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第77話 〔理玖side〕今になって知る想い


〔理玖side〕



「理玖。土曜は悪かったな。いろいろ心配かけて」


「いや、何事もなかったんならよかったよ」


 その日の夜。


 沙羅に断られて少しガッカリしていると、颯人から飲みの誘いの連絡が来て、颯人と飲むことになった。


「オレも茉白とはあんなに言い合いになるの初めてだったから、ちょっと焦ってさ。思わず理玖にあんな電話かけちゃって、理玖もすぐ探しに出てくれたみたいだけど、急であの時予定なかったのか?」


「あぁ……。いや、まぁ、うん」


 ホントはあの時、沙羅と一緒にいて、それであいつを傷つけることになったなんて、こいつには死んでも言えねぇ……。


 こう見えてこいつも沙羅可愛がってるからな。


 変な男は沙羅に必要ないって言ってるうえに、それで颯人を理想化してんならそれでいいとまで自分で言うくらいのヤツだし。


 こいつも大概妹に過保護だよな。


「まぁ全部、オレが茉白を思ってしたことが、茉白にとってはそうじゃなかったって話なんだけど。それでもやっぱ言葉にしないとダメなんだよな。お互い自分の中で思ってるだけで、お互い伝え合わなきゃさ。ただ誤解が大きくなってすれ違ってくだけなんだよ。言葉にすればなんてことないことなのにさ。今回で、それがすげぇよくわかったよ」


 颯人は、その時の茉白とのことを思いながら、オレにそう語る。


「お前でもそんなんになんだな。オレ以上にお前はちゃんと言葉にしてると思ったけど」


 いつもと違う言葉を呟く颯人が意外で、そう言葉を返す。


「そりゃお前よりかはな。だけど、自分がそう思ってるってだけでさ。それが相手の望んでることかはわからない。自分がどうしてそう思ったのか、ホントはどうしたかったのか、相手もどう考えてるのかを、ちゃんと話合わなきゃさ、結局なんも意味ないってことなんだよな」


「へぇ~そういうもんなんだ」


「そうだよ。お前も言葉足らずで、たくさんの女泣かせてきてんじゃないの?いい加減相手の気持ちも考えろよ」


「うるせぇよ。ちゃんと考えてるよ」


 そう言いながら、オレはすぐにあの時の沙羅の泣き顔が思い浮かぶ。


 ちゃんと考えてるとか言いながら、あの時は、全然沙羅の気持ちなんて考えられてなくて。


 あの涙の意味も、あの告白も、どれだけ本気でどれだけ意味があったのか、オレはまだ確かめられないままでいる。


 正直、沙羅がいきなり好きだと言ってきたことを信じられない自分がいた。


 ずっと一緒にいたのに、そんな気持ち全然気付かなかったし、いつから?


 どんなタイミングで? 何をきっかけに?


 あんなにオレだけは好きにならないと豪語していた沙羅が、なんでオレを好きになったのかがわからない。


 そう思いながらも、あの時の辛そうな泣き顔の沙羅は、決して軽い感じじゃなく、今まで見たことないほど悲しそうな表情をしていたことで、それなりに自分への想いは嘘じゃないんだとわかる。


 そんなことを一つずつ気付いていくことで、どれだけ沙羅を傷つけたのかはわからないけど、今の沙羅を放っておけなくて、オレは今朝いつも以上に早く出勤して、沙羅を待ち構えて、話をしようと誘ってみた。


 そんな今更のオレの態度に、沙羅はオレと視線も合わさないどころか、案の定冷たく断り、そんな沙羅を見て、ホントに沙羅を傷つけたんだなと気付いた。


 沙羅がもしその誘いを受けたところで、オレはどうしたいのか気持ちが固まっているわけでもなかったけど、だけどなんとなくこのままじゃダメな気がして、沙羅に声をかけたけど実際断られるし、そんな沙羅にショックを受けている自分もいた。


「あっ、そうそう。泣いてるって言えばさ。うちの沙羅が週末大変だったみたいでさ~」


「えっ!?」


 颯人が何気なく言ったその言葉に、オレは動揺して思わず反応する。


「ん? どした理玖。そんな驚いて」


「いや、別に……」


 えっ、沙羅、オレとのこと颯人のこと話したとかじゃないよな……?


「いや、あいつさ~。好きな男最近出来たみたいで。先週実家に帰った時、その男のために手料理振る舞うんだ~ってめっちゃ張り切っててさ。うちの母親も巻き込んで毎日めちゃめちゃ特訓してたみたいなんだよね」


「えっ……」


「でもあいつ今までそんな本格的に料理したことなかったから、まぁまともに出来るまで大変だったみたいで。味見した父親は、最初は食べられたもんじゃないって言ってたくらい(笑)」


「へ、へぇ……」


「だけど沙羅、そいつのこと本気で好きみたいでさぁ。片想いだけど初めて好きになった相手だし、絶対好きになってもらいたいからってマジで頑張ってて。我が妹ながらその努力がホント涙ぐましくて、もう抱きしめてやりたくなるくらいのいじらしさだったよ」


 颯人は酒を飲みながら嬉しそうに笑いながら語る。


 なのにオレはその話を聞いてる時も動揺しまくって、頭を殴られたような衝撃になる。


 そこまでオレのこと好きだったってことだよな……。


 間違いなくあの時、沙羅はオレのために料理を作ったと言った。


 好きな相手はオレだと言った。


 だったらそういうことだよな……。


 何気なく颯人から聞く沙羅の話は、今のオレにはあまりにも胸が痛む話で……。


 そんな沙羅の想いを、オレはあんな風に無碍に……。


「あぁ。それであいつ、オレにお願いしてきたんだよ。その男のためにデザートまで楽しんでほしいから本格的なの作りたいからって。それで、流れで近くにいるお前ならどういうものか好きか参考がてらに聞いてきたから、コーヒーゼリー好きだって伝えたら、それでいいから教えてって言ってきてさぁ。相手、理玖じゃないと意味ないのにな。あいつそれでいいって言い張るから、結局それ作って教えたんだよね。実際作ったの食ったら結構上手く出来てて。あっ、理玖も今度作ってもらえよ。沙羅見直すぞ」


 あぁ、なんだこれ。


 すげぇ胸がいてぇ……。


 あのコーヒーゼリーもそんな意味があったのか……。


 それであんなウマかったのか……。


 あいつそこまでして……。


 時間が経てば経つほど、沙羅の一途な想いをどんどん知っていく。


 そしてどれだけオレは酷いことをしたんだろうと、後悔が襲ってくる。


 ホントなら、その想いも全部受け止めてやれるはずだったのに。





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