〔理玖side〕
「だけどさ。その男にどうもフラれたみたいで。日曜、実家帰った時さ、あいつ自分の部屋から一歩も出てこなくて。母親から聞いた話だと、ずっと泣き明かしてたらしい。まぁ確かに初めて好きになった男だし、そうなっちゃうかもだよな。だけど、料理まで作らせて結局その男フるとかどんだけ沙羅振り回してんだよって話。沙羅はそれだけ一途に尽くしたのに、それなら最初からその気ある素振りすんなって話だよ。あっ、それでさぁ茉白が……」
隣で沙羅のことを思って愚痴ってる颯人の話を聞いて、また胸がさっき以上に痛む。
沙羅のそんな姿を想像出来るだけに、オレはどこまで傷つけたのかを思い知る。
ホントはあの時、すべて何気なくしたことだった。
いつものように無意識に茉白を気にかけて探しに出たことも、オレの中では今まで当たり前になっていたことだから。
それに小さな意味とか大きな意味とかあるわけでもなくて、ただいつもと同じなだけだった。
沙羅の気持ちを受け入れなかったのは、ただそんなに沙羅の気持ちを重く感じていなくて、その言葉にそれほどの深い意味はないと思っていたから。
別にそんなことで沙羅との関係が壊れるとは思っていなかったから。
そんなことで沙羅が傷ついてしまうなんて思っていなかったから。
オレにとって、ただあの時の言動は、それほど重い意味は何一つなかった。
だけど沙羅にとっては、きっとあの日は大きな意味があって、その気持ちを胸に秘めながらオレとの時間を過ごしていたということで。
その楽しみも努力も頑張りも想いも、すべてオレが壊した……。
考えれば考えるほど、後悔でしかなくて、叶うことならあの時に戻ってもう一度やり直したいとさえ思う……。
そんな沙羅の想いを知れば知るほど、沙羅への想いも募っていく。
「おい。理玖。聞いてる?」
「えっ……?」
すると、隣で颯人が話しかけていたことに気付く。
「酒なくなったから、どうする?って。 オレ頼むけど同じの一緒に頼む?」
「あ、あぁ。そうして」
「おぉ」
沙羅のことを考えていると、颯人が不思議そうに声をかけてきて。
正直沙羅のことで頭がいっぱいで、全然いつ声かけられたかも気付かなかった。
「てか、珍しいな。理玖がそんなボーッとすんの。茉白との話も必死でオレ話してたの全然聞いてなかったろ」
「あぁ、悪い。全然聞いてなかった……」
「お前なぁ~(笑)」
そうなんだ……。颯人、茉白とのこと話してたのか……。
マジで全然聞こえてなかった。
いつもなら颯人が話す茉白の話はちゃんと聞こうとしてたのに。
正直二人の話を聞くことは苦しい部分もあったけど、でもお互いホントに想い合っているのはわかっていたから、颯人の茉白の話は、相手がオレじゃないとわかっているから、兄として安心して任せられる嬉しさみたいなのもあった。
だから、茉白の話に耳を傾けないことなんて今までも一度もなかった。
それより、今は、沙羅が気になって仕方ない……。
今、沙羅は何をしてる?
まだ辛い想いしてる?
まだオレが好き……?
なぜだか沙羅のことが頭から離れなくて、問いかけることも出来ないその言葉を延々と頭の中で繰り返している。
「何……? お前が茉白以上に気にかけることって、よっぽどだよな。そんな深刻な話? あっ、もしかして、本気で好きな女でも出来た?」
「いや、まさか……。ただ、オレの何気ない言動で傷つけてしまった子が一人いて。正直後悔してる……」
「え……? 沙羅の話聞いて、お前までなんか深刻な話思い出した感じ?」
「まぁ……」
「お前がそこまで後悔するって、その子に何したの?」
「その子の想いというか努力をちゃんと受け入れなかったというか……。実際そこまで深く考えてなかったんだ。オレにとってそこまで意味あることじゃなかった。だけど、その子にとっては多分傷つく形になって……」
「それってさぁ。別にお前今までしてきたことなんじゃないの?」
「えっ?」
「本気になる気はなくて、気持ちを向けてきた相手にみんなそうしてきたんだろ?」
「いや、それは……」
確かに今までの女たちはそうだった。
それで成り立っていたし、相手もそれでいいと納得していたから。
それ以上望まれると、オレから離れていったし、そこでなんの後悔もなかった。
茉白以外の想いなんて、なんの意味もなく、何も気にすることはなかった。
「でも、その子はお前にとって違ったってことだよな?」
「あぁ、うん」
だけど沙羅は最初から他の女とは違ったから。
沙羅だけはそんな扱いすることはないと思っていたし、したくなかった。
「で。その子のことが気になって仕方ないと」
「まぁ……」
「それってさ。そういうことだろ」
「そういうことって……?」
「その子のことお前が好きだってことなんじゃないの?」