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第71話 恋が壊れる瞬間


「ごめん……。なんか、ちょっとこんな状況で、今そんなこと急にいわれても、正直うまく頭が整理出来ない……」


 すると、そう静かに呟きながら困った表情をして、あたしから目を逸らしたまま戸惑う理玖くん。



 そりゃいきなりの告白に理玖くんが戸惑うのも無理はないよね……。


 まさかのあたしからそんなん言われるなんて思ってもみなかっただろうし。


 それにこのタイミングでホントはいうことじゃなかった……。



 そしてさすがのこの状況で理玖くんも戸惑っているのか、そのまま反応しないままで、お互いそこからそのまま動けなくなってしまう。


 きっと実際の時間は数秒、数分だろうけど、あたしにはそれが一時間くらいに感じるほど。



「沙羅……」


「はい……」


 ようやく黙り込んでた理玖くんが口を開く。



 返事はしたものの、今から何を言われるのかが怖い……。


 そして理玖くんは掴んでいたあたしの手をそっと、ゆっくりと離し、あたしと向き合い、片方ずつそれぞれの手をギュッと握りしめる。



「オレは……茉白の代わりに、沙羅がなってほしいとは思わない。沙羅は、沙羅だから」



 すると、さっきまで戸惑って目を逸らしていた理玖くんが、今度はあたしの目をじっと見つめながらそう言った。


 その言葉も、握り返してくれた手も、さっきのあたしとは正反対な想いが存在しているのだとわかってしまう。


 それで、さすがのあたしも、理玖くんにとってきっと自分じゃダメなんだということだとわかった……。



 ホントのとこをいえば、茉白ちゃんの代わりになりたいとは思わないけど、でも理玖くんのその茉白ちゃんへの想いは、あたしに少しでも向けてほしかった。


 ただ、あたしは、その好きだという想いを、受け止めてほしかっただけなのに……。


 好きになってもらえないことなんてわかってる。


 茉白ちゃんに適わないことだってわかってる。


 だけど、ただ、せめて。


 あたしのその想いに一瞬でも、向き合ってほしかった……。



 あたしがあたしでいて、理玖くんに好きになってもらえたならどんなによかっただろう。


 茉白ちゃんじゃなく、あたしがいいのだと言ってもらえたら、どれだけ幸せだっただろう。


 だけど、理玖くんのこの言葉は、きっとあれほど好きな茉白ちゃんの代わりは誰にも出来ないのだと、そう伝えたいのだと思った。



 そしてそれ以上何も言えなくなったあたしを見て、静かにあたしを握っていた手をゆっくり離す理玖くん。


 そして玄関の方へ向き、あたしに背中を向ける。



「沙羅だけは……そういう風には思いたくない……」


 こちらを振り向かないまま、小さくボソッと理玖くんはそんな残酷な言葉を背中越しに呟いた。



 あぁ、なんて悲しいフラれ方なんだろう。


 茉白ちゃんしかダメなことはわかっていた。


 だけど、今日一日理玖くんと過ごして、少しくらいはあたしに気持ちを向けてくれているのだと思った。


 なのに、最後にそんな残酷な言葉を突きつけられるなんて……。


 茉白ちゃんがいいからじゃない。


 茉白ちゃんしかダメなんじゃない。



 ……あたしだから、ダメなんだ……。


 そんな残酷なことある……?


 ただ好きでいたかっただけなのに。


 妹でもいいと思ってたのに。


 あたしがあたしでいることで、理玖くんには好きになってもらえないんだ。


 あたしだから好きになってもらえないんだ……。


 あまりにも胸が痛い辛すぎる現実に、さすがに涙が溢れて止まらない。


 なんとか声を押し殺して、溢れてくる涙と必死に闘う。


 よかった。理玖くん、背中向けてて……。


 理玖くんの前では元気な自分でいたい。


 勝手に好きになって勝手に泣くようなこんな面倒なあたしを見られたくない。



「鍵。ここ置いとくから、適当に帰って……。鍵はまた会社で返してくれたらいいから……」


 あたしはそんな理玖くんの言葉に、何も言えないまま、ただそのまま立ちすくむ。


「料理はそのまま置いておいて……。ホント、ごめん……」


 そうあたしに呟いて、理玖くんはそれから振り向かないまま、茉白ちゃんを探しに部屋を出て行った。





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