「流石は加藤清正。賤ヶ岳の七本槍の一人で虎殺しの逸話を持つ猛将。簡単には行きませぬな。」
「うむ、三郎。どう攻める?清正は黒田家重臣、井上九郎右衛門も陣に加えておるぞ。」
三郎はしばらく考える。
現在、龍造寺政家が旧龍造寺家家臣を中心に軍を再編し、加藤清正勢と争っている。
数ではほぼほぼ対等だが、やはり龍造寺側が劣勢であった。
「他の方面は良いですが、加藤清正一人に全てを覆されかねませぬ。恵慶殿に龍造寺殿の加勢に行ってもらいましょう。」
「しかし、それだけでは足りぬぞ。」
三郎は考える。
戦況はまだ優勢ではある。
が、簡単に覆するほどの優勢であった。
「……我々も出ましょう。数で押し切ります。加藤清正さえ押さえればこの戦は勝ち。なんとしても抑えなければ。」
「うむ、良い判断じゃろう。」
信包は前へと出る。
「儂が前で戦おう。お主は大事な織田宗家の人間。何かあってからではおそいからな。」
「……そうですな。ですが、問題はありませぬ。……策がありまする。」
「この程度か!龍造寺政家!」
「ちぃっ!桁違いの強さだ!抑えきれん!」
加藤清正の勢いに龍造寺はたまらず後退する。
「清正殿。あまり攻めすぎてはなりませぬ。罠やも知れませぬぞ。」
「……井上殿。左様ですな。程よく、攻めましょう。」
血気盛んな加藤清正を井上九郎右衛門が諌める。
この構図を如水は考えており、それが良いように嵌った。
しかしその結果、龍造寺は壊滅せずにまだ持ちこたえていたとも言える。
すると、二人は迂回する軍に気が付く。
「っ!あれは毛利勢!それに、反対からは織田勢か!」
「井上殿。何も問題はありませぬ。それどころか好機。ここで織田を討てばこの戦は勝ちに御座る。」
加藤清正は織田と小早川に対し、様々な事を吹き込まれていた。
「あの渡辺新之丞という男が言う事が本当であれば織田を生かしておくわけには行かん!何としてもここで討ち取る!秀頼公のお命を狙う不届き者は成敗しなければ!」
渡辺新之丞は加藤清正が黒田に味方するように様々な嘘を吹き込んでいた。
関ヶ原において東軍に味方したとはいえ、加藤清正は秀頼に対しても、忠誠を誓っていた。
関ヶ原の後、大恩ある豊臣の存続の為に奔走していたのである。
しかし、徳川への忠誠も誓っており、豊臣と徳川への忠義に板挟みにされた。
そんな清正のその言葉に井上は少し考え、頷く。
「……では、織田勢に集中致しましょう。他は抑える程度で軍を分け、対応させます。」
「うむ!」
正面は龍造寺、左右から安国寺と織田に攻められ、普通ならば壊滅を免れない。
が、そこは加藤清正。
まだまだ崩れる気配は無かった。
「……織田三郎を討ち取ればこの戦は勝ち。そう考えた清正は三方向を包囲されているにも関わらず後退をしようとしない。」
しかし、三郎は既に接敵した織田勢の集団の中には居なかった。
「かかれ!包囲殲滅するぞ!」
三郎は加藤清正勢を後方より奇襲。
迂回し、敵の両翼を攻撃した織田、毛利の兵を隠れ蓑に、三郎は僅かな手勢で後方を奇襲。
加藤清正めがけて一気に駆けた。
「な!?何故織田が後ろに!?」
「くっ!囲まれた!このままでは全滅ですぞ!」
井上の言葉に加藤清正は動じない。
「何を申されるか!織田を討ち取れば勝ちなのは代わりは無い!後方の織田は小勢!すぐにでも討ち滅ぼして見せましょうぞ!」
「……仕方が無い!加藤殿!お供しますぞ!」
そこからの加藤軍の奮戦は凄まじく、一時は織田勢が壊滅する寸前まで追い込まれた。
井上九郎右衛門も良く采配し、包囲されているにも関わらず、負傷した兵はすぐさま下げ後退させるなどの緻密な采配で豊臣方を苦戦させた。
しかし、井上、加藤の奮戦虚しく、包囲された加藤勢は徐々に数を減らし、遂には両名は捕らえられた。
加藤、井上らが壊滅したことにより、戦況は大きく豊臣方に傾いた。
決戦は刻一刻と終了の時が近づいていた。