう無理だってわかってからは、本気にならないのを条件にそういう関係持つことにしたから、向こうはちゃんとそれで割り切ってる」


 なんだかそれも納得いかないけど……。


 でも、相手が理玖くんなら、そうするしかないのかな。


 もしあたしが理玖くんとこんな出会い方してなくて、その女性たちと同じ立場で理玖くんを好きになったとしたら。


 あたしはどうしていただろう。


 どうしても好きなら、もしかしたら、あたしもそれを望んでいたかもしれない。


 理玖くんは、相手の女性は割り切ってると言ってるけど、中には、割り切ってない女性もいるような気がするから。


 本気になってくれないとしても、その時だけでも自分を見てくれて、その時だけでも自分の気持ちに応えてくれるのだとしたら……。


 あたしも本心を隠して、そんな関係を望むかもしれない。


 その瞬間だけでも、そんな風に自分だけを見てもらえて求められるのなら、もしかしたら、自分の中で満たされるのかもしれない……。


 あたしには、多分どうやったってそれが出来ない関係だけど。


 あたしがどう頑張ったって、きっと理玖くんはあたしを妹的にしか思ってないし、女としてなんて見てないのもわかりきってる。


 好きになってもらうのなんて、きっともっと不可能な話なんだろうな……。


 理想的な王子様みたいな人をずっと探してたはずなのに、どうしてあたしはこんな一番可能性のない相手を好きになってしまったんだろう。


 どうして一番かけ離れた相手を好きになってしまったんだろう……。






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