「にしても、やっぱアボカド最高。ここのメニュー思った以上にアボカド料理あって嬉しすぎるんだけど。ねぇ、ここの全部制覇したいから今日食べれなかった分また食べに一緒に来てもらってい?」
あたしは自分のその気持ちをまた少し上げようと、さっきのサラダ以外にもいくつかそのあとに頼んだアボカド料理を食べながら理玖くんに伝える。
「ハハ。いいよ。お前が制覇するまでいつでも付き合ってやるよ」
「やった」
よかった。また一つ約束が増えた。
てか、アボカド制覇したらもう終わりなのかな。
そしたら他の料理も頼みまくって制覇しないように時間稼ぎしちゃおっかな。
それかまた食べに行きたいからまた食べに行こうっていうのもありだよね。
「実はさ。ここのアボカドのメニュー。オレの意見入ってんだよね」
すると、同じくアボカド料理を食べながら、ふと理玖くんがそんなことを言い出した。
「え!? 理玖くんの!? どれが!?」
あたしはメニューのアボカド料理を見渡して尋ねる。
「元々はさ。ここ、アボカドのメニューは入れるつもりはなかったんだよね」
「そうなんだ! でもめちゃアボカド料理あるよ?」
「そう。メニュー載せる料理考える時さ。オレも一緒にアイデア出したりしてたんだけど。そん時にちょっと他ではない珍しい女性ウケしそうなのも入れたいからなんかないかって聞かれててさ」
「うん」
「それでアボカドメニューはどうかってアイデア出した」
「え! 理玖くんよくそこでアボカドなんて思いついたね」
「うん。そん時なんかわかんないけど、沙羅がアボカド好きだって言ってたの思い出した」
「え、あたし……?」
確かにあたしのアボカド好きなのは覚えてくれてたって言ってたけど、まさかそんな時に思い出してくれたの……?
だけど、もうその頃には全然理玖くんと会う機会なくて、あたしの存在なんて忘れててもいいくらいの年月経ってたはずなのに……。
「別にお前が好きだからって世の女性が皆アボカド好きとは限らねぇのにな。でもなんでかあそこまでお前が好きだって言ってたアボカド料理がなんか気になってさ」
「そ、そうだよ。あたしが単に好きだってだけで」
「だよな」
と、共感して笑う理玖くんを見ながら、あたしはそう言いながらも嬉しさを隠せない。
普段はデートしてもらう存在になんて見てもらえなくて一切女扱いしてくれないくせに、なぜかそんな時に限って嬉しいことを思ってくれる。
あぁ~もうなんだよ。嬉しすぎるじゃないかよ~。
「だからさ。最初は何気なしに少しだけメニューに入れたんだ」
「うん」
「だけど思ったよりそれ頼む女性がやっぱ多くてさ。それから他にもメニュー増やしてったらやっぱ評判良くて。そしたら、ちょっとここの名物になるくらいアボカド料理増えてった(笑)」
「確かにアボカドは美容にもいいしヘルシーだし、案外好きな人多かったってことなんだね」
「そう。だからこんなに名物のアボカドメニュー充実してんの沙羅のおかげ」
ニッと嬉しそうにはにかんで、眩しいほどの笑顔を向けてくれる理玖くん。
あたしはなんもしてないのにそんな風に言ってもらえるなんて。
確かに理玖くんって見てないようで人のことをちゃんと見てる人なんだよな。
そして何気に話したことなんかもちゃんと覚えてる。
こっちが忘れてるくらいのことまで。
だからこそ、こうやっていろんなところに気が回ってアイデアが思い浮かぶんだろな。
そしてそれは仕事だけじゃなく、プライベートでも――。
こんな理玖くんだからこそ、きっと茉白ちゃんのことも自分の中で想ってるだけなんだろうな……。
きっと茉白ちゃんのことも、颯兄のことも、皆のことを常に気にかけてる人だから……。
あたしにもこんな甘やかしちゃってくれてるしさ。
まぁ、これも全部完全に妹的な感じでしかないけど。
でも、理玖くんの中で知らない間にあたしを思い出してくれて、そして理玖くんの初めての仕事にあたしも間接的に関わることが出来てて、理玖くんの中でずっとそういう意味で、アボカドとして存在してるだけでも、あたしはとても幸せだなって、素直にそう思う。
うん、ホントにもうアボカド沙羅に改名してもいいくらいだな。
「やっぱお前連れてきてよかったわ」
「ホント?」
「あぁ。このことも伝えたかったし、ここだとお前と話すのもオレも気が楽だし。それに、お前も気楽にここなら話せんだろ?」
もしかして、理玖くんはあたしが話しやすいような場所も選んでくれたってことかな。
