「沙羅……。好きだ……」
すると、絶対聞こえるはずのないありえないその言葉が耳元で聞こえる。
え……? 聞き間違いだよね……?
まさかそんなことありえないよね……?
自分の名前を呼ばれていても、その現状が信じることが出来ない。
「すげぇ好き……。沙羅のことがホントに好き……」
何度も繰り返されるその言葉に、あたしの胸は破裂しそうにドキドキして、息が止まりそうになる。
「沙羅……?」
理玖くんがまた不安そうに、何も言えないでいるあたしの名前を呼ぶ。
「嘘……。そんなの、ありえないよ……。信じ……られない……」
ずっと茉白ちゃんをあれほど好きだった理玖くんが、どうしてあたしを……?
あの時フッたのに、どうして……。
この胸は高鳴っていても、今までの理玖くんを考えると、どうしても信じられなくて、そう呟いてしまう。
「うん。わかってる……。沙羅はそんなの急に信じられないって。でも……、ホントだから。もう沙羅が好きでどうにかなりそう……」
そう呟きながら、背後で、あたしの首元にうなだれて理玖くんの頭上が触れたのを感じる。
そんな言葉、ずるい……。
ずっと望んでたそんな言葉を聞かされて、平気でいられるはずがない。
そんな言葉を言われて、今まで感じたことないほど心臓がドキドキして、破裂しそうに苦しい。
そんなのあたしだってどうにかなりそうだよ……。
「だって、茉白ちゃんのこと……」
「うん……。全然説得力ないよな……。あんなに茉白って言ってたオレが沙羅を好きだなんて……」
「うん……」
心臓はこんなにも強く激しく反応してるのに。
あんなに好きな人からずっと欲しかった言葉を……嬉しすぎる言葉をもらえたのに……。
今のあたしは素直に受け取れなくて素直に喜ぶことが出来ない。
「茉白は妹として大切だっただけだって、ようやくわかった。信じられないかもしれないけど、それは嘘じゃない。オレがホントに好きなのは沙羅なんだって、やっと気付いた……。それだけは信じてほしい……」
切実に絞り出すような声であたしに伝える。
あまりの急な展開にさすがに気持ちがなかなか追いつかない。
だけど……理玖くんが嘘つく理由なんてないし、理玖くんはあたしに対して嘘つくような人じゃない。
それなら……。
ホントにその言葉を信じていいってこと……?
そう思いたい一方で、そんな急に降って湧いた夢みたいな話に、やっぱりまだあたしは臆病で一歩踏み出せないままになってしまう。
「あの日、沙羅を傷つけたこと……後悔してる。だから。これからはちゃんと沙羅を好きだってこと、ちゃんと証明していくから。だから、頼む。オレにチャンスちょうだい……」
今まであんなにあたしに対していつも強気な理玖くんが、こんなにも自分をさらけ出して切実に訴えてくる。
今までの理玖くんを知っているからこそ、こんな姿をあたしに見せるということが、きっと嘘じゃない証拠だ……。
これは勘違いなんかじゃないんだよね……?
好きって、あたしの好きと同じ好きってことだよね……?
その言葉信じていいんだよね……?
「わかっ……た……」
決して気持ちが完全に整理出来たわけじゃないけど、理玖くんが好きと言ってくれた言葉を信じたくて、あたしはそう呟いた。
「えっ、マジで!?」
あたしのその言葉を聞いて、明らか声も浮かれながら、あたしを抱き締めてる体を更にグイっと引き寄せ、あたしの顔を覗き込む理玖くん。
隣から覗き込む理玖くんは、思ってもいないような笑顔で、意外すぎるその表情に驚いてしまう。
「よかった~」
あたしの顔を覗き込んだまま、今度は心底安心したかのような表情に変わる。
そして今度は少し優しくまたギューッと後ろから抱き締める。
「理玖くん、なんか別人みたい……」
「え? 何が?」
「あたしにそんなお願いしてくるとか、今までなら考えられない……」
「あぁ~。確かに。オレもこんなん初めてだわ」
「え?」
「こんなカッコ悪い自分見せても手に入れたいって思ったの」
そう言って、今度は優しく微笑みかける。
あたしはそんな理玖くんを見て、ドキッとしながらも、その微笑みに耐えられなくて視線を逸らす。
そんなストレートな言葉が自分に対してなのかと思ったら、くすぐったくてどうしていいかわからなくなる。