「ふむ。お主が尾張で得た仲間か。しかし、その四人で何が出来るのだ?」
「いえ、この場には四人ですが、総勢では五百名おります。皆、最新式の銃の扱いに長けております」
時田のその言葉に、道三は少し驚いた顔をするも、すぐに溜息をつく。
「なる程な。確かに、それは強力だ。だが、数が少ないな。義龍は万を超える兵を揃えてくるだろう。たったの五百では話にならんが……」
「ええ。無論、無策ではございません」
道三は静かに時他の言葉に耳を傾ける。
「敵の数が多いのならば、戦わなければ良いのです」
「……逃げよと申すか? この儂に」
時田の言葉に、道三は怒りを覚える。
その次の瞬間その場の雰囲気も悪くなり、その場にいた者全てに緊張感が走る。
「いえ、そういう訳ではありません」
「ならばどうするというのだ。たったの五百でどう戦局を打開するつもりか聞かせてみよ」
時田は頷き、策の説明を始める。
「まず、私の手勢が調べた情報により、斎藤義龍は雪解けに道三様が動くと信じております。事実、道三様もそのつもりでよろしいですね?」
「うむ。今は兵を動かせぬ故な。このような状況でなくとも、それが普通であろう」
「つまり、そこに付け入る隙があります」
時田のその言葉に、道三は気付く。
「成る程な。確かに奴も戦をする準備を進めてはいるがそれはまだ数ヶ月も先の話。今動けば奴の隙をつけるというわけか」
時田は頷く。
しかし、道三は首を横に振る。
「確かに良い策かとは思う。しかし、兵が動かせぬ状況に変わりは無い。雪が解けぬ限りな。長期戦になれば城にこもっていない我らの方が不利になる。行軍もしなければならぬしな」
「はい。それに、兵を集めたり戦をしようとする動きはすぐさま義龍に知られ、対策が練られてしまうでしょう。そこで、我々の出番です」
時田は後ろの四人を指し、続ける。
「我ら平松商会は少数精鋭。表向きには商会……つまり商人として活動しており、様々な情報が集まります。そして、この美濃に潜入している者達によって、様々な情報が義龍の手に渡るのを阻止できます」
「ふむ……それに、集団戦闘での訓練もしていると見た。お主が率いている以上、優秀な事には変わりないのだろうな」
時田は頷く。
「はい。そこで策はこうです。まず、我々平松商会総力を挙げてここ大桑城から稲葉山城までの道を整備します。無論、義龍には情報が入らないように細工はします。そして、商人に扮して稲葉山城に潜入。あわよくば義龍の首を取り、それがかなわないとしても城壁や城門を破壊したり、防御力を下げる破壊工作をいたします。まぁ、私は顔が割れているので潜入はせずに道三様の陣に加わると思いますが……」
「なる程な、破壊工作が済んだ所に、儂からも兵を出すのか。確かに、それならば長期戦にもなるまい。雪があっても短期で決着をつけられそうだな」
時田は頷く。
が、道三は暫く考えた後、首を横に振った。
「……だが甘いな」
「え?」
「奴がそう簡単に商人を通すとは思えぬ。その策、乗るとしよう。だが、商人として潜入するな」
「では……」
時田が困惑していると、道三は少し笑いながら続けた。
「ふ……これでも儂は奴の親だからな。任せておけ。奴が必ずお主らを招き入れたくなる言葉を教えてやる」