どんなに悲しいことがあっても、次の日はやってきて。
どんなに辛いことがあっても、今あることを投げ出すことは出来ない……。
理玖くんとあんなことになってしまってから週が空けて、その辛い現実を抱えながらも、あたしは理玖くんと同じ職場で後輩で、そんな現実を投げ出すことも出来ず、いつもと変わらず会社に出勤している。
一つだけ救われたのは、あの日が土曜日だったということ。
正直日曜日は辛すぎて一日中部屋に引きこもって泣き明かした。
そのおかげで少し落ち着けたのも確かで。
そして、報われない希望もないこの理玖くんへの想いをようやく諦めようと思えるようになった。
さすがにすぐには100%気持ちが切り替えられるはずもなくて、出来る限りのことになってしまうけど、あたしはとにかくあの日のことも好きという事実も無かったことにしようと、そう思えるように努力をしようと心の中でそう決めた。
部署に入ると、いつもは遅い理玖くんの姿がなぜだかあって。
正直、理玖くんと顔を合わさないようにしようとしていただけに、先にいる理玖くんの姿に戸惑ってしまう。
タイミング良く、他の人と話している理玖くんに気付かれないように自分の席に着こうとしたのに。
「楠。おはよう」
なぜだか理玖くんからわざわざあたしのデスクまで来て、あたしに声をかけてくる。
はっ? なんで!?
いつもはわざわざこんなことしないくせに。
来てほしくない時に限って、なんでこんな風に自分から来るの!?
いつもと違う理玖くんに戸惑いながらも。
「おはようございます」
あたしはまだ気持ちをすぐには切り替えられなくて、目を合わさずに挨拶を返す。
席について、仕事の準備をしていると、なぜか理玖くんはまだそばから離れようとしない。
「あのさ、楠……」
そしてまた理玖くんが声をかける。
「……はい……」
あたしは理玖くんの方を見ないまま仕事の手を動かして返事をする。
「ちょっと昼休み話せねぇかな……」
昼休み……? えっ、なんで……?
怖い……。これ以上理玖くんと話すことなんてあたしは何もない。
「あぁ……。すいません。昼休みは先約があって」
特に予定もないのに、あたしは理玖くんと話す勇気がなくて嘘をつく。
「なら。今日、仕事終わってから、時間作ってくれないか……?」
え……。仕事終わってから……?
なぜかそこまで言ってくる理玖くんを不思議に感じつつ、あたしはまだ自分の気持ちにきっちり向き合えてなくて。
「すいません。夜も先約があるので……」
そしてまたあたしは嘘を重ねる。
「あぁ……。そっか。わかった。じゃあまた誘うわ」
そう残念そうに呟きながら理玖くんがその場を離れる。
はっ? なんで、そんな残念そうに言うの……?
また誘うって何……?
理玖くんの謎すぎる行動にあたしは一人また動揺する。
「おっはよ。沙羅」
すると、一葉が明るく声をかけてくる。
「うぅ~、一葉~ぁぁ! 助けてぇぇ~」
あたしは一葉の顔を見た瞬間、気持ちが溢れて、来た早々泣きついてしまう。
「おわっ、どしたどした!? えっ、昼休みどっかランチ食べ行く?」
「うん……。その時話聞いてほしい……」
「了解。じゃあ話しやすいお店ちょっと探しとくね」
「うん……。お願いします……」
どうしていいかわからない状況に、あたしは一葉にすがりつくしかなかった。