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第82話 〔理玖side〕縮まらない距離と心


〔理玖side〕



 そんな時、電話に営業先から連絡が入って、オレは店を一度出てその電話に対応する。


 そして、電話が終わり、その画面を切りながら店に戻ると、その瞬間誰かとぶつかる。


「うわっ! すいません」


「いえ! こちらこそ!」


 なんだか聞き覚えのあるその声に、オレは思わず顔を上げる。


「えっ、沙羅?」


「理玖くん!?」


 そこには好きだと気付いて間もないその相手が、驚きながらオレの目の前に立っていた。


「お前、なんでここに……」


「理玖くんこそ……」


 お互い驚きながらも言葉を交わす。


「オレは今颯人と飲んでて……」


「あっ、颯兄と一緒なんだ……」


「沙羅は?  あぁ、そっか。お前先約あったんだっけ」


「あっ、いや。うん。まぁ……」


 いきなり意図せず会ったことで、沙羅に普通に会話出来ることに少し安心する。


 だけど、沙羅はオレの問いかけに濁した反応を示す。


 でも今会うってことはなんか意味あるってことだろ。


 この感じだと沙羅とそのまま話せそうだし、どうにか誤解解けるようになんとか沙羅と話を……。


「あのさ。沙羅……」


「え……?」


 オレの言葉に耳を傾けようとしてくれた矢先。


「楠さん。大丈夫?」


 別の方向から沙羅に声をかける男がやってきた。


「あっ、早川くん。うん、もう平気」


 早川くん……?  誰だよ、この男。


「気分悪いならオレ皆にそう言うけど……」


「あっ、もう大丈夫」


「ホントに? 楠さん無理してない? オレ送っていこうか?」


 二人のやりとりを聞いて、また酔っているんだと察する。


「お前、また酔っぱらってんのか……?」


「理玖くんには、関係ないよ……」


 オレの心配を余所に、沙羅は冷たく突き放す。


「でもお前……」


 オレが話しかけようとすると。


「ごめん早川くん。ありがと。でもホント大丈夫だよ。みんなのとこに一緒に戻ろ」


「そっ?」


「うん……」


 その男が来た瞬間、沙羅はオレへの気持ちを閉ざすようにまた目を背ける。

 そしてその知らない男の腕に触れ、一緒に戻るように促しながら、一瞬オレを見て、そのままその場所へと戻っていこうとする。



 その瞬間。


「沙羅……」


 沙羅の腕を掴み、オレは引き止める。


「ごめん。戻らないと……」


 目を伏せながら掴まれた瞬間、一瞬驚いてオレを見るも、また目を伏せオレを拒絶するかのように言葉を返して、その手をそっとふりほどこうとする。


 だけど、オレは力強く沙羅の腕を掴んだまま。


「沙羅。一度話させて?」


 オレは沙羅にその言葉を伝える。


 まずはこの関係修復しないと。


 まずは話をしないとどうにもならない。


「あたしは……。もう話なんて、何もないから……」


 また沙羅は冷たく言い放つ。


「沙羅。オレは……」


 それならこの場で何か伝えられることだけでもと思って伝えようとするも。


 少し前を歩いていたその男が沙羅が来ないのに気付いて。


「楠さん。どうしたの? 誰? この人」


「あっ、ごめん。なんでもない。ちょっとした知り合い。もう用終わったから行こっ」


 そう言ってその男には優しく微笑み返す沙羅。


 ハハッ……。知り合い? オレの用はなんも終わっちゃいないんだけど。


 そう言いたい気持ちをグッとこらえながら、またその手をそっとふりほどく沙羅を仕方なく受け入れる。


 なんだよ、それ。


 なんだよ、その男……。


 虚しく取り残されたオレは、虚しくその男と去っていく沙羅を見つめる。


 はっ? なんで男といんの?


 全然悲しがってねぇじゃん。あいつホントにオレ好きだったのかよ。


 なんですぐ別の男と一緒にいれんの?


 オレは溢れてくるイラつきを抑えられないまま、颯人の元へと戻る。



「えっ、何!? なんでお前そんなイラついてんの!? 仕事でトラブル!?」


 イラつきながらドカッと勢いよく座ったオレに驚いて颯人が尋ねる。


「違う……。今、沙羅がいた」


 オレはボソッと呟く。


「えっ? 沙羅? どこに?」


「この店に。知らない男といた」


 オレはイラつきながらその現状を伝える。


「えっ? 何それ」


「知らねぇよ……」


「フッ。お前早速イラついてんじゃん(笑)」


「てか、あいつまた酔っぱらってんのかも。兄貴のお前が連れて帰れよ」


「はっ? なんでだよ」


「オレが言っても今のあいつじゃ聞かねぇだろ……」


 さっきの沙羅の態度を思い出してそう言うしかない自分にもまた腹が立つ。


「沙羅と話そうとしたの?」


「そうしようとしたけど、そいつに邪魔されて沙羅にもそのまま拒否られた……」


「フフッ。かっこわりぃ(笑)」


「んなの、わかってるよ……」


 あの状況であんな風にオレを拒否る沙羅を見て、沙羅の傷は相当深いのだと知る。


 だけど、なんですぐに別の男?


 あいつの気持ちがさっぱりわかんねぇ。


「あれ? もしかして、あそこにいんの沙羅?」


 レジの方に向かっていく沙羅の姿を見つけ颯人がオレに確認する。


「あっ、そう。あれ沙羅だわ」


「じゃああの隣にいる男がさっき一緒にいたって男……?」


「あっ……」


 さっきの男が沙羅と一緒に店の出口に向かう。


「おい、いいのか理玖。沙羅、ホントにあの男と一緒にどっか行きそうだぞ?」


 颯人がその状況を見てオレに声をかける。


「わかってる……。でもあいつ、多分またオレを無視すると思うし……」


「何、弱気になってんだよ。オレも一緒に今日は実家帰るからお前沙羅引き止めろ。会計はこっちでしとくから」


 と、オレの背中を押しながら、沙羅の方へと促す颯人。


「悪い。颯人」


 オレは颯人に声をかけ、急いで沙羅のあとを追いかける。






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