「で。お前の話したいことって?」
「あ、あぁ。うん……」
“さぁどうぞ”って迎え入れられると、少し気が引けてしまう。
決して理玖くんにとっては楽しい話ではないから……。
「何? 言いにくい話? ……まぁ、このタイミングでお前が話したいことって、大体わかるけど」
「えっ……?」
「茉白と颯人のことだろ?」
すると、あたしが躊躇してるそれをドンピシャで当ててきた。
「ハハ。やっぱわかるか……」
「お前の雰囲気見てりゃな」
そっか。なんかあたしそういう雰囲気出てるのかな……。
「理玖くん。……大丈夫?」
そしてまたロビーで尋ねた言葉を、またこのタイミングで投げかける。
「ハハ。大丈夫って何。大丈夫も何も、あいつら大阪で二人で同棲するっていうんだから別にオレは何も言うことはないよ」
そう。実は颯兄が今のお店が新しく大阪に支店を出すとのことで、近々そっちの支店に行くことになったのだ。
だけど、そうなると当然茉白ちゃんとは遠距離恋愛になる。
それを颯兄が茉白ちゃんに話すと、茉白ちゃんは離れるのは耐えられないと言って、颯兄について大阪に行くことに決めたのだ。
まぁ茉白ちゃんが働いてるのもカフェだから、向こうで同じように就職探そうと思えば探せるのだと思う。
でも、二人で向こうに行ってしまうとなると、実家を出てる理玖くんでもさすがにすぐに会いに行けなくなる。
そして今まですることがなかった二人での同棲。
それも理玖くん的にはやっぱり堪えるんじゃないかなって思う。
正直二人は多分結婚まで行くんじゃないかなって思うから、そうなるとそういう状況だと、いつそういう話になってもおかしくない。
とりあえず今は大阪で同棲ということしか聞いてないし、茉白ちゃんの年齢でまだ結婚は少し早い気もするから、まだ今すぐにそういうことはないかもだけど、でも二人の絆は余計に強くなるんじゃないかな……。
「でも、今までみたいに実家帰っても茉白ちゃんいなくなっちゃうわけだし。会いたい時に会えなくなるかもだよ……?」
「フッ。今までもそんな帰ってないから同じだろ。会いたくても会わないようにしてたのはオレなんだし」
一度好きだと自分で認めてしまうと、あたしにもこんなあっさりとその気持ちを言ってしまうもんなんだな。
やっぱわざと会いたくても会わないようにしてたんだな。
「でも。同棲とか……嫌、じゃない?」
「それも……、茉白が望んだんだろ? 最初颯人は一人で行こうとしてたみたいだし。だけど、颯人もそれを受け入れたってことは、まぁそれなりのその先の覚悟してるってことなんじゃない?」
「それって……」
さすがにあたしの口からそれを言いにくくて、少し躊躇していると。
「茉白、昔っから結婚願望強かったからな。颯人さえその気になったら、多分茉白はすぐにでも結婚したいと思うよ」
少し下の方を向きながら、切なそうに笑う理玖くん。
なぜかあたしの方が胸が痛い。
「それで平気……? なわけないか……」
「まぁ……結婚しようがしまいが、茉白への想いがオレからなくなるわけじゃないから」
え……、結婚しても想い続けるってこと……?
それこそ不毛なんじゃ……。
「え……、結婚しても、変わらず好きでいるってこと……?」
「颯人と付き合った時点で何も変わらなかったんだから、多分そういうことだろうな」
諦められないのは仕方ないとは思うけど、でも理玖くん茉白ちゃんに依存してない?
ホントに他の人好きになれないのかな?
もしかしたらその気持ちが変わることだってあるかもしれないのに。
多分きっと茉白ちゃんは絶対颯兄でしかないから、理玖くんの想いが叶うことはないのだと思う。
だけど、そんな不毛な恋と、好きでもない身体だけの相手との関係を一生し続けるなんて、そんなの寂しすぎない……?
ホントはあたしのことを好きになってほしいって思うけど、でも……、もしそれも難しいなら、せめて、せめて理玖くんには普通の恋愛をして好きだと思ってもらえる人に出会ってほしい。
一方通行の想いでも、こんな風にあたしみたいに幸せだと思える時間は何度もあるとは思うけど、でも、もしかしたらあたしはまだ頑張れる可能性はあるかもしれない。
だけど、茉白ちゃんは絶対……。
どうせ自分以外の相手を理玖くんが好きでいるなら、せめて理玖くんの気持ちが報われるような相手であってほしい。
まぁ、実際そうなったらそうなったで、あたしも自分じゃない悲しさはあるとは思うけど……。