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第53話 頑張る意味③


「なら。今すぐ高宮さんに連絡しよう」


 すると、一葉がいきなりズバッとそんなことを言う。


「えっ!? 連絡って!?」


「善は急げ。わだかまりがある時は、一日でも早く解決した方がいい。だから、今日夜時間作ってほしいってお願いしたらどうかな?」


「あ、あぁ。そういうことか。うん。確かに、その方がいいよね……。でもあんな状態で理玖くん来てくれるかな……」


 今までなら理玖くんの気持ちなんて特に気にもしなかったし、何か伝えたとこで断られるかもしれないとか避けられる怖さなんかもなかった。


 だけど、好きになればなるほど、ちょっとしたことでも、一つ一つのことに臆病になる。


 好きでいることだけで、こんなに気持ちが行ったり来たり大変なんだ。


 自分を好きじゃないとわかっている相手を想い続ける苦しさ。


 だけど、諦められない辛さ。


 こんな切なさを理玖くんはずっと味わってきたんだな……。



「あたしはさ。沙羅にもちゃんと自分の気持ちを大事にしてほしい」


「えっ?」


 あたしが曇った表情でモヤモヤしたままでいるのを見て、一葉はまっすぐあたしを見てそんな言葉を伝える。


「沙羅が高宮さんにそう思うようにさ。あたしも沙羅には同じようにそう思うよ?  せっかく、沙羅がようやく好きだと思える人見つけたんだもん。それがたとえ理想の相手じゃなかったとしても、それを飛び越えて好きだと思える相手だと沙羅自身がちゃんと思えた人なんだからさ。あたしはそれをなかったことにしないでほしいというか、沙羅自身も頑張ってほしいって思う」


 一葉は、そう言って優しく微笑んでくれる。


「うん。ありがとう。一葉……」


 確かに、あたしもせっかく生まれたこの想いをなかったことにしたくないな……。


 先が見えないこの一方通行な想いが、どうなって行くかはわからないけど。


 でも、理玖くんを好きになった自分が、こんな状況なのにどうなっていくのか少し楽しみな自分がいる。


 ホントに好きな人と出会った自分がどうなっていくのか、たとえそれが辛い恋愛だとしても、今はまだこんなことで諦めたくないって思った。



「うん。理玖くんに連絡してみる」


 あたしは一葉に力強くそう宣言し、携帯を取り出して理玖くんのアドレスを画面に表示させる。


 なんて送ろうかとしばらく悩んで、この前理玖くんが連れていってくれた店で、仕事が終わってから待ってると、そう伝えた。


 来るまでずっと。とにかく直接謝りたいから来てほしいと。


 夜は仕事の予定は入ってないみたいだし、きっと来てくれると信じて――。



「送った!」


 あたしはメッセージを送った瞬間、一葉に伝える。


 それがなんだか自分の気持ちと背中を後押ししてくれたように感じて、さっきよりもスッキリとした自分になっているのがわかる。


「よしっ! 沙羅頑張った! 」


「うん!」


「あっ、ほら。沙羅、料理来たよ。見て~美味しそう~!」


 するとちょうどそのタイミングで、頼んでたランチプレートが目の前に並ぶ。


「ホントだ~。これはテンション上がるね~」


 目の前の美味しそうな料理を見て、あたしも自然とそう口にして笑顔になる。


「そうそう。まずは美味しいもの食べてお腹も心も満たすこと! そしたら自然といい方向になる!」


 一葉もまた笑顔でそういいながら勇気づけてくれる。


 一葉に話してよかった。


 自分一人じゃもしかしたら勇気が出なかったかもしれない。


 どうしていいかわからず、ずっとこのままになっていたかもしれない。


 理玖くんと出会って、こんな初めて気まずくなってぶつかったりしたから……。


 だけど、それが少し嬉しかったりもする自分がいる。


 今まではただ兄的感覚でしか接してこなかった理玖くんだったから、あたしと本気で言い合いするなんてことはなかった。


 だけど、今大人になって、自分の気持ちをちゃんと伝えられて、理玖くんは兄としてじゃなく、理玖くんとして気持ちをぶつけてくれた。


 それが昔とは違う、少しだけ対等になれたような、そんな気がした。


 そして、一葉に話したことで、こんな自分の気持ちも大切にしていいんだとそう思えた。



「沙羅はさ。頑張っていいと思うよ?」


 ランチプレートを食べながら一葉がサラッと呟く。


「え?」


「高宮さんがどんな相手を想ってるのかはわからないし、その想いが可能性あるのかないのかもわからないけど。でも、だからといって高宮さんに合わせて、沙羅の気持ちをなかったことにしなくていいんだからね?」


「一葉……」


 さっきまで元気いっぱい勇気づけてくれたと思ったら、今度は的確に優しくまたそんな言葉をかけてくれる。


「沙羅は自分の出来ることをすればいいと思う。それでもしかしたら高宮さんの気持ちも変わるかもしれないし」


「ハハ。変わるかなぁ~」


 そんな一葉の言葉は嬉しいけれど、あんなに茉白ちゃんへの強い想いを知ってるあたしは、そんな簡単に理玖くんの気持ちが変わるとは思えなかった。


「でも今までは沙羅も高宮さんのことなんとも思ってなかったわけでしょ?」


「あっ、うん」


「そこから高宮さんを想って動く沙羅の行動がどう高宮さんに影響するかは誰にもわかんないと思うんだよね」


「そう……なのかな」


「だからそれは全部沙羅次第だよ。沙羅がどれだけ高宮さんのことを想って動くかで変わってくる。もしかしたら可能性はゼロかもしれないけど100かもしれない。まだ始まってもいない恋愛だから、それは未知数! あたしは沙羅なら100に出来るって信じてる!」


「ハハッ。ありがと。一葉。なんかそれ聞いて勇気出てきた」


 一葉が一葉らしい言葉であたしを勇気づけようとしてくれるのが何より嬉しかった。


 だけど、それは絶対的な保障でもないのだけど、でもそれが逆にスッと心に響いた。



 ホント人の気持ちなんて誰にもどうなるかわかんないよね。


 確かに理玖くんの茉白ちゃんへの想いのように、あたしの理玖くんの想いはゼロの可能性なのかもしれない。


 だけど、相手がいる茉白ちゃんを想っている理玖くんなら、理玖くんの気持ちさえ動いてくれたら、もしかしたらあたしを好きになってもらえる可能性は出てくるかもしれない。


 あたしはそんな小さな可能性にも今は希望を持ちたい。


 それが、茉白ちゃんを好きじゃなくなったからといって、あたしじゃない他の誰かを好きになる可能性もあったとしても……。


 それなら、理玖くんが今みたいに辛い想いをしないのなら、それでもいいと思った。


 とにかく理玖くん自身が辛い想いばかりの恋愛じゃなく、幸せだと心満たされる気持ちがたくさん増えるような、そんな恋愛をしてほしいから。


 だけど、もしその可能性が自分にも少しでもあるとしたなら、あたしも頑張りたいって、そう思う。






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