まっすぐ見つめてはっきりと伝えるその言葉。
さすがにもうここまで言われたら、意地を張っているあたしも受け入れるしかなくて……。
「わかった……。ちゃんと、話聞く……」
あたしも理玖くんのその言葉を受け入れた。
「ホントか……?」
すると理玖くんは静かに呟いて、嬉しそうに安心したかのように笑う。
「うん……」
「なら。今日の夜は?」
そして、そのまま嬉しそうにすぐに予定を聞いてくるも……。
「えっ、あっ、今日の夜は飲み会で……」
「飲み会……?」
予定が合わないことを伝えると、急にまた険しい表情に戻る理玖くん。
「もしかして……、この前いたあいつも一緒?」
「あいつって? 誰のこと?」
「この前颯人と店でいた時、偶然会った沙羅を介抱してた男」
「あ~。早川くん?」
「そう。そいつ」
「うん。早川くんもいるよ」
「は?」
「え?」
あたし何か変なこと言った?
変わらず不機嫌そうに反応する理玖くんに戸惑う。
「まさか二人っきりじゃないよな……?」
「他にもいるけど……」
「よかった……」
理玖くんが呟いたその言葉に、あたしはまた不思議に思う。
「え……? なんで……?」
「ん?」
思わず聞き返したあたしに、理玖くんは気付いていないのか普通に反応する。
いや、ここで、なんで理玖くんが ”よかった” だなんて言葉が出たのか気になるからとは言えないし……。
「いや、なんでもない……」
あたしもさすがにそれは聞き返せず、小さく呟く。
「てか、なんもないよな?」
「へ!? 何が!?」
「お前、あの男と」
「今はまだ、何も、ないけど……」
「まだ……?」
「あっ、うん。もしかしたらこれからどうなるかはわからないけど……」
一応早川くんは自分を気に入ってくれてるわけだし、あの日もそれっぽい感じのこと言われてたから、これから正直どうなるかはわからないもんね。
まぁ、そんなこと理玖くんにはどうでもいいことだろうけど。
「は……? 明日、なんかあるってこと?」
「いや、別にそういうわけじゃないけど」
「お前……、またチョロいことになんなよ?」
「え? チョロいことって何?」
「チョロいこと言われて持ち帰られたりすんなよ。ちゃんと家帰ってこい」
あっ、この感じ。
またいつもの理玖くんだ。
あたしを妹的にしか思ってないこの言い方。
なんでいつも理玖くんはそんなことばっかり……。
「は!? そんなんあるわけないじゃん」
「んなのわかんねぇだろ。今までのお前からすれば」
「いや……、だとしても! 理玖くんには関係ないじゃん! もういいいからほっといて!」
結局またいつものように言われてムカついたあたしは、壁ドンしてた理玖くんをそのまま勢いよく手で押し返して、その場を離れる。
「おい! 沙羅!」
「ちゃんと話は聞く! だけど、余計なことまで口出さないで!」
あたしは入口の方に向かって、その場に取り残されてる理玖くんを見ながら強めに告げて、保管室をあとにした。
いきなりなんなの。
なんで急にこんな構ってくんの?
結局理玖くんは何がしたいんだろう。
あたしだって理玖くんとはこんな言い合いばっかしたいわけじゃないのに……。
ホントなら理玖くんとまた前みたいに笑って楽しく話したい。
だけど、やっぱりまだ傷が癒えてないあたしは、理玖くんをまだ好きだという気持ちと、あの日傷ついた時のショックと、どちらも自分の中にあって、まだ自分でどうしていいのかわからない。
理玖くんとちゃんと話をしたら、何か変わるのだろうか。
ただあの時のことを謝られるだけならもう聞きたくない……。
そう思ってホントは逃げたくなる気持ちもあるけど、それでも理玖くんがあまりにも真剣で何かを伝えようとはしているから。
だから、自分なりに一歩踏み出してみようと思った。
このままじゃきっと何も変わらないから。
まずは話をしなきゃ、あたしもどう気持ちを持っていいかわかんないもんね。
うん。いつかどんな形でもいいから、この気持ちが穏やかになればいい。
例えこの想いは報われなくても、いつかまた前のような理玖くんとの関係に戻れることを今は願って――。