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第51話 頑張る意味①


 そして一葉と来たお店は会社の近くに新しく出来たというイタリアンのお店。


 会社の近くではあるけれど、裏の方に出来たこともあってまだ会社の人はここに来るのは少なくて穴場なんだと一葉が教えてくれる。


 それからこのお店の一番人気のワンプレートランチを二人で注文する。


「ここのワンプレートランチがオシャレですごい美味しいらしくてさ~。前から来たいと思ってたんだよね~。沙羅付き合ってくれてありがとね~」


 と、誘ってくれた理由を一葉は自分的な話として、わざわざ優しさに変えてくれる。


「ありがと。一葉」


「え~あたしはここのランチが食べたかっただけだよ~」


 そう言ってわざとらしく笑う。


「まぁなんか聞いてほしい話があるなら、あたしはいつでも聞くからさ~。何か話したら楽になれる時もあるしね~。そんで何より美味しい物食べたら元気になれる!」


 そんな一葉の優しさが嬉しくて、会社にいた時より随分気持ちが落ち着いてくる。


 そしてそれを聞いて、あたしも少し一葉に話を聞いてほしいと思い始める。


「詳しいことは言えないんだけど……。ちょっとこの前から、理玖くんと気まずくなっちゃって……。あっ、それって周りから見てやっぱそう感じるってこと?」


 とりあえず一葉に話し出すも、一葉に指摘されたのを思い出して、そこまであからさまに見えてるのかと心配になって先に尋ねる。


「あっ、いや、あたしは、ホラ、高宮さんと沙羅が前から仲いい知り合いだっていうの聞いてたから、それにしたら前と二人の雰囲気が違うなぁって思っただけ。普通に先輩と後輩ってだけなら、別に仕事上の会話さえちゃんとしてたらそこまで他の人はわかってないと思う」


「そんなもんなんだ。なら、よかった」


 さすがに周りにも変に思われるほどは自分でも避けたいし、実際そこまでは周りに気付かれてないとわかって少しホッとする。


「でも、なんで急に気まずくなったの?」


 一葉が少し心配そうな表情をして聞いてくる。


「う~ん。あたしが理玖くんの開けちゃいけないパンドラの箱をつついちゃったって感じかな」


「何それ。高宮さんそんなの抱えてんの?」


「うん。案外繊細なのよあの人。意外でしょ」


「うん。意外。しかもそれつついたことで気まずくなったの?」


「そう。あぁ……、というか、理玖くん好きな人いてね」


「ほぉほぉ」


「で、あたしも気付いたら理玖くん好きになってて……」


「ほぉ。……ん!? サラッと今なんか言ったね~! え、沙羅、高宮さんのこと好きだったの!?」


 サラッと言ったそれに一葉が案の定驚いて反応する。


 てか、あたしもなんか抵抗なくサラッと今口にしてたな……。


 あぁ、やっぱあたしこうやって自分で自然に口に出来るほど理玖くんのこと好きになってるってことなんだなぁ。


「王子様探してたはずなのにね。あたしもまさかそうなるとは思ってもなかったんだけど」


 一葉にそう言ったことで、自分が王子様のような人にこだわってたことを久々思い出した。


 そうだ。あたしはこういう面倒なことが嫌で、自分だけを想ってくれるそんな紳士的な人が理想で、ずっと探してきたのに。


 なんであたしは他の女性を想ってるあんなの好きになって、こんな落ち込んでいるのだろう。


「え、沙羅は高宮さん好きになると思ってたよ?」


 すると、一葉が平然としながらそう伝える。


「嘘!?」


「いやいや、最初からめちゃフラグ立ってたじゃん。てか、すでに意識しまくってたし。でも沙羅認めてなかっただけだと思って、気付くまでとりあえず放っておいたんだけど。そうか~。ようやく自分で気付いたか~」


「そうだったんだ……」


 さすが恋愛上級者。


 そういうのも全部わかるものなのね。


「でもまぁそれよりも、その前の高宮さんに好きな人がいるって話ビックリなんだけど」


「あぁ、うん。そうなの。それで実はそれ、あたしの知ってる人なんだよね……」


「え、そうなんだ!?」


「でもその人もう付き合ってる人いるから、理玖くんの想いは届かないんだけどさ……」


「えっ、あの高宮さんがそんな不毛な恋愛してるとか信じられない」


 と、やっぱり一葉もそんな風に驚いた反応を見せるほど、社内ではそんなイメージと正反対にいるのが理玖くんなんだよね。


 しかも、他に好きな人がいる相手で、更にそれはまさかの妹だなんて……。


「それ……本人に言っちゃった……」


「え? 何を?」


「そんな想い不毛だって……」


 きっとその言葉は自分が思うならまだ自分で認めてるから受け入れることが出来る言葉なのだろうけど、他人にそれを言われることは、きっと……悲しい。


 わかっていても、他の人に言われたら否定したくなっちゃう。


 だって無理だとわかっているのに、好きな気持ちを止められないからきっと不毛な想いなんだろうし、どうしようも出来ないってきっと自分でもわかってる。


 だから、今ではわかるよ、理玖くん。


 あたしのこの気持ちを不毛だと言われたら、きっと自分だけは守ってあげたくなっちゃうと思うから……。


 あたしも今同じように不毛な相手を想ってるから……。



「あ~! なんであんなこと言っちゃったんだろ~!」


 あたしは今更後悔が襲ってきて、両手で顔を覆ってうなだれる。


「それで気まずくなっちゃったの?」


「うん……。それ言ってから不機嫌になっちゃって口聞いてくれなくなった……」


「そっかぁ……」


 初めて見た。


 あんなに冷たい視線と声をあたしに向けた理玖くんを。


 あの冷たい理玖くんが忘れられない。


 あたしにはあんな冷たい視線向けないと思ってた。


 それほど大切な想いを、それだけあたしが傷つけてしまったのだとその瞬間に気付いた。


 だけど、もう気付いた時は手遅れだった……。







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