そして、飲み会の日。
理玖くんに言ってたことがホントにそうなってしまった。
何人かの飲み会だと聞かされていたのに、その時になると、実は早川くんと二人だけだったとわかったのだ。
「ごめんね。楠さん。急に二人きりだなんて困るよね」
「いや、困るってわけじゃ。ただ、二人とは思ってなくて……」
「最初はホントにそうだったんだけど、みんな残業とか予定とか急に入っちゃって。そしたらオレの気持ち知ってるメンバーが、それなら二人でって気を遣ってくれたみたいで」
「あっ、そうなんだ」
「でも、オレ、正直チャンスだと思って。今日の店も居酒屋だったけど、それなら楠さんにもどうせなら楽しんでほしいし、雰囲気がいい前から気になってた店に変更したんだけど……」
「あっ、うん。ここすごい素敵だよね。変わった料理も多くて美味しいし楽しんでます」
「ホント!? よかったー!」
早川くんは、ホントに嬉しそうに反応してくれる。
確かにいきなり二人はビックリしたのは確かだけど、でもここ素敵なお店だし、早川くんとももっと話してみたいとは思ってたから、楽しんでいるというのも事実。
「オレは楠さんと二人でいれて嬉しいけど、楠さんはどうかがちょっと不安だったからさ。安心した」
早川くんは満面の笑みを向けてあたしに伝える。
早川くんはストレートだ。
一葉から最初に自分を気に入ってくれていると聞いたから、余計かもしれないけど、その言葉通り確かに早川くんは、その気持ちを素直に伝えてくれる。
とても心地よく自然に。
まだドキドキとかはしないけど、一緒にいててなんだか安心出来る人。
穏やかな人だから、あたしも同じように穏やかでいられる。
「あたしも、もう少し早川くんとゆっくりお話したいなって思ってたんで」
「えっ、ホントに!? うわっ、マジ嬉しい!」
こんなにストレートに気持ちを向けてもらえるのって、こんなにくすぐったくて嬉しいことなんだな。
同い年だから気を遣わず楽だし、話も結構合う。
そのあと、店を出てからもギリギリの駅まで送ってくれると言ってくれて、早川くんとその道のりを歩く。
「あの……。楠さん。多分、もうなんとなくわかってるとは思うんですけど……」
隣を歩きながら、早川くんが静かに話し始める。
「オレずっと楠さんのこと気になってて。実際話したりしてからも、思った通り素敵な人で。それで、こんなすぐにって思うかもしれないんですけど、やっぱ好きだなぁって思いました!」
「あっ、はい……」
あまりにもストレートに伝えられて、あたしは戸惑う間もなく思わず返事をする。
「あっ、でも、だからといって、今すぐ付き合ってほしいとかは言いません! まだオレのこと全然知らないだろうし、いきなりそんなのも困るだろうし。でも、これから同じように楠さんにもオレのこと好きになってもらえたら嬉しいなって……」
「はい……」
「だから、そう思ってるってことだけ知っておいてもらえませんか!?」
そう力強く言いながら、立ち止まってあたしをまっすぐ見つめる早川くん。
「まだお返事しなくてもいいってことですか……?」
あたしも同じように立ち止まって、早川くんと向き合い聞き返す。
「いや、そりゃぁ付き合えたら嬉しいですけど、でも正直楠さんまだ全然オレにそんな気持ちにはなってないですよね?」
こんなところまでストレートだ。
だけど、なぜだかその言葉に自分の気持ちを誤魔化しちゃいけちゃいけない気がして。
「早川くんがまっすぐちゃんと伝えてくれたので、あたしもちゃんと素直な気持ち伝えてもいいですか?」
「あっ、はい。どうぞ!」
早川くんはビシッと体制を整えて、まっすぐあたしに向かって立つ。
「実は……、あたし好きな人がいるんです」
「あっ……」
「でも。その人にはフラれちゃって。絶対脈がない人なんです。だから、あたしは諦めたくて……」
「そうだったんですね……」
「早川くんの気持ちは、正直すごく嬉しいです。そんな風に言ってもらえたの、あたし初めてで……」
「初めてなんですか……?」
「はい……」
「えー。楠さんこんな魅力的なのに」
「フフ。早川くん、ホントまっすぐですよね」
なんだか早川くんのその言葉は、その人柄からもお世辞とかじゃなく、素直にそう思ってくれているのだと感じられて、自分も不思議とそれを受け入れられる。
「あっ、それオレよく言われます! だから嘘ついたり駆け引きとか絶対出来ないんですよ」
「あたしもです。そんな器用なこと出来ないです。あたしたち似てますね」
「ホントですね」
「早川くんは、まっすぐで正直で明るくて、一緒にいると楽しいです」
「ホントですか!?」
「はい。だけど……、正直まだその人にフラれたばかりで、気持ちの整理がまだ追いついてないというか……。だけど、早川くん、好きになりたいって思ってます。好きになれそうな気がします。だから、少し待ってもらっていいですか?」
うん。早川くんならそう思える。
きっと理玖くんを好きになっていなければ、あたしはきっと早川くんを好きになっていた。
「もちろんです! 全然待ちます!」
「ありがとう」
「てか、そんな最近辛いことがあったなんて知らなくて……。そんなすぐこんなことすいません」
「あっ、いえ! 逆に早川くんの存在で救われてるっていうか。フラれた自分が、誰かに好きって言ってもらえるのは、とても力になります」
「なら、よかったです。じゃあ、これからオレ知ってもらうのに、頑張ってもいいですか?」
「あっ、はい。よろしくお願いします」
「あっ、こちらこそ」
早川くんは、あたしのそのお願いを快く受け入れてくれる。
好きだと伝えてくれるけど、決して無理強いはせず、気持ちが追いつくまで待ってくれると言ってくれる。
これだけでも、早川くんに惹かれる要素はすでにあって。
理玖くんを好きだと思う気持ちさえなくなれば、きっとあたしは早川くんを好きになれる。
それだけで、なんだか心が軽くなった気がした。