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第93話 想いが届くとき


「沙羅。こっち向いて」



 すると、そんなあたしに気付いて、今度はあたしの体をグイっと自分の方に向けて向かい合わせになる。



 そして、あたしの両肩にそれぞれ手を置き、あたしを至近距離で見つめる理玖くん。



 あたしも勢いで向かされたまま理玖くんを同じように見つめる。



「沙羅。オレはお前が好き。誰でもないお前が好き。だから信じて」


「……うん」


「これからオレがお前にどんだけ本気なのか、嫌ってほどわからせてやるから。覚悟してろよ」



 そう強く言い放つ理玖くんが衝撃で、あたしは何も反応出来ないまま動けなくなる。



 あたしをまっすぐ見つめ、あたしだけを映すその瞳に。


 あたしだけに向ける、その力強いトキメく言葉に。


 今まであんなにも意地を張ってガチガチに自分を守っていた心の壁が、いとも簡単に崩れ去る音がする。


 理玖くんを好きだった時の気持ちが、その壁が崩れた瞬間、前みたいにどんどん溢れてくる。



「沙羅。わかったのかよ」



 ずっと反応せずに固まったままのあたしを見て、理玖くんが少し険しい表情をしながら尋ねてくる。



「あっ、う、うん……」



 そう答えるだけで今のあたしは精一杯。


 どんどんあたしの気持ちも、理玖くんとの状況も、ジェットコースターのように上がったり下がったりして、今のこの現状に頭と体がまだついていかない。



「で。結局、あいつとは付き合ってないってこと?」


「え?   あぁ。早川くん。うん、それはまだ……」


「そっ……。なら安心した。あっ、でもまさかまだ違うよな……?」


「えっ? 違うって、何が?」


「あいつのこと。沙羅もう好きとかじゃねえよな……?」


「そこまでは今はなってないけど……。でも、理玖くんが気持ち伝えてくれてなかったら、早川くんのこと前向きに考えようかなとは思ってた……」


「はぁ~マジか……。あぶね……」



 あたしの肩に手をかけたまま、本気で焦ったような表情をしてうなだれる。



「なら、同じだよな」



 と思ったら、すぐに顔を上げて、あたしに尋ねる。



「え?」


「早川とオレの立場」


「あっ、うん。そうなる……かな」


「なら。絶対お前はオレを選ぶよ」



 そう言って今度はなぜか自信たっぷりに微笑む理玖くん。



「えっ、なんで!? そんなのわかんないじゃん。あたしがまた理玖くんを好きになるかなんてわかんないし」



 そんな余裕で言われると、あたしもなんだか悔しくて、好きな気持ちを隠して気のないフリをしてしまう。



「うん。それもわかってる」


「なのに、そんなこと言い切れるの……?」


「だって、お前を一番理解してんのはオレだし、オレを一番理解してんのもお前だろ? 」



 優しく微笑みながら、そう伝えてくる言葉が、あたしの心にダイレクトに響いた。


 好きだとかそんなまだ聞きなれない自分に対してかわからないようなそんな言葉より、あたしがずっと心の底で思ってきたこと。


 そうでありたいと思っていたし、そんな自分だからあたしも理玖くんを好きになったのだと思った。


 その言葉を理玖くんから聞けたのが、同じ気持ちでいれることが嬉しかった。



「だからお前を誰にも渡す気はないよ」



 そして今度はまた笑顔を向ける理玖くん。



「何それ……」



 なのにあたしは素直になれずこんな反応……。


 だって、いきなりのこんな展開どうしていいかわからなすぎて、恋愛初心者にはハードル高すぎる!



 ってことは、えっ……、あたし理玖くんと早川くん、どちらかを選ばなきゃいけないってことだよね……!?


 あー、なんてタイミング悪いの!?


 理玖くんももう少し早く言ってくれたら早川くんとも会おうとしなかったのに。


 だけど、実際会ってみたら早川くんもいい人だし、そんな簡単に断れないよ……。


 理玖くんだって、茉白ちゃんへの気持ちが完全になくなったのか疑問だし、またそれが戻っちゃったらって思うと、やっぱり100%まだ受け入れられていない自分もいる。


 あー! もうどうすればいいんだー!



「フッ。なんかお前難しい顔し始めたし、今日はこのくらいで解放してやるわ」


「えっ? あっ、うん」


「悪かったな、引き止めて」



 そう言って、微笑みながら、頭に手を乗せポンとする。



「じゃあ、おやすみ」


「おやすみ……」



 理玖くんは自分の伝えたいことだけ伝えて満足そうに颯兄のいるリビングへ戻っていった。



 そして、あたしは一日で、しかもこんな短い時間の間に、二人に告白されるとか夢にも思ってなくて、しばらく部屋に入ってからは頭の整理が出来なさすぎてボーッとしていた。



 なんだかどれも自分にとって現実味のないことばかりで、あたしはまだこの時は実感していなかった。


 これから先、本当に理玖くんに嫌というほど翻弄される現実が来るということを……。






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