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第44話 明かされる真実⑥


「なら。オレもお前を責任持ってちゃんと見守ってやんなきゃな」


 それは、どういう意味で……?


「お前は放っておいたら、すぐチョロいやつに騙されそうになるからな。オレがこれからは出来る限りちゃんと守ってやる」


 そう言って、あたしを見ながら優しく理玖くんが笑う。



 好きだと気付いた瞬間、そんな言葉もどういう意味なのか考えてしまう。


 いつものように言ってる言葉も、嬉しいと思ってしまう。


 そんな風に微笑みかけてくれるだけでこの胸は高鳴ってしまう。


 理玖くんなんて、ただのクズだと思ってたのに、絶対好きになんてならない相手だと思ってたのに。


 だけど、その気持ちに気付いたら、転がり落ちるのも一瞬で。


 その言葉に、その視線に、その微笑みに、すべてにトキメいてしまう。


 意味のなかった言葉たちが、今になれば一つ一つその意味を探して、その意味に希望を持ちたくなる。



「だから安心してお前もオレに頼れ。オレはいつまでもお前の兄貴みたいなもんだから」



 ――あぁ。やっぱりそういうことだよね……。


 希望を持つどころか、ようやく気付いたこの気持ちも、やっと生まれたこの恋心も、最初から打ち砕かれる。


 育てることも出来ないこの想いは、こんなにも早くどこに行けばいいか彷徨ってしまう。


 結局は、理玖くんにとっては、ずっとあたしは妹のままで、理玖くんはずっと兄としての気持ちしかあたしには持っていなくて。


 だけど本当の妹に理玖くんは無謀で不毛な叶うことのない想いを抱いている。


 理玖くんのその想いはきっと絶対叶わない。


 そして、あたしのこの想いもきっと絶対叶わない。


 どっちも一方通行の想い。


 だけど、理玖くんはきっとずっとそんな苦しい想いを抱えてきたんだ。


 血がつながらないけど世間的には妹で許されない関係。


 理玖くんはきっとその想いを告げることもなく叶えることもなく、ただ胸に秘めて一人抱えていこうとしているのだろう。


 茉白ちゃんが理玖くんを好きになれば、もしかしたらそれも叶うのかもしれないけど、茉白ちゃんは颯兄のことが大好きで、理玖くんはお兄ちゃんとしてしかきっと思ってないから。



 だけど、もし……もし、茉白ちゃんも理玖くんのこと、恋愛感情として好きだったとしたら……?


 そしたらどうなっていたんだろう。


 その時は想いを伝えていたりしたのかな。


 それだと、またきっと親や世間の手前、乗り越えなきゃいけない壁とか出てきちゃって、そんな簡単にはうまくいかないのかもだけど……。



 だから、相手が茉白ちゃんってことに、なぜかホッとしている自分もいる。


 世間的に難しい相手で、そしてその相手は颯兄が好きで、絶対二人が結ばれないことはわかっているから。


 理玖くんには辛い状況だけど、それならあたしならなんの問題もないのに、なんて思ったりもして。


 理玖くんの気持ちや自分の気持ち、いろんな気持ちがごちゃ混ぜになる。



 そっか。きっと本当の恋愛ってこういうことなんだな。


 理想だけじゃない切ない想いや苦しい状況、乗り越えなきゃいけない壁とか、嬉しい楽しい気持ちだけじゃなく、正反対の気持ちなんかも同時に存在するってことなんだ。


 嬉しい気持ちにも醜い気持ちにも、どちらにも向き合わなきゃいけないんだ。


 まさかそれが理玖くんだなんてな……。


 妹の茉白ちゃんには恋愛感情があって、妹ではないあたしは妹としての感情しかなくて……。


 血がつながってないホントの妹でもないあたしなら絶対問題ないのに。


 だけど、そんな関係よりも、一番重要な気持ちがあたしに向いてないっていうことが一番問題なんだろうけどな……。


 だけど、今はたとえ妹としてでしかなくても、理玖くんがあたしを気にかけてくれるのが嬉しいから。



「うん……」


 だから、あたしはその理玖くんの言葉に、意味を持つ言葉を返せず、ただそう返事をして頷いた。



 自分の中で育ち始めたこの想いを、妹として返事をするのは嫌で、だけど、理玖くんにそう思ってもらえてる気持ちはやっぱり嬉しいから。


 だから、好きだと気付いたまだこの想いは、少しずつ温めていこう。


 この先、この想いがどこに辿り着くかはわからないけど……。



 だけど、理玖くんは自分の誕生日に、こんないくつもの試練と向き合って、どれほど辛い想いをしているのだろう。


 それを考えると、あたしまで胸が痛む。


 妹のために、好きな女性のために、困ってると聞いて、素直に他の予定を断ってでもちゃんと会いに足を運んだこと。


 そして、その誕生日に、親友とその女性の無情な幸せなやり取りを見せられたこと。


 それから誕生日の終わりに、その切ない想いをあたしに打ち明けてくれたこと。


 きっと自分の誕生日にどの時間も理玖くんには決して楽しい時間ではなかったかもしれないけど。


 だけど、それでも、その選択をした理玖くんは、やっぱり優しい人なのだと思った。


 自分のことだけしか考えてない人になっちゃったのかと、ちょっと悲しく思ってたけど。


 でも、やっぱりホントの理玖くんは家族を、愛する人を、親友を、周りの人を誰にも傷つけずに、自分一人でその傷を抱える優しくて切なくて不器用な人だった。


 だから、あたしはそんな理玖くんを、初めて救ってあげたいって思った……。





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