クラス委員決めから1ヶ月が過ぎた。
ゴールデンウィークも昨日で終わり、久々の通学。
見慣れた風景のはずなのに、新緑がとても眩しく感じるのは不思議なものね。
休み中はユイやミユと買い物に出かけた。
当然だけどそこに月島くんの姿はなくて。
なので、彼の調査は今日からまた再開となる。
ゴールデンウィーク明けの教室、久しぶりに会うクラスメート。
その休み時間は、とても賑やかだ。
昼休みともなると、それはひとしおで。
違うクラスの子たちもやって来て。
「休み中、何してたー?」
「旅行行ったよー!」
「俺は、買ったゲームをクリアした」
なんて声が、そこかしこから聞こえてくる。
そんな中……。
「はぁ~~~~~~」
ユイが長い長いため息をつきながら、勢いよく机に突っ伏した。
「な、何よ、いきなり?」
「ユイぴょん、お腹痛いのー?」
私とミユの問いに、彼女は顔を上げる。
そこには、悩みの色がありありと浮かんでいた。
「あのね、月島くんのことなんだけど……」
月島くんと言われて、思わずドキッとする。
私が彼を調査していることは誰にも言っていない。
別に、隠すことでもないのだけれど……。
何故か言えずに今日まで来てしまった。
ユイの言葉は続く。
「月島くんは私たちとお昼を食べるようになったし、クラスのみんなとも話すようになった。前に比べると、笑顔だって増えたと思う……」
「いいことじゃない」
私の言葉にユイは少しだけ微笑むと、首を横に振った。
「でも、自分からは輪に入ってこないし……話していても、どこか一歩引いた感があるし……。それに、たまに見せる切なそうな目が気になって仕方ないしーっ!」
確かに、私たちと昼食は取るようになったけれど、どこか上の空な気はしていた。
そして、食べ終わったあとは、いつも一人でどこかに行ってしまう。
今日もそうだ。
今、教室内に月島くんの姿は見えない。
「わかる? ねぇ、わかる? この気持ち! あー、モヤるぅ~~、めっちゃモヤるぅぅぅ!!」
ユイは、そう言って頭を抱える。
その姿は、悩める喜劇の主人公みたいね。
それにしても……。
「ユイ……あなた、良く見てるわね」
「ユイぴょん、こわーい」
私とミユは息を吐いた。
「だ、だって! 私はレ……じゃなくて、月島くんに楽しい高校生活を送ってもらいたいからっ!」
レ?
レンくん?
今、名前で呼びそうになったの?
……ううん、まさかね。
私はアゴに手を当てると、必死な形相になっているユイを見た。
「ふぅん……楽しい高校生活ねぇ。でも、それってユイが背負うこと?」
「……え?」
「月島くんだって子供じゃないんだし、色々と都合があるんじゃないの?」
「そ、それは……まぁ、そうかもしれないけど……」
「もちろん、この前みたいに極端な場合は別よ? でも、そうじゃないなら、本人の意思を尊重してあげないと」
私の言葉に、みるみる肩を落としていくユイ。
その姿は、まさに〝しょぼーん〟といった感じ。
ちょっと言い過ぎたかしら……。
この口は、たまにキツイことを言ってしまう。
正直すぎる性格。
自分でも、あまり好きではない。
落ち込むユイを前に後悔していると、隣のミユが明るく笑った。
「あははー。ユイぴょんってー、月島くんのお姉ちゃんみたーい!」
その瞬間——。
「——それだっ!」
カッ!
と、ユイの瞳に光が戻った。
「アイリ、私にはレン坊を導く使命があるのっ!」
「れ、レン坊!?」
予想外すぎる言葉。
でも、彼女の表情は至って真面目で。
驚きに開かれていた私の口から、「ふぅ」と短い息が漏れた。
「……もう! わかったわよ!」
その言葉に、ユイの顔が明るく輝く。
私は、そんな彼女をまじまじと見た。
「で、どうするの?」
「んえ?」
キョトンとした表情。
「んえ? じゃないわよ。何か案があって話してきたんじゃないの?」
「あー、案ねっ! あー……あはは。も、もちろん!」
「もちろん……ないのね」
真っ赤な顔のユイ。
私の口から、再びため息が漏れた。
「なーに話してんの?」
そこに現れるのは金村くんだ。
楽しそうなその姿は、飼い主にじゃれつく子犬みたいで。
きっと彼に尻尾があったのなら、全力で振っていることだろう。
「あなたはいつも楽しそうね、
「まぁな! ……って、誰が犬だ!」
そんな私たちのやり取りにユイは噴き出し、ミユは頬を赤く染める。
なんだか、金村くんに対するミユの反応がいつもと違うような……。
気のせいかしら?
「ところでさ、これ知ってる?」
考えごとをしようとした私の前に、金村くんが1枚の紙を置いた。
それは、クレープ屋のオープンのお知らせだった。
「駅前の公園の入り口に、キッチンカーが来るようになったんだって。あとで、みんなで行ってみね?」
その瞬間——。
「それだーっ!」
不意にユイが立ち上がった。
その顔は満面の笑み。
「ねぇっ! 今日の放課後、みんなでお茶しない?」
ユイの提案に押し切られ、放課後、私たちは駅前通りのファーストフード店に来た。
私たちというのは、私、ユイ、ミユ、金村くん、そして月島くんの5人。
月島くんに声をかけたのはユイだった。
「帰りにみんなでお茶するから、月島くんも一緒に行こ?」
「ん」
その誘いに、意外なほどあっさり承諾した。
実は協調性はあるのかしら?
誘ってみたら、案外、二人でお出かけとかできるのかしら?
まぁ……。
そんなデートみたいな可愛いこと、私にできるはずもないのだけれど。
店内に入った私たちは、それぞれ好きなものを注文する。
私はアイスティーを頼んだ。
「ハンバーガーやポテトのセットじゃなくて大丈夫ですか?」
「はい、ドリンクのみで。あ、ガムシロップとレモンはなくて大丈夫です」
店員さんの問いにそう答える。
アイスティーはいつもストレート。
これが私の小さなこだわりだった。
「えーとー、オレンジジュース、くださーい」
隣のカウンターでは、ミユもドリンクのみを頼んでいる。
家に帰ったら夕食が待っているというのに、さすがにセットで頼む人はいないわよね。
なんだか時間のかかっているユイを後目に、アイスティーを持って私は席へと向かった。
「水本、ここ空いてるぞ」
そう言って、自分の隣の席を指し示すのは月島くん。
わざわざ声をかけてくれるところ、実は優しい人よね。
「ありがとう」
お礼を言いながら、私は隣に腰を下ろした。
ちらりと彼の横顔を見る。
切れ長の瞳は、意外とまつげが長くて。
少し長めで軽く癖のある黒髪は、オシャレにセットされている……。
心の中の調査ノートに、そう書き記す。
なぜか不意に、ドキドキと脈打ち出す胸。
月島くんを観察するようになった日から、こういうことが多くなった。
悪い病気じゃなければ良いのだけれど……。
不安になる私を、月島くんが振り返る。
「どうした?」
そう言って微笑む彼。
その瞬間、私の胸はひときわ強く脈打った。
な、なに、これ……。
優しい笑顔と、この雰囲気。
胸の中が温かくて。
でも、どこか切ない感じ。
上手くは言えないけれど……。
私は、以前どこかで経験した気がする。
そんな甘酸っぱい気持ちは……。
でーん!
と、置かれたユイのチーズバーガーセットを前に、