「お前には全然問題ないんだ? オレとこうやってずーっとこんな距離作って赤の他人みたいに過ごしていくこと」
「別に。元々他人だし……。この前そう言ったじゃん……」
思った以上に真剣な顔をしてまっすぐ見つめている理玖くんに少し驚きながらも、あたしはまた理玖くんから目を逸らして、目の前の棚に目をやり手を動かす。
「他人じゃねぇだろ。まだオレのこと好きなくせに」
「ちょっ! ……それは、もう忘れて。なかったことにするって言ったんだから、理玖くんももう構わなくていいよ。あたしは大丈夫だから」
まさかそんなストレートな言葉を返されるとは思ってなくて、あたしは理玖くんを見ながら忘れてほしいと念を押す。
「オレは大丈夫じゃない」
なのに、あたしが必死に伝えるも、ことこどく反対のことを言ってくる理玖くん。
「……もう、マジでなんなの!?」
理玖くんの言いたいことが全然わからなくて、あたしは隣にいる理玖くんに体を向けて、思わず声を荒げてしまう。
「お前がオレと話そうとしないからだろ」
「今更何も話すことなんてないでしょ」
「オレにはあるって言ってんだろ」
「もう意味わかんない……」
話してても埒が明かなくて、あたしはその場で俯きながら溜息を落とす。
そして見つけた資料を手にして、その場を立ち去ろうと振り返ると。
「逃げんな」
理玖くんが、なぜだかあたしの目の前に壁ドンしながら覆いかぶさってきて、あたしは驚いて理玖くんを見ながら目を丸くする。
このいきなりの状況がまったく理解が出来ないのに、こんな近くで真剣に見つめてくる理玖くんに、胸は大きく高鳴ってしまう。
「何……してんの……」
「お前が逃げるから」
「だからって……。こんなからかうようなこと……」
「は? からかう……?」
「なんで、あたしの気持ち知ってて……、こんなことするの……?」
「お前は、これがそんな風に見えるのか……?」
理玖くんが顔を険しくしながらも、少し悲しそうに呟く。
「だって……」
……ホントにそうだとは思ってない。
理玖くんの目も真剣で、からかってるような素振りでもないのもわかってる。
だけど、からかっているんじゃなかったら、いきなりの理玖くんのこの行動の意味がわからない。
「そう……。じゃあ、お前がオレの話聞くまで、動かねぇから」
「は!?」
「お前はオレがからかってるって思ってんだろ? なら、このままそうじゃないってわからせるだけ」
「わからせるだけって……」
「オレはお前と話したいって言ってんだよ。今じゃなくてもいいから、ちゃんと話させて」
どうして理玖くんは、こんなにあたしに必死で話したいと言ってくるのだろう。
あたしはもう諦めるって伝えたんだから、そこまで構う必要ないのに。
あぁ、そっか。あれか。あたしだからこんなことになってんのか……。
理玖くんは、結局今までのあたしとの関係を変えたくないってことなんだな……。
「理玖くんの気持ち、ちゃんとわかってるから」
それならあたしがそう伝えれば、理玖くんはここまで構わなくてもよくなるはず。
「わかってるって? どうわかってんの?」
「あたしとの今までの関係壊したくないだけだよね……? わかった。じゃあ、あの言葉は撤回する」
「え……?」
「今は、まだすぐに前みたいに戻るってわけにはいかないけど、でも、ちゃんと必ず前みたいに理玖くんの妹に戻るから。だからもう他人だなんて言わないから」
理玖くん的には、やっぱりずっと妹的に思ってきたから、いきなり赤の他人になってしまうというのは寂しく感じたのかもしれない。
さすがにあたしもそこまでは言い過ぎたかな……。
理玖くんがそれでもいいなら、あたしも妹的なポジションはなくしたくないし、またいつか前みたいに戻れるならホントは戻りたい。
時間が経てばきっと、あたしもいつか大丈夫になる。
そう思ってたのに。
「そこじゃねぇよ……」
理玖くんはなぜかガッカリしたようにうなだれて呟く。
「え、違うの……?」
「全然オレの気持ちわかってねぇし……」
「だって、わかんないよ……」
「うん。だから、ちゃんと話聞いて。ってかちゃんと話そう。沙羅にちゃんと伝えたいことがある」