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第52話 頑張る意味②


「まぁ、それはきっと沙羅と高宮さんの関係だから言えたのかもだけどね」


「うん。理玖くん。あぁ見えて、ホントは自分犠牲にするほど周りの人のことを考えて優先するような優しい人なの。だから、自分のその気持ち今まで誰にも言わずにいて。多分この先もあたし以外は誰にも言わないと思う……」


「えっ。いつもの高宮さんの感じならそんな相手でも余裕で奪っちゃえる感じだけど」


「確かに普段の理玖くん見てたらそう思っちゃうよね……。だけど、そんなこと出来ない相手なんだ……。理玖くんが大切に想ってる人だからきっと傷つけたくないんだと思う」


「そっか。そんな報われない大切な相手想ってるんだ……」


「うん……」


 だからこそ、あたしも苦しいんだ。


 あたし以外誰にも言えない恋を一生していくなんて。


 周りの幸せを考えるのはわかるけど、それなら理玖くんの幸せはどうなっちゃうの?


 理玖くんはホントの幸せは一生手に出来ないの?


 そんなの悲しすぎるでしょ……。


「へぇ~。そんな大事なこと、沙羅にしか話せないって、それはそれで沙羅すごく大切な存在だってことだよね」


「えっ?」


「だってそんな秘めた恋を他人に教えるのなかなか勇気いるよ? だけど、それを高宮さんは沙羅に話そうと思ったなんて、沙羅のこと信頼してるんだね~」


 一葉が何気なくそう言った言葉のように、理玖くんもそう思っているのだとしたら。


 やっぱりあたしはその理玖くんの信頼を裏切ったってことなんだ……。


「もう許してくれないかも……。そんな信頼裏切って……」


 理玖くんを傷つけた瞬間のあの胸の痛みや理玖くんを思い出すと、今も胸が苦しくなる。


「別に裏切ったとかじゃなくない?」


「だってずっと話してくれないし……。きっと怒ってるし呆れてるんだよ……。あたしだけは味方でいるって約束したのに……」


 もう二度とあたしに心開いてくれないかも……。


「それじゃない?」


「それって?」


「高宮さん。傷ついたとしたら、沙羅にじゃない?」


「えっ、なんであたし?」


「高宮さんは、沙羅だけは味方でいてくれると思ったから話してくれたのかもね。その沙羅にそうやって言われた言葉がショックだったのかも」


「そう……なのかな……。きっと後悔してるよね。あたしに話したこと……。だけど、止められなかった。自ら辛い恋愛で納得してる理玖くんがどうしても見てられなかった」


 救いたいと思ったのに、ただ理玖くんに幸せになってほしかっただけなのに、上手くその言葉を伝えられなかった。


 ただ理玖くんの気持ちを否定するだけになってしまった。


「沙羅は後悔してる?」


「えっ?」


「高宮さんにそれを言ったこと」


「そう……かもしれない。だけど、言わずにいられなかった……。誰かを好きになることって幸せなことだと思ってた。だけど、理玖くんは、そうじゃなかったから……。理玖くんにはそんな不毛な想いじゃなく幸せになってほしいって、ホントはそう言いたかった。辛い想いしてまで好きでいる恋愛も存在するんだね……」


 今までは王子様のように自分が満たされて幸せになれる恋愛にずっと憧れていた。


 だけど、理玖くんの恋愛を知って、あたしが理玖くんを好きになって、初めてそんな幸せなことばかりじゃないことを知った。


「そりゃそうだよ。幸せなことも辛いことも当然ある。だけどそういうのも全部ひっくるめて好きだと思える相手が本物の恋愛なんだよ」


「うん……。辛いことあっても好きでいられるのってすごいよね……」


 そんな想いをしてまで貫くその想いは、きっと並大抵のことじゃない。


 どんな相手と出会っても、その人しか心動かないその想いは、きっと何があっても揺るがない。


「それで。沙羅も今、そんな恋愛をしてるってことでしょ?」


「あっ……。そっか。うん、そうだね。そういうことだよね……」


 あたしも同じ立場になってから、理玖くんの気持ちが痛いほどわかってしまうなんて、皮肉で切ないけれど。


「なら。その気持ち、本人に伝えてみたら?」


「えっ!?  好きってこと!?」


「いやいや、さすがに今それは無理でしょ。まだ沙羅もその気持ち生まれたばっかのもんだし」


「うん」


「だけど。沙羅も高宮さんを想ってそれは言った言葉なんでしょ?」


「もちろん。決して否定したかったわけじゃない。だけど、あたしは理玖くん自信を大切にしてほしかったから……」


「うん。じゃあ、高宮さんのこと心配して、言ってしまった言葉だってことは、ちゃんと伝えてもいいんじゃないかな?」


「言い訳みたいにならない……?」


「ならないよ。誤解なら誤解ってちゃんと伝えた方がいい。実際二人が気まずくなってるのは確かだし。仕事でも一緒なんだから、このままってわけにもいかないだろうしさ」


「うん……。せめて誤解を解きたい……」


 どこまであたしの気持ちが届くかもわからないけど。


 また余計なお世話だと突っぱねられるだけかもしれないけど……。


 だけど、とにかくこの自分の気持ちは、ちゃんと伝えなきゃいけないって思った。





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