そのあと、あたしは仕事の合間に会社の休憩室へと移動した。
そして休憩室にあるコーヒーマシンの前まで行き、マシンを目の前に今飲みたいモノを考える。
うちのコーヒーマシンは、コーヒーだけじゃなくほうじ茶ラテや抹茶ラテなど種類が豊富で、その日の気分によって飲みたいモノを変えられるのが嬉しい。
いつもなら仕事集中したい時はコーヒーにしがちなんだけど、なんか今は甘いので癒されたい気分なので、しっかり砂糖が入った甘い抹茶ラテにしようかな。
なんて迷っていると、隣のマシンに別の女性社員が世間話をしながら近づいてくる。
「へ~ご飯作ってあげるって言ってたの今日なんだ~」
「フフ。そうなの~。今日家来てくれるんだ~♪」
彼氏とお家デートっぽい話をしているのが聞こえて少し羨ましさを感じる。
自分もいつか好きな人にそういうの作るのも夢だったけど、今それが理玖くんなのだと気付いて、自分たちはそんな感じの雰囲気に合わないことに、少し可笑しく感じる。
そして、この前の誕生日の茉白ちゃんのすごい料理をふと思い出す。
あれだけの料理作れたら理玖くんも喜んでくれるかなって一瞬思ったけど、そもそもあれは茉白ちゃんが作ったから喜んでたのだと悲しい現実に気付き、結局最初に選んだ抹茶ラテのボタンを押す。
「え~それ脈ありっぽくない!?」
「でしょ~! 絶対他の女よりあたし優位に立ってると思うんだよね」
すると、少し思ってたことと違う考えのような言葉が聞こえてきて、少し疑問に感じて、聞いてないフリをしながら、こっそり耳を澄ます。
「え~絶対そうだよ~。他の女からそんな話全然聞かないもん。てか、高宮さんに料理作ってあげるとかマジもう彼女みたいなもんじゃ~ん」
え……、高宮……さん?
って、相手、理玖くん……だったの?
あたしとあんな風に気まずくなったのに、理玖くんは今も変わらず他の女性とそんな関係を続けて約束していることに、やっぱりショックを受ける。
そして、その人が気になって、思わずあたしはその隣の女性を盗み見る。
その人は理玖くんと似合いそうな綺麗な人で。
しかも、あたしとも茉白ちゃんとも違うカッコよくて大人な雰囲気ある人。
そして、あることに気付く。
理玖くんといい感じになってる女性がみんなこういう感じの女性ばかりだということ。
茉白ちゃんみたいな守ってあげたい可愛い感じではなく、理玖くんの隣に立ってもスタイリッシュで同じような雰囲気で、どことなく色気を感じるような……。
もしかして……、茉白ちゃんと正反対の人、選んでる……?
そっか。茉白ちゃんが好きだから同じようなタイプの人を選ぶんじゃなく、正反対の人を理玖くんは選んでるんだ。
それこそきっと割り切れる関係が出来そうな人……。
茉白ちゃんと同じタイプなら、どうしても茉白ちゃん思い出しちゃうもんね。
だけど、あたしはどっちにも当てはまらないや。
守ってあげたい可愛い雰囲気もなきゃ、大人な色気があるわけでもない。
きっと一番対象外……。
「高宮さん、彼女作らないって有名だけど、でもあたし絶対彼女になりたいんだよね~。多分それなりに高宮さんもあたし気に入ってくれてると思うし♪」
違うよ……。
理玖くんが好きなのは茉白ちゃんだよ……。
あなたじゃない。
それも茉白ちゃんを忘れるために、その場しのぎの理玖くんの気まぐれだよ。
抹茶ラテが出てくるのを見つめながら、隣で意気込んでいるその女性に、あたしは心の中で呟く。
だけど。
それでも羨ましい。
彼女になれなくても、そこまで理玖くんと距離が近いことが。
この人の手料理を食べに行くほどの仲なのかと。
そんな羨ましい気持ちが出てくる反面、あたしの知らない理玖くんを新たに知ってモヤモヤしてしょうがない。
注ぎ終わった抹茶ラテを手にして、その女性たちの話が気になって、バレないようにその女性たちの近くの席に座る。
「でも確かに高宮さんと付き合えるとか絶対勝ち組だよね~」
え、勝ち組って何。
「でっしょ~。あんな外見も中身もハイスペックとか絶対逃す手ないよね~」
は……? え?
理玖くんがハイスペックだから付き合いたいってこと?
なんだそれ……。
なら、理玖くんがそうじゃなきゃそんな風に思わないってことだよね?
理玖くんこんな風に思われてるの……?
しかも一番距離が近いっぽいこの人が……?
いや、確かに理玖くんも茉白ちゃんが好きで割り切った関係って思ってるから問題ないのかもだけど、でもなんかそんな風に理玖くんが思われてるっていうのが嫌だ……。
確かに理玖くんを真剣に好きになった方が理玖くんに相手にされないかもしれない。
それはそれで辛いかもだけど、でも、だからといって、理玖くんをそういう上辺や外面だけで判断されるのが悔しい。
なんかこういう人ばっかりがいるとしたら悲しいな……。
理玖くんの中身を見てくれてる人はいるのかな……。
あたしならそんなの関係ないのに。
理玖くんがハイスペックとかそんなんどうでもいいし、ただあたしは理玖くんといることが楽しくて心地よくて、誰といるより自分らしくいれるからなのに……。
理玖くんが理玖くんでいてくれたらそれでいいのにな……。
そんな風に考えてるうちに、重要なことに気付く。
さっきの女性、今日って言ってたよね……?
あたし、今日あの店で来てくれるまで待ってるってメッセージ送ったばっかじゃん……。
いや、あたし、なんてタイミング悪いんだ……。
でも、”理玖くんに今日手料理作る約束してる女性の話を耳にしたんで別の日にしてください”とか言えるはずもないし。
だけど、一日でも早く理玖くんと話したいのも事実だし。
ていうか、なんかそれに負けるのも嫌だな……。
ある意味、逆にそんな状況なら、あたしを選んでほしいって思った。
もしここであたしを選んでくれたら、少しはあたしにも可能性があるのかもしれないなんて、そんな賭けに出たくなった。
だから、あたしはそれを知ったうえで、理玖くんを待つことにした。
理玖くんにとって、あたしがどれくらい大切な存在なのか、優先してくれるのか、どうしても知りたくなった――。