「理玖くん。なんでそんな話あたしにしてくれたの……?」
多分きっとホントは理玖くんの中で、ずっと誰にも言わず隠し続けたい想いだったんじゃないかなと思うから。
「ん~。なんでだろうな……。沙羅には、なんか話しておきたくなった」
そういって少し優しく笑う。
「フッ。何それ……」
「沙羅はさ。なんだかんだオレ慕ってくれてたから。今では、先輩後輩って間柄で、こんな関係になったけどさ。でも、なんだろな。お前とは言い合いしたりしててもさ、オレん中でそういう時間が楽だし安心すんだよね」
「へ、へぇ~」
理玖くんの意外な告白に、あたしは動揺しながらも嬉しさが出てしまう。
「だから。正直どうしようか迷った。この話お前にするか」
「うん……」
「幻滅されてオレから離れようとするかもしれないとも思った。だけど、それ以上に多分お前には……、お前だけには、わかっておいてほしかった」
「何を……?」
「ホントは茉白が好きだってこと」
あんなにもいろいろ誤魔化していた理玖くんが、このことについては名前を出してハッキリ告げる。
これだけでどれほどの強い意志で、その意志がしっかり固まっているものなのかがわかる。
だけど、理玖くんを好きだと気付いたあたしにとって、ある意味それはとても残酷だ……。
「お前に誤解されたままは嫌だなって思った」
「誤解……?」
「お前は、ただオレが女好きで、誰とでもいい加減な関係持つクズ野郎としか思ってないんだろうなって」
「いや、まぁそれは」
うん、否定は出来ない……。
「まぁ正直それも違うとはいいきれないんだけど。でもお前には、ちゃんとホントのオレを知っておいてほしかった」
そう……なんだ……。
あたしは理玖くんにとって、そんな風に思ってもらえる存在なんだ……。
「幻滅されても、そうじゃなくても。思ってること、言いたいこというお前なら、ちゃんとホントのオレを見てくれてるっていうか、わかってくれてるだろうなって思ったから」
「うん……」
あぁ、ここまで思ってくれてるんだ。
初めてだった。
理玖くんがこんな風に気持ちを打ち明けてくれて、あたしをどんな風に思ってるのかを聞いたのは……。
理玖くんは、ちゃんとあたしを一人の人間として、信頼してくれているってことなんだ。
「勝手だけど、オレのホントの気持ち。お前には吐き出したいって、なんかそう思った」
そっか。たとえ他の女性みたいに身体で満たす関係になれなくても、あたしは心に寄り添える存在になれてるってことなんだ。
「お前だけなんだよね。そうやって思えるのは」
ハハ。なんか皮肉というか意地悪というか……。
恋愛感情じゃないその言葉は、なかなか堪えるな……。
でも、今までの関係なら、きっとそれでもよかった。
ただ、あたしが好きになってしまっただけ。
そして、理玖くんはあたしが理玖くんを好きだなんて思いもしないんだろな……。
だけど、どんな感情でも、どんな意味でも、あたしだけを特別にそう思ってくれるということは、嬉しいと思うのも事実で。
不思議と、そんな理玖くんの味方でいたい、理解者でいたいと思ってしまうなんて、あたしも大概バカだな……。
「フッ。しょうがないな~。じゃあ、あたしは理玖くんの味方でいてあげるよ」
あたしはそんな風に言ってくれた理玖くんの言葉と気持ちが嬉しかったのか、気付けばそんな風に理玖くんに明るく答えていた。
「お前が? 味方になってくれんの?」
少し呆れたように、だけど少し嬉しそうに笑いながら答える理玖くん。
「なんか今のままの理玖くんじゃ救いようない人生だからね。少しでもわかってあげられてるあたしがいた方が、理玖くん的にも楽になれるだろうし」
「確かに。お前が味方でいてくれるなら安心出来るかも」
「でっしょ~。だから、なんでもあたしに吐き出してくれたらいいよ。なんでも聞いてあげる」
「フッ。それは頼もしいわ」
理玖くんがそう言って笑ってくれた姿に、少し安心する。
なんか気付いたらそんな風に言葉にしてた。
だって一人で全部抱えて辛すぎるでしょ。
誰にも言えないその許されない想い。
だけど血はつながってないんだから、法律的には許されない想いではない。
そうだとわかっていも、多分理玖くんは、茉白ちゃんや家族を守ろうとしている。
だけど、きっとどうしようもないほど茉白ちゃんが好きで、その気持ちは消えない。
だからこそ離れて忘れようとしている。
その想いがどれほどのものなのか、多分あたしが想像出来ないほどで。
だけど、きっとそれをあたしに話してくれたのは、やっぱり一人で抱えてることが少し苦しくなったのかもしれない。
少し楽になりたかったのかもしれない。
あたしに話したところで、あたしが別に何か出来るわけでもないけど、でも誰かに話していることで、わかってもらっていることで、きっとどこかで楽になれる時もきっとあると思うから。
それなら、あたしは理玖くんの味方でいたいと思った。
あたしだけは、そんな理玖くんの辛い気持ちわかってあげたいと思った。
あたしだからこそ、わかってあげられることが、嬉しいと思った。
あたしがそんな理玖くんを救ってあげたいと思った。
何が出来るかわからない。
ただ話を聞いてあげるだけでも、あたしはそばにいたい。楽にしてあげたい。
理玖くんのホントの特別になれなくても、心を少しでも預けられる存在になれるのなら、あたしはその役割を守りたい。
――だから、あたしは自分の気持ちに嘘をついた。
理玖くんが好きな気持ちより、理玖くんを救いたいという気持ちを選んだ。
それがこれからあたしの出来ることなのだと思うから……。