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第61話 和平

「信包様。お久しゅう御座います。」

「……黒田殿も、お元気そうで何よりですな。」


 如水と信包が相対する。

 両名はかつて、信長の時代に面識はあった。


「さて、如水殿。単刀直入に申し上げます。どうか、降伏をなされませ。命は奪わないと、総大将である織田三郎は申しておりまする。」

「総大将?織田殿がか?」


 信包は頷く。


「左様にございます。形式上は毛利殿。されどご自身がこの場に出陣なされておらぬ故、本来ならば長宗我部殿辺りなのですが……。」


 信包は如水を見つつ、続ける。


「実質的にも、才能的にも三郎が総大将で文句を言う者はおりますまい。その三郎があなたの命を取らぬと言うのです。ありとあらゆる手を尽くして命をお救いするでしょうな。」

「……なる程な。」


 如水はしばらく考える。


「殿!どうかご決断くだされ!我等、黒田家臣はどのような結末でも受けいれまする!」

「この加藤清正は、織田殿には命を救われた身!ご恩はお返ししとう御座います!」


 重臣である井上九郎右衛門や、加藤清正が強く言う。

 如水も二人の言葉を無下には出来ず、考えた。

 すると、信包は思い出したかのように口を開いた。


「……三郎はここで降伏なさるのであれば、ご家臣の処遇も良くすると。……例えば、長政殿のご家臣としてそのまま……とか、ですかな。」

「……では、長政は……。」


 信包は頷く。


「ええ。此度のご活躍で、所領は安堵。それどころか、加増も有り得るかと。そこは話し合いですな。」

「……。」


 如水の答えは既に決まっていた。

 実は信包が入城するよりも前にとある噂が流れていた。

 大方、豊臣方の手の者が流した噂だろう。

 加藤清正と井上九郎右衛門が寝返ったという噂だ。

 城兵はそのような噂を最初は信じなかった。

 が、信包が加藤清正と井上九郎右衛門を連れて入城し、まるで織田家の家臣のような振る舞いをさせていた事で噂は更に広まった。

 既に城兵の士気は低かった。


「殿!どうか、ご決断を!」


 既に継戦は不可能。

 そう考えていた如水は、太兵衛のその言葉を聞き、決意する。


「……わかり申した。降伏致しまする。」

「おお!左様ですか!すぐにでも三郎に伝えまする!」


 信包は頭を下げ、その場を後にしようとする。

 が。


「待たれよ。」

「……如何なされたかな?」


 如水は立ち上がり、信包の目の前まで行く。


「一度、三郎殿と直接お話がしたい。我が家臣、栗山善助も負傷しておりまする。将兵の治療についてもお話しておきたいのでな。」

「……成る程。無論に御座る。では、お伝えに一度戻りまする。」


 信包は頭を下げ、その場を後にする。


「……さて、織田三郎か。」


 信包がその場を去るのを見届け、如水は自分の所に戻った。


「……ふぅ。」

「殿。よろしかったのですか?我々は最後までお供する覚悟でしたぞ。」


 太兵衛のその言葉を聞き、如水は返す。


「これ以上戦っても勝ち目は無い。お前達には、死んでほしくはないからな。長政を、良く支えよ。」


 家臣は皆、頭を下げた。


(……勘助は死んだ。もしかすると、自分も斬られるか……。いや、流石にあり得ぬか。何にせよ、覚悟はしておかねばな。)

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