何度も呟いた”ごめん”という、その無情な言葉が、理玖くんがいなくなったこの部屋で、何度もリフレインする。
何度も否定されたその想いは、とうとう粉々になって壊れてしまった。
ようやく決心して伝えたその好きという想いは、まるでこの世に存在してなかったかのように、あっさりとはかなく消えてしまった。
あたしの心の中では、まだこんなにも強く残っているのに。
なかったことにされた今でさえ、理玖くんが好きでたまらないのに……。
だけど、とうとう気持ちを伝えても、理玖くんの気持ちまでは変えることが出来なくて、虚しさと悲しさと辛さと、痛い感情だけが残ってしまった。
さっきまであんなにあたしだけに笑顔も優しさも向けてくれていたのに。
あんなにあたしの作る料理、楽しみだって言ってくれてたのに。
虚しくテーブルに二つずつ並んだ料理を見て、さすがに悲しさがまた一気に込み上げてくる。
だけど、このままこの料理がなかったことになるのは、あまりにも可哀想で。
せめて頑張ったことを知ってるあたしだけは、自分で自分を褒めてあげたくて、あたしは込み上げてくる涙をこらえながら、料理を前にして席に着いた。
「あ~! もうすっごい美味しそう!」
あたしは誰もいない部屋で大きな声を出して、一人呟く。
「いただきます!」
悔しくて。悲しくて。
頑張ったさっきまでの自分を思い出しながら、料理を口に運ぶ。
「やっば。めちゃ美味しすぎる」
あまりのショックにホントは食べる気持ちにもなれないのが本音だけど、あたしはこの料理もなかったことにするのが嫌で、必死にすべての料理を口に運ぶ。
「あー。もう全部冷めちゃってんじゃん……」
流れてくる涙をそのままにしながら、あたしは冷たくなったグラタンとスープを味わう。
理玖くん好きなエビもいっぱい使ったのにな。
あー、全部今までで一番美味しいや……。
だけど、なんかしょっぱい。
おかしいな。涙の成分は入れてなかったのにな。
入れてなかったらホントちょうど絶妙に美味しい味なんだけどな。
これなら絶対ご褒美もらえてたよ……。
目の前で”美味しい”って絶対微笑んでもらってたよ……。
あー、そんな理玖くん見たかったなー!
そんなことを妄想すれば妄想するほど涙が止まらない。
上を向いて顔を上げても、涙は流れ続ける。
恋愛って、こんなキツくて、こんな悲しくて痛いモノなんだ……。
だけど、さっきまでホント楽しくて幸せだったな……。
理玖くんのこと、何度も好きだって思った。
何度も好きになってよかったって思った。
理玖くんを好きになるために、あたしは今まで本物の恋に出会えなかったんだと、それほどまでに思った。
だけど……。
そんな幸せを上回ってしまうくらい、この失恋は痛くて辛い……。
片想いでも幸せだと思っていたはずなのに、こんなにハッキリと受け入れてもらえないのは正直もうしんどい。
自分だけを見てくれるあの視線を、あの感情を知ってしまうと、もっとって望んでしまって、誰より特別な感情を自分に向けてほしいと願ってしまう。
ホントはどこかで自分のモノになんてならないことくらいわかっていたはずなのに。
だけど、なんでか頑張れるかもしれないって思った。
もしかしたらと期待してしまった。
それは茉白ちゃんじゃないからじゃなく、あたしだから、ダメだったってことだったんだな……。
理玖くんはあたしだから好きになれないってことか……。
あんな風に言われたけど、でもきっとあれも理玖くんの優しさ。
茉白ちゃんが好きだからこそ、恋愛なんて感情であたしを見たくないんだと思った。
きっとずっと理玖くんの中で、あたしは妹的存在でしか思いたくないということも、ホントはわかってたのに。
決してあたしを嫌いじゃないことはわかってるから。
理玖くんが今まであたしに接してきた態度も言葉も優しさも全部嘘じゃないのもわかっているから。
あたしは理玖くんに恋愛感情なんて持ってはいけなかった。
ずっと理玖くんの味方でいなきゃいけなかった。
あたしだけは、理玖くんのその気持ちをわかってあげるべきだったのに……。
きっとあたしはあたしで妹でいれば、きっと理玖くんはこれからも受け入れてくれるはず。
だから……。
もう、なかったことにしよう。
この告白も、この理玖くんへの想いも。
せめてあたしだけは、この気持ちを大事にしてあげたかったけど。
さすがにここまで頑張って作った料理を食べてもらえなかったのは、相当堪える……。
何が恋人ごっこだよ。そんなの全然出来てもないじゃん……。
バカみたい……。