「蜂須賀は降り、生駒も降った。残るは加藤嘉明、藤堂高虎ですな。」
「うむ、織田殿の言う通りだ。が、宇喜多殿に後背を突かれればひとたまりもない。もし海をわたって攻めて来たらどうしようもできぬ。」
三郎の言葉に長宗我部が付け加える。
「しかし、宇喜多殿を恐れて足を止めればそれこそ黒田の思う壺。ここは加藤、藤堂を制し、一刻も早く九州へ渡るのがよろしいのでは。」
「小早川殿。しかし、どこまで宇喜多の手が及んでいるかわからぬ。軽率に動きすぎるのも、それこそ黒田の思う壺では?」
長宗我部と小早川が討論を繰り広げる。
が、島津豊久がしびれを切らす。
「こうやって無駄に時間を費やす事こそ黒田の狙いであろう!加藤、藤堂も無視して九州へ渡れば良いのだ!」
「……面白いやも知れませぬな。」
すると、三郎が動き出す。
机上の地図を見て話し始める。
「予め薩摩に使者を送り、我等の上陸に合わせて黒田に攻勢をかけるように頼むのです。そして、黒田には敢えて我等の上陸する日と場所の噂を流しまする。」
「……で、どうするのだ?何故相手に伝える。」
長宗我部が聞く。
それに対し、三郎は机上の駒を動かしていく。
「黒田は我々の上陸を防ぐ為、沿岸に兵を置くでしょう。ですから、我々はぐるりと遠回りをして南から薩摩へ入ります。これならば黒田は沿岸と対島津に兵を分ける。攻勢をかける島津殿も楽になるでしょう。」
「……しかし、我等が来ないとばれるかもしれんぞ。」
「その為に島津殿に攻勢をかけてもらうのです。嘘の情報を掴んだ黒田勢は疑うでしょうが、その日に合わせて島津が攻めかければ疑いようも無くなりまする。」
その三郎の策に豊久は歓喜する。
「良い策じゃ!早速薩摩へ文を書こう!」
「……待たれよ!」
「……小早川様。」
小早川秀秋が立ち上がる。
「海が荒れ、船が沈めば数万の命を失うことになる。わざわざ長い航海を経て薩摩へ入るのは危険すぎではないか?」
「……ご安心を。」
三郎は皆に近付く様に合図する。
そして、小さな声で話し始める。
「恐らく黒田は密偵を放って我等の動きを調べさせておりまする。この策も向こうに伝わるでしょう。なので、当面はこの策で行くように動き、船に乗る。そして、薩摩へは向かわず、直前で本当に予定された場所へ上陸するのです。」
「……成る程。黒田は嘘の情報だと知っているが故に対島津に兵をあてる。沿岸に兵は居らず、我等は楽に上陸が出来る。という寸法か。」
長宗我部の言葉に三郎は頷く。
「ですので、密偵を探り、その者に偽の策を伝えまする。さすればその者は黒田にその事を伝え、策はなるでしょう。」
すると、皆は頷く。
「では、密偵を探らせよう。」
「は。虎助。お主らも好きに動け。密偵を見つけたら直ぐに知らせよ。」
「はっ!」
裏の裏を思いついた三郎。
だが、三郎にはまだ策が残っていた。
(恐らく、それでも黒田相手には足らん。もう一つ、手を打っておくか。)
懐には既にその策のための書状が用意されていた。
織田と黒田の戦は既に始まっていた。