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第99話 ありのままで


「オレはお前を不安にさせたくない。沙羅にはいつだって笑っててほしい」


「理玖くん……」


「オレらさ、ずっと近くにいたのに、こうやって気持ちが通じ合うまでは時間かかったろ? だけど、オレは沙羅がどんなヤツかを知ってるからこそ今沙羅を好きになったんだし、沙羅以外にはオレはこんなに必死になって気持ちを伝えようとは思わない」


「あたし、だけ……?」


「そう。沙羅だけ。茉白にしてもさ、ただ見守りたいって気持ちがあいつに関してはずっと大きくて、自分が必死になって何かを伝えたいだとか何かしたいとかそういうことは思わなかった。だけどさ、沙羅にはどうしてもちゃんとオレの気持ちをわかっていてほしいって思う。沙羅が不安に思うことは全部取り除きたいって思う。オレは、お前に救われたから」


「あたしが、理玖くんを……?」


「そう。茉白を好きだと思っていた時は、ただただ苦しい毎日だった。茉白を好きな気持ちがあるくせに、他の女に逃げたくもなって、ずっと理由のわからない矛盾みたいな感覚が、ずっとオレの中にあって。どうしていいかわからずに、ずっとオレの中で、そこだけすっぽり空いていて、ずっと埋まることはなかった。自分でそれがどういうことなのかもわからなかったし、何をどうしたらそこは埋まるのかもわからなかった。だけど、沙羅に再会して、ようやくそれがどういうことなのかわかった」


「あたしと再会して……?」


「そう。きっとずっと自分の気持ちと真逆にいつも自分を偽って逆らっていたから、自分の中で多分ずっとバランスが取れなかったんだ。茉白を想うことも、誰か別の女性と関わっていることも、どこかで正しいことじゃないことは自分でわかっていたから。だけど、どうしようもなくてさ。自分の中でそれがずっと当たり前で、ずっとこの先もそれが続いていくと思ってた」


「理玖くんの中で、ずっと違和感みたいなことを感じていたってこと……?」


「そうだな。あぁ、うん。ずっと違和感を感じてたんだろうな……。だけどさ、沙羅と再会して、お前はありのままのオレに向き合ってくれて受け入れてくれた。茉白を好きなオレもお前だけはずっと味方だって、そう言ってくれて、オレの気持ちにずっと寄り添ってくれてた」


「その時はもうあたしも理玖くんのこと、好きになってたから……」


「ん。そっか。だからかもな」


「ん?」


「沙羅がオレを好きになってくれて、そんなオレを受け入れてくれたから、少しずつその違和感がなくなっていった」


「そうなの……?」


「うん。別の女性といる時でも、昔は何も気にせず一緒にいられたけど、沙羅と再会してからは、ふと冷静になるんだよね。オレ何やってんだろうって。好きでもない相手と今までの関係を続けてることが、違和感を感じるようになった。沙羅はいつでもまっすぐオレにぶつかってきて、どんなことでもちゃんと言葉にしてくれてその想いもまっすぐ伝えてくれてたからさ。駆け引きだとか上辺だけとかの関係に疲れてる自分がいた」


「理玖くんが……?」


「ありのままの自分を受け入れてもらえることってさ。実は簡単じゃないんだよな。それを自分が望む相手っていうのもなかなか出会えない。だけど、沙羅が沙羅のままで、ずっとオレに向き合ってくれたから……。いつの間にか沙羅の存在がオレには必要になってたんだって気付いた」


「あたしの存在……」


「沙羅に対しては、オレは偽らずに自分のままでいられる。思ったことを言葉に出来る。茉白を好きな時に、沙羅が味方だっていってくれたことで、少しずつオレはその安心っていうのかな。そういう感情が生まれたことで、違和感とか理由のわからない虚しさみたいなのがなくなったんだ。沙羅を好きになったら自分の気持ちに忠実にいられて気持ちのまま自分でいられる。沙羅のそんな存在がずっと埋まらなかった穴にスッポリとハマった。自分が無理なくいられて、自分の気持ちに素直でいられる。オレにとって今までずっと出来なかったこと。それを沙羅が気付かせてくれた」


「理玖くん……」



 こんなに熱く自分のことを語ってくれる理玖くんは初めてだった。


 だけど、あたしの手をずっと握り締めながら、ずっとあたしを見つめて自分の気持ちを語ってくれる姿に、そんな理玖くんが伝えてくれる想いや言葉に、胸が熱くなる。


 自分の存在が理玖くんにとってそれほど影響を与えていたなんて、夢にも思ってなかったから。


 理玖くんにとって自分はただの妹みたいな存在で、好きになってもらう要素なんて、ホントは自分ではあるとは思ってはいなかった。


 だけど、理玖くんを好きになってから、あたしも自分という人間がどういう人間か、理玖くんが自分にとってどれほどの存在かを知ることになった。


 理玖くんがそれほど自分のことを考えてくれていたことを知って、あたしも少しずつ不安が消えていく。



「だから、沙羅は何も不安にならなくても大丈夫だから。不安や心配があれば全部オレに言って。ちゃんと話聞く。ちゃんとオレが解決する」



 あたしをまっすぐ見つめるその視線も、まっすぐ伝えてくれるその言葉も、理玖くんの今の強い想いが存在していて、あたしはそんな理玖くんから目を離せなくなる。


 こんなにもまっすぐあたしだけを見つめて、あたしだけに気持ちを伝えてくれる。



「理玖くん……。……ありがとう」



 さすがにもうあたしでもわかる。


 今の理玖くんのすべてに嘘はないこと。


 あたしに伝えようと必死になってくれてること。


 今まで見たこともないそんな理玖くんに戸惑いながらも、やっぱり嬉しいと感じるこの心に、あたしももう嘘はつけない……。





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