「ふぁ~。おはよ~」
休日の朝。
久々ゆっくり寝ていたあたしは、昼前になりそうな時間にパジャマのままリビングに降りる。
「あら。沙羅。おはよ~。随分ゆっくり寝てたわね」
「うん。なんか昨日すごい疲れちゃって。今日なんの予定もないし爆睡してた」
キッチンにいるママに、あたしはまだ寝ぼけ眼のまま返事をする。
「はよ。沙羅。フッ。おせーよお前。もうすぐ昼だぞ」
リビングのソファーの方から聞こえてくる声。
ん? 颯兄? そっか。昨日帰ってきんだっけ。
って、いや、違う。この声、颯兄じゃ……ない……!
「―――! 理玖、くん……」
昨日爆睡しちゃってから、すっかり昨日の出来事抜け落ちてた……。
そうだ……、昨日理玖くんうち泊まってたんだった……!
その瞬間、すっぴんに眼鏡で髪乱れてるパジャマ姿の自分に気付いて、その勢いでとりあえず顔を両手で塞いで口元だけ無意味に隠す。
いや、ちょっと待って!
こんな一番見られたくない姿、いきなり晒してるとかなんの罰ゲーム!?
昨夜、もう考えるの疲れて、そのあと爆睡選んだんだよな……。
ホントにあたし昨日、理玖くんに告白されたんだよね……?
そして早川くんも……。
そんな急なモテ期みたいな状況、本来なら悩ましくて朝まで悩む……とかもしたかったような気もするけど、なんのムードもなく、すぐにベッド入ったら睡魔襲ってたわ。
それですっかり忘れてたよ、理玖くんいたこと……。
「てか、理玖くんまだいたの!?」
あたしはリビングの理玖くんに背中を向けてとりあえず話しかける。
「おぉ。てか、なんで沙羅そっち向いてんの?」
「いやぁ、ちょっと朝からお見苦しい姿を見せるのもどうかと思いまして……」
「フッ。なんだそれ(笑)」
少しリビングから距離があるだけでもよかった。
これ下に降りてきたすぐ場所にいられたら、ガッツリ見られるというありえない状況だった。
まだ背中向けてるだけよしとしよう。
「颯兄は?」
「あぁ。あいつならとっくに茉白んとこ行った」
「え!?」
思わずそう言った理玖くんの方に振り向くと、携帯を見ながら理玖くんはソファーに座り平然としている。
え、特に動揺して……ない?
今までなら茉白ちゃんの話になると微妙な表情と微妙な空気感になってたのに。
今日の理玖くんは全然動揺を感じられない。
ホントに、茉白ちゃん好きじゃなくなったってことなのかな……。
でも、颯兄いないのに、なんで理玖くんはここに……?
「っていうか理玖くん。颯兄いないのになんでまだいんの……?」
「昔から居心地いいからなぁ~この家」
「そうよ~。理玖くんはいつでも自分の家だと思って遊びに来てくれていいのよ~」
「ちょっ、ママ」
確かに理玖くんは昔からうちに入り浸ってることが多かった。
だからあたしも懐いてたのもあるし。
だから理玖くんとうちのママはかなりの仲良しで、ママがこういうのも納得ではある。
「っていうかお前待ってたんだけど?」
すると、携帯をいじってた理玖くんが、急にこっちを向いて告げる。
「えっ!? なんで!?」
「っていうかお前普段眼鏡なんだな」
「おわっ!」
ソファーから素のあたしを見て理玖くんが指摘した言葉に、再度自分の起きたままの姿でいることを思い出して、また理玖くんに背中を向ける。
「沙羅。出かける準備してこい」
「ん? 準備って?」
「デート行くぞ」
「はっ!?」
あまりの衝撃なその言葉に、あたしはまた無意識で振り返り唖然としてしまう。
「あら。いいじゃな~い。理玖くんと楽しんでらっしゃい」
「もうママまで~!」
ママ結構理玖くん昔からお気に入りなんだよな。
「……準備、時間かかるよ」
「ん。いいよ。ゆっくりしてくれて」
「わかった……」
結局あたしはそう返事をし、行く準備を始める。
正直誘われて断る選択肢はなかった。
理玖くんとデート。デート……。
戸惑いながらも、やっぱり少し胸が躍ってる自分がいた。
それから準備をし終えて一時間ほど経ってリビングへ戻るも、理玖くんの姿が見当たらない。
え、長すぎて帰っちゃった……?
やっぱ気まぐれに言っただけ……?
なんだかんだいいながらも、いつもより念入りにメイクも髪もしちゃってたし、着て行く服だって正直めちゃ迷った。
どこ行くかもわかんないし、変に気合入りすぎなのも嫌だし。
かといってどこに行くか聞くのもなんか悔しいし。
理玖くんが待ってるとは思いながらも、理玖くんとデートだからこそ手が抜けなかった。
そこまで自分でも自覚してただけに、理玖くんのいないことにガッカリしてる自分がいる。
「理玖くん。やっぱ帰っちゃったか……」
ボソッと呟いてリビングのソファーに力が抜けてどかっと座る。
すると。
「あっ。沙羅。準備出来た?」
玄関の方から、理玖くんが声をかけながら戻ってきた。
「えっ!? 理玖くん帰ったんじゃあ……」
「なんで帰んだよ。今からデートだって言ってんのに。実家に車取りに行ってた」
「あっ、そっか……」
うちから近い理玖くんの実家に車を取りに行ったと聞いて、ホッとする。
「ごめん。こんな時間かかって」
「いや、全然。オレが急に誘ったんだし」
「てか。どこ行くの?」
「あぁ。うん。リベンジ」
「リベンジ?」
「そっ。じゃあリベンジデート行くか」
「あっ。はい。じゃあ、ママいってきます!」
そう言いながらリビングを出て行こうとする理玖くんを追いかけながら、ママに伝える。
「は~い。ごゆっくり~。お泊りしてきても大丈夫だからね~♪」
嬉しそうにママが笑顔でそんなことをいう。
「は!? そんなんしないよ!」
「え? しないの?」
「は!? 理玖くんまで!」
ママに言い返したあとに、理玖くんも乗っかってからかう。
「ハハ。じゃあ叔母さん。お世話になりました」
「理玖くんまたいつでも来てね~」
「はい。これからは沙羅に会いにしょっちゅう来ます」
「ウフフ。待ってるわ~」
あたしを入れないまま、ママと理玖くんで勝手に盛り上がっている。
昨日の理玖くんの告白を聞いただけに、理玖くんのこんなやり取りも言葉も、どれも意味があるような気がして意識してしまう。
それがホントに思ってる言葉なのか、それとも適当にノリで話してるだけなのか、今の理玖くんは全然わかんない。
でもきっと今の理玖くんの言葉は信じていいってことだよね……?
そんな風に思いながら、いきなりの理玖くんとのデートに、密かに胸躍っている自分がいた。