「理玖くん、どこまで茉白ちゃんに依存してるの……?」
あたしは理玖くんから視線を逸らしたまま、静かに呟く。
「……は?」
あっ、これは言っちゃダメなヤツ……。
だけど……止まらない。
あまりにも理玖くんは茉白ちゃんに依存しすぎてる。
毛頭諦める気もないんだよ。
そんな気持ち茉白ちゃんが知ったらどうなる?
茉白ちゃんだって絶対苦しむよ。
それを言わない優しさが理玖くんの優しさだけど、でもだからといって、その気持ちをずっと持っていたって、誰も幸せになれない……。
「なんで……お前にそこまで言われなきゃなんないの?」
すると当然のように理玖くんの今まで聞いたことのない苛立ちでしかない声が冷たく響く。
「だって、そんな不毛な想い、このままじゃ理玖くんも誰も、幸せになれないよ……」
その冷たい言葉にくじけそうになったけど、だけど、伝えたいって思った。
ホントはそれ以外も、そうやって理玖くんに思ってること、言いたいこといっぱいあるけど。
「なんだそれ……。オレの幸せなんでお前が決めつけんの……?」
もっともだ。
あたしごときが確かにそれを言う資格も意味もないのもわかってる。
だけど、このままじゃ、誰も言わなければ、きっと理玖くんはこの状況を変えようとしない。
何があっても絶対茉白ちゃんを想い続ける。
そんな理玖くん見てられない。
理玖くんには心から自分の幸せを感じて笑ってほしい。
人のことばっか考えて自分以外を優先するんじゃなく、一番自分を大切にしてほしい。
「ただ、あたしは、理玖くんを一番大切にしてほしいって、そう思ったから……」
だから、せめてそれだけでも理玖くんに伝えたかった。
だけど……。
「お前に何がわかんだよ。茉白はオレにとってはすべてなんだよ。何よりも優先しなきゃいけない存在なんだ」
多分……。今の理玖くんに、何を言っても届かない。
今の理玖くんは、茉白ちゃん以外を見ようとしていない。
この状況であたしに応える一言一言が、冷たく突き刺さる。
茉白ちゃんを想うそれだけの想いが、理玖くんの苛立ちに変わる。
「お前は、わかってくれると思ってた……」
そして呆れたような突き放したような、消えていきそうな声で、あたしに冷たく投げつける。
きっと、あたしに話したことを理玖くんは後悔しているのかも……。
あたしまでこんな風に否定しちゃって……。
あの時、味方になるっていったのに……。
その時、初めて自分が言いすぎてしまったことを後悔して、理玖くんに謝ろうとすると……。
「悪い。帰るわ……。金払って帰るから、お前は好きなだけ食って帰れ……」
そう言って伝票を持って、席を立ち上がる。
「ちょっ、理玖くん……!」
急いで理玖くんを引き止めようとしたけど、理玖くんはあたしの方を見ずにそのまま立ち去ってしまった。
あぁ……、やっちゃった……。
ここまで言うつもりじゃなかったのに……。
だけど、ここまで茉白ちゃんに依存してるとは思わなかったから……。
あぁ……、好きになると気持ちをコントロール出来ないってホントだったんだ……。
てか、こんな時はコントロールしなきゃいけないでしょ……。
あたし、何やってんだよぉ……!
一人残されたその場所で椅子の後ろに背中からもたれかかって、自分のやらかしに後悔して脱力したまま天をあおぐ。
あぁ……理玖くんとこれからも仕事で顔合わさなきゃなのに……。
てか、なんであたし、あんなこと言っちゃったんだろう……。
理玖くんの辛さ、あたしはわかってあげなきゃいけなかったのに……。
だけど、理玖くんは茉白ちゃんを想ってたって、使命みたいに感じられて、どうしたって幸せそうには思えなかったから。
やっぱり苦しそうでしかなかったから。
あたしなんかがきっと助けられることなんてないのかもしれないけど……。
理玖くんの想いを汲んであたしだけは味方でいるべきなのか、それとも、理玖くんの幸せを願うべきなのか、あたしはどうすればいいんだろう……。
あたしも、ホントは、理玖くんが好きなのにな……。
やっぱり……、あたしのこの想いを育てることは、難しかったかな……。