「怯むな!かかれ!」
「くっ!流石は蜂須賀!それに、生駒!一筋縄では行かぬか!」
栗山善助は生駒と蜂須賀を相手に奮戦していた。
数の上では両軍は対等。
されど、栗山善助は徐々に相手を押し返す勢いであった。
「善助様!太兵衛様がお引きになられたとの事です!」
「太兵衛が!?……ここもまずいか……。」
善助は突出し、生駒と蜂須賀を抑えていた。
両軍の連携は凄まじく、如水は両名の連携を警戒していた。
両名は共に織田家の家臣であり、知らぬ仲では無かった。
それ故、警戒されていた。
さらに両軍の連携を使った策を三郎に使われるのを警戒していたのだ。
しかし三郎は両名の連携を使って栗山善助を抑え込もうとしていた。
「少しずつ引くぞ!包囲されないように……。」
「殿!敵が後方より来ておりまする!奇襲です!」
善助は後方が騒がしい事に気が付く。
「ちぃっ!何者だ!」
「我こそは稲葉正成!小早川秀秋様の家臣なり!我が殿、小早川秀秋の仇、ここで討つ!」
稲葉正成が少数精鋭で善助隊の後方を攻める。
稲葉隊の奇襲に、善助の軍はたまらず浮き足立つ。
「落ち着け!態勢を立て直す!まずは後方の稲葉とやらを討つ!敵は小勢ぞ!怯むな!」
「……栗山善助が……。」
「はい。そのようで御座いまする。」
数刻前。
三郎は稲葉正成にとある事を伝えていた。
「中津城で手に入れた書状に、小早川様の暗殺を指示する書状が御座いました。その差し出し人が……栗山善助殿でした。」
「……成る程。……織田殿!どうか我らに小早川様の仇を討たせて下され!」
三郎は少し考えた後、頷いた。
「勿論に御座る。生駒殿、蜂須賀殿が栗山勢の目を前に釘付けに致しまする。その背後を突き、大将首を上げられるがよろしいでしょう。」
稲葉正成は頷く。
「織田殿。このご恩、忘れませぬぞ!」
稲葉正成は頭を下げ、その場を後にする。
「三郎。良かったのか?あれは嘘だろう?」
「ええ。あれくらいの嘘で無ければあの栗山善助を討ち取ることは不可能でしょう。嘘がバレたとしても問題はありませぬ。後々謝れば良いのです。」
信包は少し考える。
「……無茶をしすぎなければ良いが……。」
この決断が、後々三郎の人生を大きく動かすことになるのだが、この時三郎は知る由もなかった。
「栗山善助!覚悟!」
「くっ!」
突き出された槍を善助はかろうじて躱す。
「お主、何か勘違いをしておろう!儂はそのような事はしておらんぞ!小早川殿の暗殺など知らぬ!」
「白々しい!この期に及んで認めぬか!」
稲葉正成の繰り出す槍を馬上でいなす。
「殿!生駒勢がすぐそこまで来ております!」
「ちぃっ!このままでは!」
すると、善助は振り返り、生駒勢がどれほど近くまで来ているかを確認する。
そして、稲葉正成はその隙を見逃さなかった。
「隙有り!」
「ぐっ!」
稲葉正成の繰り出した槍が善助の肩に刺さる。
そして耐えきれず、善助は落馬する。
「殿!」
「は、はは!やったぞ!仇を討ったぞ!秀秋様!」
善助を討ち取ったと思い、喜びをさらけ出す。
無我夢中で善助の首を斬ろうと善助に跨り、刀を首に当てる。
「御首頂戴致す!」
「させぬ!」
しかし、逆にその隙を雑兵につかれる。
無数の槍が正成に突き刺さる。
「……かはっ!」
稲葉正成は血を吐き、倒れる。
「……ひ……秀秋……様……。」
小早川秀秋の家臣、稲葉正成は息絶えた。
「殿!引きましょう!」
「ぐっ……すまぬな。」
家臣に支えられ、善助は何とかその場を離脱する。
戦況は豊臣方が優勢であった。