「オレさ。この会社に入った理由って、ホントは茉白が理由なんだ」
「え……? 茉白ちゃん……?」
何、どういうこと?
前に特に理由なかったって言ってなかった?
「茉白がさ。いつからかお菓子作りがすげぇ好きになって、カフェの店を持つのが夢だって言い出して。家でもバイト先でもそういうのずっと勉強しててさ。めちゃキラキラして好きな夢に向かってく姿がさ、すげぇ愛しいんだよ。そんな茉白見てたら、あぁ本気なんだなって思ったらさ、オレもなんとかしたくなって。あいつがいつかそういう店開く時、オレが手助けしてやれたらいいなって思って、実はこの会社選んだ」
何それ……。
めちゃめちゃ素敵でしっかりしたちゃんとした理由じゃん……。
しかも、めちゃめちゃ茉白ちゃん好きすぎんじゃん……。
茉白ちゃんのためにこの会社を選んでここまでの実力をつけてきたなんて、どれほど茉白ちゃんが好きで大切に想ってきたのかが、その言葉で痛いくらいわかる。
「だけど……。まさか。習いに行った教室で颯人と再会して付き合うことになるとはな……。さすがにオレもそこまでは予想してなかった……」
茉白ちゃんはその夢を叶える為にお菓子教室に通い始めて、そこで初恋の颯兄と再会して付き合うことになった。
「ハハッ……。オレが誰よりあいつの一番の力になってやりたかったんだけどな……」
悲しそうに呟く理玖くんの声が、その言葉が……切ない……。
きっと理玖くんは兄として、どんな形でも茉白ちゃんを見守りたくて力になりたかったんだろうな。
茉白ちゃんにとっても理玖くんは大好きなお兄ちゃんだったし、きっと颯兄が現れなければ、ずっと理玖くんが絶対的に一番だったかもしれない。
だけど、茉白ちゃんにとってはお兄ちゃんとしてで、いつか颯兄じゃなくても一番という存在はきっと現れるはずで。
だけど理玖くんにとっては、その一番は妹であり好きな人であるから、絶対揺らぐことはない。
だけど、颯兄が茉白ちゃんの一番になってしまった。
実際茉白ちゃんは颯兄の影響でお菓子作りもその夢も持ったのだと思うし、そういえば確かその頃からの初恋だったはず。
それなら余計に颯兄に再会してしまったら好きになってしまうことは必然だっただろうし、それは運命的にも思える。
「だけど、茉白にそんな影響持たせたのは、最初から颯人だったんだよな……。お菓子作りに興味持ちだしたのもそんな店持ちたいって思ったのも、きっと颯人がいたからなんだよな……」
なんて悲しそうに話すんだろう。
親友が好きな人のライバルだなんて、どんな苦しい状況なんだろう。
だけど、多分颯兄はそれで決して嫌われるような人ではなくて、それでも颯兄と親友でい続けてる理玖くんも、やっぱり颯兄が大切なんだとは思うから。
だけど、そこまでの思いをしてまで、茉白ちゃんを好きでいるのは辛すぎるんじゃないのかな……。
それならやっぱり茉白ちゃんじゃない人好きになった人が理玖くんだってきっと幸せになれるはず……。
「じゃあ、これからは、茉白ちゃんじゃなく、理玖くんの夢叶えなよ。茉白ちゃんには颯兄がいるんだし……」
と、あたしはつい心で思ってしまったことを口に出してしまう。
すると……。
「オレの夢は、茉白の夢を叶えることだよ。それは、颯人がいるからどうとか関係ないだろ」
あたしの言葉が気に障ったのか、今までよりかなり低い声で苛立ちを含んだ声であたしに言葉を返す。
しまった……。きっと理玖くんの機嫌そこねた……。
だけど、理玖くんがそこまでいっても茉白ちゃんでしかないことに、あたしもさすがに苛立ってきてしまう。
なんなんだよ、茉白ちゃん、茉白ちゃんって……。
理玖くんがそこまで思ってるほどの気持ち、茉白ちゃんはちゃんと気付いてる?
理玖くんはちゃんと届けてる?
何も気持ちも伝えてもないくせに、陰で支えたいとか、そんな不毛な想い持ち続けたって何もいいことないじゃん……。