田原坂において行われた決戦は豊臣方の有利に進んだ。
他の方面の島津や長宗我部らが予定と違い、積極的に攻勢を仕掛けたことにより、黒田勢は行動を変えた。
黒田方は加藤清正隊が壊滅した事も受け、余力を残したまま、後退。
初戦を制したのは、豊臣方であった。
「さて、三郎。敵は熊本城へ引いたが……どうする?」
「……今一度、和平の使者を。これ以上あの如水殿とは戦いたくない。如水殿の采配に加えて天下の堅城、熊本城。真っ向から挑めば苦戦は必須かと。それに、如水殿もこの状況からもう天下など狙えぬと分かった筈。」
信包は頷く。
「それが良いだろうな。となると、使者は……。」
「そこも、考えてありまする。しかし、気になるのは……。」
三郎は言いかけて止める。
「いえ、止めておきましょう。今は面倒事は増やしたくありませぬ。」
「……何か、気がかりがあるのか?」
三郎は頷く。
「加藤殿を捕らえた際、何者かに色々と吹き込まれたように見えました。幸い、誤解は解けましたが……気になりまするな。」
三郎は捕らえられた加藤清正と井上九郎右衛門と既に会っており、少し話をしていた。
加藤清正から殺されるのではという勢いで問い詰められたが、一つ一つ親切に答えていくと、誤解は解けた。
「……そうか。何者かが我々に敵対するように働いている。と?」
三郎は頷く。
「西にばかり目を向けていては、危ういかもしれませぬ。急ぎ事を収めねば。」
「……うむ。そうだな。その為にも早く和睦を結ばねば。」
「殿。和平の使者が。」
「……そうか。また長政か?」
伝令は首を横に振る。
「いえ、井上九郎右衛門殿と加藤清正殿、そして、織田信包様に御座います。」
「……何?捕らえられたのではないのか?」
伝令は頷く。
「は。ですが、解放されたようです。お二方は和睦がなってもならなくても解放されるとの事。」
「……ならば、会おう。」
如水はしばらく考えた後、決断を下した。
「恐らく、相手はこれ以上戦を続けるつもりは無い、という意思表示のつもりだろう。それに、この城を築き、猛将でもある加藤清正をこちらへ送りつけ、それでも勝てる、という事を伝えたいのだろうな。」
如水の読み通り、三郎はそのつもりで両名を送っていた。
しかも、信包には城内に入れば様々な事を吹聴するように伝えてあった。
城兵の士気を落とし、継戦する事が困難になる事を期待しての事である。
「恐らく、通したら最後、降伏するしか道は無くなるのだろうが……。」
如水は頷く。
「うむ。良い。使者を通せ。」
「は!」
伝令はその場を後にする。
「……これで充分に後世に名を残せた。悔いもない。楽しかったぞ。織田三郎よ。」