目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第81話 〔理玖side〕素直になったその先に


〔理玖side〕


「なら……。もしかしたらオレが電話しなきゃ、お前も自分自身でちゃんとあの日に沙羅への気持ちに気付けて、沙羅も傷つけることもなかったかもしれないよな……」


「いや、それがなかったら、沙羅への気持ちも気付けなかったかも」


「あぁ、まぁ……」


「多分、沙羅もホントはオレに気持ち伝えるつもりじゃなかったんだと思う」


「あぁ、そっか……。確かに沙羅は自分より周りの人間を優先するやつだからな。そうすると沙羅はお前に気持ち伝えなかったかもだよな」


「案外あいつ周りの顔色伺って、ホントに言いたいことは言わなくて飲み込むやつだったから……」


「うん。沙羅ならきっとそうだろうな。だから、そんな沙羅が、例え勢いでもお前に気持ちを伝えたっていうのは、相当の覚悟だったと思うぞ」


「わかってる……。そこまで沙羅を傷つけなきゃ自分の気持ちに気付くこと出来ないとか、マジで情けないけど……」


 結局はそこまで沙羅を追い込んだのはオレだし、オレの勝手な言い分でしかないけど。


 それでも、なんとなくここまでにならないとオレと沙羅の関係は結局変わらないままだったんじゃないかとも思う。


 それが颯人は兄としてどう感じるか……。


 ただそれをオレはどんな意見でもちゃんと受け止めるしかない。


「そっか……。お前の気持ちはわかった。なら、ちゃんと全部それ沙羅に伝えろ。オレは兄としてお前ら二人を見守るから」


 結局颯人はオレを怒りもせず、そんな言葉をかけてくれた。



「あぁ……。ちゃんと伝えるよ」


「まぁでもとりあえずは、傷ついた沙羅をどうにかしないとだな。沙羅はそんなお前の気持ち知らないわけだし、完全にフラれたと思ってるわけだから。あいつにそのお前の気持ちわかってもらうの、相当大変だとは思うけど。あぁ見えてあいつちょっと頑固なとこあるから」


「うん、わかってる。それだけのことしてしまったことはちゃんと理解してる……」


 今更好きだとか気付いても、沙羅を傷つけてしまったことには変わりなくて。


 あんな風に傷つけたところで今更沙羅が好きだと伝えても、説得力もないことも虫が良すぎるのもわかってる。


 だからこそ、沙羅にどうやって向き合うべきか、どう伝えるべきかオレはちゃんと考えなきゃいけない。


「沙羅は絶対オレが守るから。絶対オレが大切にする。兄貴のお前にちゃんと今から約束しておく」


 オレは颯人の目を見ながらしっかりと意志を伝える。


「ん。それ聞いて安心したよ。お前なら沙羅を安心して任せられる」


 そして颯人もまっすぐオレを見て微笑んでそう伝えてくれる。


「ありがと。颯人」


「おぉ。まぁここからまたお前の新たな試練だな。本物の恋愛に出会って本気でぶつかる相手が出来た喜びと難しさをお前も存分に味わえ」


 颯人は嬉しそうにオレの背中をバンと叩いて、気合と激励を入れる。


「ハハ。そうだな」


「まぁきっと沙羅はどうあがいてもお前を好きなままだと思うよ。今思えば沙羅は昔からお前に異常に懐いてたし、多分小さい頃の初恋もお前だからな」


「何それ」


「いや、オレがお前を初めて沙羅に紹介した時、あいつ多分お前に一目惚れしてたよ。 ”あの王子様みたいなカッコいい人また来る?” って、あの頃すげぇオレに聞いてきてたから(笑)」


「えっ!? そうなの!?」


 そんな初めて聞く話を耳にして、オレは思わず驚いて飲んでいた酒を吹き出しそうになる。


「だからなんだかんだ言って、沙羅はお前のこといくつになっても気に入ってんだとオレは思ってたよ」


「そうなんだ……。あいつオレだけは好きにならないって散々ボロクソ言ってたけど」


「ハハ。それも愛情の裏返しだよ。てかそれはお前の女癖悪いのも原因だからな」


「まぁそれはそうだよな」


「だから、沙羅がお前を好きになることは予想出来てたし、あいつも多分初めてのそんな想いに戸惑ってるんだと思う。尚且つ、お前にそうやってフラれたわけだし? あいつもさすがにそれ受け入れるのは、たやすいことじゃなかったと思うからさ。お前は根気よく沙羅にその気持ちわかるまで伝えるしかないんじゃない?」


「だよな。そういうことだよな……」


「まぁ。こっからまた大変だとは思うけど、オレはお前らの関係が本物になっていく過程を見守ってるわ」


 そう言って颯人が満足そうに微笑んだ。


 それから颯人と飲んだ酒は、いつも以上に、いや今までで一番ウマく感じて。


 沙羅との問題はこれから解決すべきことだけど、まずは颯人とこんな風になんのしがらもみ後ろめたさもなんの擦れた思いなく堂々と腹割って酒を飲めたことが何より嬉しかった。


 それでいて初めて芽生えたこの自分の少し照れくさい素直な沙羅への感情に少し喜びも感じた。





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?