「よしっ、完成! 理玖くん出来ました!」
ようやく全部の料理を作り終えテーブルに並べ、リビングのソファーに座っている理玖くんに声をかける。
そして理玖くんと共に料理が並んだテーブルに着く。
「ホントに前と同じだな……」
目の前の料理を見ながら理玖くんが呟く。
「冷めないうちに召し上がれ」
「ん。いただきます」
理玖くんがやっと自分の作った料理を食べてくれるのを見て、胸がいっぱいになる。
「うん。やっぱすげぇウマい」
「よかった」
一つ一つの料理に特にすごい反応をするわけでもなくて。
だけど、ちゃんと一つ一つ”美味しい”と丁寧に味わって食べてくれる理玖くん。
今度は理玖くんなりのあの日の料理と比べた感想を一緒に。
それは、あの日ホントに理玖くんが食べてくれていたということ。
あの日、この姿が見たかった。
あたしの作った料理を美味しいと食べてくれる、こんな理玖くんの姿が。
願っていたその姿を見れたことに安心して、あたしも料理を食べ始める。
「沙羅。ありがとな」
「えっ、あ、うん。こちらこそリベンジさせてくれてありがとう。やっと理玖くんに食べてもらえてあたしも嬉しい」
理玖くんにお願いされて今日は作ったってとこはあるけど、やっぱりちゃんとまたこうやって改めて理玖くんに作ることが出来て、理玖くんを目の前にして一緒に食べれるのが嬉しくて、つい笑みが零れる。
不思議だな。
同じ部屋で同じ料理を食べているのに、理玖くんと一緒というだけで、気持ちが前向きなだけで、こんなにも美味しさは変わるんだ。
まったく同じはずなのに、この前より何倍も美味しく感じる。
あたしは、ようやく気持ちが報われた気がして、温かいグラタンを食べながら、嬉しくて胸の奥も温かくなる。
「沙羅。こうやって料理作ったのってホントに初めてだったのか?」
「え? あっ、うん。今まで作ろうとも思わなかったし」
「なのに作ろうと思ったのは、オレのため……?」
料理を食べながら、理玖くんがそう言ってあたしをじっと見つめる。
「うん……。あたしね、理玖くんのために頑張りたかったんだ」
「頑張るって?」
「理玖くん好きだって気付いた時、あたしも理玖くん好きになってもらう努力を何かしたかった。ホントは得意ってわけでもなかったけど、だからこそ頑張りたかったっていうか。……ちょっと羨ましかったんだよね。茉白ちゃんや他の女の人が理玖くんのために料理作って、それを理玖くんが喜んでるのが。なんかそういうのって、その人のために出来る特別みたいな気がしてさ。理玖くんがそれを食べて喜んでくれたりする姿見たかったし、自分もそれが出来ればなんか自信持てるような気がしたんだ」
「そっか。うん。ちゃんとその気持ち伝わってるから」
すると、あたしのその言葉を聞いて、冷静に理玖くんがそう答えてくれる。
「えっ?」
「茉白はさ、元々料理が好きで得意だし、オレに作ってくれたのもその流れでしてくれただけのことで。他の女性に関してもさ、きっと少なからず向こうも下心もあるし、得意だからこそそれをしてたっていうのもあるんだよね」
「うん……」
「だけどさ。沙羅は違うじゃん」
「えっ?」
「お前はさ、得意でもないし今までそんなことしたこともないのに、オレをそうやって想ってくれたから、ここまで出来るようになったんだろ?」
「まぁ、そうだけど……」
「オレにとっては沙羅がそこまでしてくれたってことに意味があるんだよ」
「意味……?」
「お前のことは昔から知ってるけど、元々茉白みたいになんでも器用に出来るタイプでもなかったし、オレに対してもそんな気持ち向けることもなかった」
「そりゃ、今までは、こういう気持ちにはならなかったわけだし……」
「うん。さっきずっと沙羅が料理作ってるの見ててさ。自分を想って、こんなに努力して頑張って作ってくれる姿が、こんな嬉しいことだなんて知らなかったし、そんな沙羅がすげぇいじらしくて可愛いって思った」
「へっ!? んんっ。どしたの理玖くん、そんなこといきなり」
ストレートに伝えてくるその言葉に、あたしは思わずむせこんで、少し恥ずかしさを感じながら軽く応える。
「なんだろな。なんでお前こんな可愛く思えんだろ」
片手で頬杖をつきながら、あたしをまたじっと見つめてそんなことをいう理玖くん。
「はっ!?」
あたしはその言葉と視線に耐えられなくなって、思わず理玖くんから視線を逸らして、目の前の料理を口に運ぶ。
「いや、ずっとお前はそうだったか」
「えっ……?」
ボソッと呟いた理玖くんに、思わず顔を上げてまた視線を理玖くんに戻す。
「お前のその無邪気なとことか、素直に努力するとことか、オレにはきっと持ち合わせてないとこで、お前がいたからオレはオレでいられたんだろうな……」
頬杖をつきながら、あたしに話しかけているのか独り言なのかわからないくらいの話し方で、あたしを優しく見つめたまま呟く理玖くん。
「どういうこと……?」
「ん? お前はお前のままでいいってことだよ」
「何それ……。っていうか、あたしずっと理玖くんと一緒にいたわけじゃないよ……?」
「そうだな。だからダメだったんじゃないの? お前に再会するまでのオレは」
「でも、茉白ちゃんはいたし……」
「今、オレは茉白の話じゃなくて沙羅の話をしてるんだけど?」
茉白ちゃんの名前を出しても、一切動揺もせず、それどころか逆にあたしを見つめる目もまっすぐなまま変わらずに、ハッキリと理玖くんはそう告げる。
「気になる……?」
「えっ?」
「茉白のこと」
「えっ、いや……」
「今オレは沙羅を見てる。沙羅のことだけ考えてる。オレにとって今沙羅がどれだけ大切な存在かを改めて実感し直してる。それくらい今オレは沙羅のこと好きだって思ってるのに、沙羅は何が心配?」
「……あ。えっと……」
そんなまっすぐ返されるとは思ってなくて、思わず動揺する。
「沙羅?」
すると、テーブルに置いていた片手を、理玖くんが正面から手を伸ばし、その上から手を重ねて軽く握り締める。
その行動に驚いて、またあたしは理玖くんと視線を重ねる。