それから仕事を終えて、この前のお店に一人やってきた。
あのガヤガヤした雰囲気に一人で来るのは少し勇気がいったけど、でもこの店なら他の女性が来ることもないし、理玖くんを待つにはきっと最適な場所。
周りを見渡せば、案外女性同士や女性一人の人もいるし、そこまで気にしなくても大丈夫そう。
とりあえずあたしは甘いお酒と、そしてまたお気に入りのアボカド料理と他にも自分好みの料理を注文する。
あ~あ、次は理玖くんに連れてきてもらうはずだったんだけどな。
これから一人でアボカド料理制覇したらどうしよう。
てか、その間に理玖くんと偶然でも会える可能性もなくはないか。
でもこんな広いお店じゃそんな偶然でも会えなかったりして。
いや、偶然って何。
なんで一緒に来れない前提で考えてしまってるんだ。
あたしと理玖くんはそんな簡単に切れない絆のはず!
そう思っていたあたしの気持ちが伝わるはずもなく、しばらく経っても理玖くんは来ない。
携帯確認しても理玖くんからは返事もない。
だけど、かろうじて既読にはなっている。
一応あたしがここにいることはわかってるってことかな……。
でもここまで返事がないことに少し、いや、かなり不安になってくる。
理玖くんこんな冷たい人になっちゃったのかな……。
それだけ茉白ちゃんのことで傷つけちゃったってことかな……。
あたしだけ勝手に絆強いだとか特別に思ってくれてるのかもとか考えてるだけで、実際は理玖くんにとってはやっぱりそれほどでもなかったりするのかな。
でも理玖くんは理玖くんなりに何か考えがあるかもだし。
とにかく理玖くんと話せるようになるまで絶対諦めないと心の中で意気込んでいたタイミングで、ようやく理玖くんからメッセージが届いた。
『ごめん。今日は予定があるから行けない』と。
ハハ。このタイミングでか。
ってか女のとこでしょ。知ってるよ。
だけど、それわかっててあたしは待ちたいんだよ。
だから、あたしは『来るまで待ってる』と、重い女ばりのメッセージを送る。
彼女でもないのにこの重いメッセージはどうかとも思ったけど、だけど、女のとこに行くならあたしを選んでほしいから、あたしがただ頑張りたいだけだから、そこは譲れない気持ちがあった。
なんか今となれば、茉白ちゃんとのことを謝りたいという気持ちもあるけど、それ以上に、理玖くんにとってあたしの存在がどれほどのものなのかを確かめたくなってる気持ちのが大きい気もして。
特に理玖くんみたいな人には、自分が頑張らないと、きっとこの好きな気持ちは一生届かない。
そしてこのお店は有難いことに深夜までやってるらしいし、明日も休みだからどうせなら来るまでマジで粘ってやる。
理玖くんが来るかわからないだけに、さすがにあたしもこの雰囲気の中じゃお酒も進んでしまう。
う~ん、次、何飲もっかな~。
お酒のメニューを見ながら次飲むお酒を迷っていると。
隣にいきなり誰かがドカッと座ってくる。
えっ! 何!? 誰か隣座ってきたんだけど!
さすがに一人でいるこの場所で、こんなことが起きると急に怖くなって恐る恐る隣を見ると……。
「え!? 理玖くん!」
隣に座ったのは、理玖くんだった。
「よかった~! 理玖くん来てくれたんだ!」
理玖くんを見ながら、あたしはホッとして思わず安心の声が出る。
「いや、お前何やってんだよ……」
喜んだ反応をしたあたしとは正反対に、理玖くんは隣に座った途端うなだれて、そう言いながら溜息をつく。
「何やってるって。理玖くん待ってた」
少し呆れ声の理玖くんに構わず、あたしはそんな理玖くんを見ながら素直に答える。
「オレ。行けないって送ったよな?」
そして見上げるように視線だけこちらに動かし、少し冷めた目であたしを見る。
「うん。あたしも来るまで待ってるって送った」
だけど、あたしも負けじと視線を合わし、強い意志を伝える。
「なら、なんで待ってんの」
「理玖くんと話がしたかったから」
あたしはそのまま理玖くんをじっと見つめ必死にその想いを伝えようとすると。
「はぁ……」
理玖くんは、あたしから視線を外し、やっぱりうなだれたまま、また呆れるかのように溜息をつく。
そんな溜息つかれるほど、迷惑だったかな……。
「ごめん。そんなに迷惑とは思ってなかった……。でも、あたし、どうしても理玖くんと話したくて……!」
そんな理玖くんを見て、さっきまでは強気でいこうと密かに思ってたのに、これ以上理玖くんを不機嫌にさせたくなくて、あたしはすぐに意思が弱くなって少しオドオドしながら伝える。
「別に迷惑とは言ってない」
「え……?」
隣で目を伏せながらボソッとそう呟く理玖くん。
「ただ。行けないって言ってんのに、来るまで待ってるとか、そんなん言われたら心配で来ないわけいかないだろ」
「心配……?」
そして思ってもいない言葉が返ってきて、あたしは思わず言葉を返す。
心配って、あたしを? なんの?