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第47話 反旗

「全軍、止まれ。」


 宇喜多秀家寝返りの知らせが三郎達のもとへ届く数日前。

 宇喜多秀家は自領を通っていた。


「……殿?」


 宇喜多家臣、明石全登が聞く。

 その問いに、秀家はしばらく考えた。


(あの男、三成殿の家臣であった渡辺新之丞が言うには、小早川が天下を狙っていると……。儂もいずれは殺される、か。)


 眼の前を進む毛利勢を見る。


(如水殿は天才軍師。そう簡単には破れまい。あの者の言うとおりであればもうすぐ東で兵が挙がる。さすれば、今度こそ豊臣は滅ぶ。策に乗せられている気もするが、小西殿も私に付いてきてくれると言った。)


 秀家は刀に手をかける。


「なれば、策に乗せられていても構わぬ!その前にわが宇喜多家が天下を取れば良いだけのこと!敵は毛利ぞ!我等の天下取りの第一歩じゃ!かかれ!」


 その指示に兵達は一瞬戸惑うも、状況を理解し、攻めかかる。

 宇喜多勢の奇襲に毛利勢は浮き足立つ。


「殿、よろしかったので?」


 明石全登が話しかける。

 彼は宇喜多家臣で後に大坂の陣で活躍する武将である。

 兵法家で知られる。


「小早川には豊臣の家は任せられん。毛利も弱腰。ならば、私自らが豊臣家を引っ張って行くほか無い!黒田と協力し毛利を討ち、野心を露わにした金吾を討ち取る!そして東の徳川を抑えるのだ!」


 明石全登は頷く。


「……ならば、どこまでもお供致します。」




「ついにやったか、宇喜多殿。」


 小西行長は宇喜多勢が毛利勢に攻めかかるのを見ていた。


「我等は如何いたしますか!?」

「何もするな。後続の軍にも我等は、何があっても良いようにここで待機すると伝えよ。誰も通すな。」

「は!」


 小西行長は宇喜多勢を見つつ考える。


(申し訳無いが、どこまでやれるのか見極めさせてもらいますぞ。それから、状況次第でお味方致そう。だが、私の予測では……。)




「殿!宇喜多秀家が我等の後方を攻めておりまする!」

「なんだと!?」

「さらに西からは黒田勢が上陸し始め、すでに海岸は黒田勢で埋め尽くされておりまする!」


 その報告に毛利輝元は動揺を隠せなかった。


「な、何をしていたのだ!宇喜多はともかく黒田は防げたであろう!」

「そ、それが見張りの者達も寝返ったらしく……。」


 すると、毛利輝元は慌てて馬を走らせる。

 側近も慌ててそれを追う。


「と、殿!どちらへ!」 

「やっておれんわ!城に籠もるぞ!九州攻めは四国方面軍に任せる!我等は宇喜多と黒田をここに留める為に戦うのだ!」

「は!」

「急ぎ守りの支度をせよ!」




「存外、簡単に動きましたな。」

「うむ、新之丞殿の動きのお陰に御座る。」


 一方その頃、小野寺勘助の元に渡辺新之丞が尋ねていた。


「しかし、黒田様も流石ですな。あっという間に九州を殆ど手中に納めるとは。」

「残るは島津のみ。それも我が主、如水ならば直ぐに下すでしょうな。」


 小野寺勘助は新之丞に水を渡す。


「上方の情勢を知らせて下さったあなたのお陰ですぞ。真に感謝致す。」

「いや、それは島左近殿のご指示。左近殿は小早川と織田を討つため奔走しておりまする故。」


 すると、その言葉に勘助は違和感を覚える。


「織田?……織田秀信殿ですかな?」

「……そちらもそうですが、その弟、三郎殿が中々の切れ者らしく。」


 勘助はしばらく考える。


(三郎……。そのような人間聞いたことが無い。後の歴史書にも現れないが、それほど優秀ならば記録されない筈も無い……か。それに、織田家がそこまで活躍出来るか……。)


 勘助は新之丞の肩を掴む。


「新之丞殿。その織田三郎殿について探っていただきたい。出自を明らかにし、知らせて欲しい。」

「無論に御座る。如水殿に並ぶ智謀をお持ちのあなたの考えが間違っているはずがないからな。」


 新之丞は軽く頭を下げ、その場を後にする。


(織田三郎……。一体何者だ?)

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