「あともう少しで出来るからそろそろ準備するね」
今までよりまた少し理玖くんと距離も気持ちも近づいたような気がして、あたしは更に気合が入る。
「あっ、ここ使うよな?」
「あっ、うん。理玖くん向こうで仕事してくれてていいよ。出来たら呼ぶから」
「あっ、悪い」
そう言って理玖くんがリビングの方へ移動してソファーまでパソコンを持っていく。
そしてどんどん作った料理が完成する。
お鍋で煮込んだミネストローネもいい感じ。
あとはトースターで焼いてるグラタンがもう少しで出来上がるから、このタイミングでスープも入れて用意するかな。
テーブルには先に出来上がったエビとアボカドのサラダも並べる。
それぞれ座る位置に並べた料理を見て、更に恋人ごっこ気分のあたしはテンションが上がる。
まさにリビングで仕事をしてる彼氏に美味しい料理を用意する彼女的な気分!
それからすべての料理が出来上がり準備も完成する。
よしっ完璧!
見た目もめちゃ豪華で美味しそう!
これはぜったい理玖くんにご褒美もらえる!
今までで一番出来がいい仕上がりに自画自賛して、そのあとの勝算を確信する。
何回も練習したっていうのもあるけど、なんだか理玖くんが近くにいてくれることで、すぐそばで理玖くんを想いながら理玖くんの存在を感じながら作れたから、自然と上手く出来上がって自分でも満足する。
「理玖くん出来たよ~!」
そしてあたしは理玖くんがどんな反応をしてくれるかワクワクしながら理玖くんを呼ぶ。
すると仕事をする手を止め、料理が並んだテーブル前まで移動してきてくれる。そして並んだ料理を前にした理玖くんが。
「うわっ、すげ~。マジこれ今沙羅が作ったの?」
「そだよ~。めちゃ頑張った!」
「すげーじゃん。ここまでしっかり作り上げると思ってなかった」
そして期待通り、いや期待以上の反応をしてくれて嬉しくなる。
「食べたらもっとすごいよ! 今日絶対うまく出来てる自信ある!」
「マジか。うん、すげーウマそう」
自信たっぷりに自慢するあたしを見て、微笑みながら反応を返してくれる理玖くん。
「よしっ。冷めないうちに早く食べよ」
「あぁ」
そして席に着こうとする理玖くんの手に持っている携帯がその瞬間鳴りだす。
んっ? 電話?
「あっ、ごめん。電話。 ……って、えっ? 颯人?」
鳴りだした携帯を確認して、呟く理玖くん。
しかもそれが颯兄?
えっ、もう何このタイミング!
颯兄にあたしの相手話してないから知らないだろうけど、応援してくれてたあたしのこの本番、今まさにこのタイミングなんだよー颯兄ー!
こんなタイミングになるなら颯兄に相手が理玖くんだと知らせておけばよかったか?とまで思えてしまう。
「もしもし? どした颯人」
そして席に着かないまま、理玖くんは少し場所をはずれ、颯兄の電話に集中する。
もう~料理冷めちゃうじゃ~ん。
「……は? え? どういうこと? 颯人。焦って興奮してるのはわかるけど、とりあえずちゃんとわかるように落ち着いて話せ」
ん? どした?
なんか颯兄取り乱してる感じ?
颯兄がそんな風になるなんて珍しいな。
そしてそれを理玖くんにはちゃんと見せてるんだ。さすが親友。
と、あたしはまだその時点でそこまで大袈裟に感じていなくて、準備出来た料理を前にしながら電話早く終わらないかなくらいの気持ちで、座るタイミングを見計らいながら終わるのを待っていた。
「いや、こっちには来てない。ていうか連絡もないけど。てか、どこか行きそうなとこ心当たりないのか?」
だけど、耳を澄まして聞いてると、呑気に考えていた状況なんかじゃなく、何か切羽詰まった状況が起きてるのだと気付く。
なんだか嫌な予感がする。
ハッキリ全部聞こえたわけでもないけど、なんとなく第六感が反応する。
嬉しかったドキドキが嫌なドキドキにどんどん変わっていく。
「あぁ。うん、わかった。何かあったらすぐ連絡して」
え……、何……。
もしかして……。
「理玖くん。どうしたの……?」
電話が終わった瞬間を見計らって、嫌なドキドキと予感を感じつつも、あたしは気付かないフリをして理玖くんに声をかける。
「茉白が、いなくなったらしい……」
理玖くんが聞いたことのないような不安そうな声であたしにそう告げる。
「え……? どういうこと……?」
「颯人と茉白、最近ちょっと言い合い多くなってきてたらしくて……。それで今日ちょっと激しいケンカみたいになって、その勢いで茉白が出て行ったって……」
え? もうすぐ二人で引っ越そうとしてるのに?
今そんな激しくモメちゃうなんて、何があったんだろう……。
だけど、それで、もしかして理玖くんは……。
「ごめん。沙羅……。オレ茉白探しに行かないと……」
……え? 探しに行く? 理玖くんが?
茉白ちゃんを……?
「なん、で……?」
あたしはいきなりの展開に納得いかなくて、つい自然と口から零れてしまう。
「いや、だって茉白、いなくなったんだぞ?」
わかってるよ。わかってるけど……。
でも、心配するのはわかるけど、今まさに料理が並んでるこのタイミングでなんの躊躇もなく茉白ちゃんを探しに行くと伝えてきた理玖くんにショックを受ける。
「なん、で、理玖くんが行くの……?」
わかってる。理玖くんならきっとそうするって。
黙って待ってるだけの人じゃないって知ってる。
だけど……、もう止まらない。
またあの時の感情がぶり返す。
あたしが理玖くんを好きだという感情が邪魔をして、理玖くんのその茉白ちゃんへの優しさも愛情も受け入れられなくなってしまう。
だけど、そう呟いたとしても、理玖くんの反応がまた怖くて目を見れずに俯いてしまう。