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第57話 太兵衛と又兵衛

「かかれ!」


 長政隊が先陣を切る。

 敵先鋒、母里太兵衛隊とぶつかる。


「流石は長政様!お見事なご差配!されどまだまだ!」

「くっ!流石は太兵衛!押しきれん!」


 長政は自ら槍を振るい、敵を蹴散らしていく。

 しかし、母里太兵衛の勢い凄まじく、長政隊は徐々に押され始める。


「殿!敵中央は某が抑えまする!」

「又兵衛!……すまぬ!」


 又兵衛は頷き、長政も信頼して後を託す。

 軍の大半を率いて長政は離脱した。

 又兵衛は槍を握りしめ、太兵衛を見る。


「おお、又兵衛!長政を良く支えているようだな!」

「ええ、もちろん!」

「関ヶ原でどれ程経験を積んだのか、見せてもらうぞ!」


 後藤又兵衛は少数の手勢で母里太兵衛の軍を食い止める。

 又兵衛の奮戦凄まじく、少数ながらも敵を押し返した。


「流石だな、又兵衛!だが、これならどうだ!」

「ぐぅっ!」


 前線で槍を振るう又兵衛と母里太兵衛が直接刃を交える。


「流石は太兵衛様!でも、まだまだこれからですぞ!」

「はっ!面白い!」


 太兵衛と又兵衛の一騎打ちは暫く続いた。

 互いに一歩も譲らぬ激しい打ち合いに、敵味方問わず、目を奪われていた。

 しかし……。


「……又兵衛。お前はさっき雑兵を蹴散らして体力を使いすぎたんだ。それに対して、俺は軽く手を抜いていた。」

「……。」


 太兵衛は槍を又兵衛に向ける。


「お前の負けだ。ここは戦場。見逃すなど甘い事はせん。」

「……この首、取れるものなら取ってみせよ!ただでは死にませぬぞ!」


 すると、太兵衛の軍が横腹を突かれた。


「な!?」

「又兵衛!待たせたな!」

「殿!待ちわびましたぞ!」


 黒田長政は引いたと見せかけ、大きく迂回し、太兵衛の軍の横腹を突いたのだった。

 しかし、太兵衛も長政を警戒しない程戦下手ではない。

 予想通りであったのか、的確な差配で対応する。


「怯むな!敵は寡兵ぞ!」

「我らだけではありませんぞ!太兵衛様!」

「何!?」


 又兵衛の言葉に反応する。

 すると、長政隊の反対から攻め寄せる軍があった。

 旗印は毛利。


「母里太兵衛殿。横槍、失礼致す。安国寺恵瓊、長政殿にご助力致す!」

「ほう、毛利とは!……流石は長政様!お見事!一旦引くぞ!」


 長政勢は見事猛将母里太兵衛の軍を退ける。

 長政は又兵衛に太兵衛の軍を任せ、恵瓊と共に母里太兵衛の軍を挟撃した。

 これは予め予定されていた計画であったが、想定よりも早く長政勢が崩れ始めた為、敗走した様に見せ、安国寺恵瓊を予定よりも早く出陣させた。

 太兵衛の軍は引き、長政と恵瓊は顔を合わせる。


「流石は長政殿。少々焦りましたぞ。」

「いえ、騙すような真似をして申し訳無い。」


 恵瓊は首を横に振る。


「いえ、お助け出来て良かった。予定の通りに動けばどうなっていたか……。」

「……そうですな。本当に助かりました。太兵衛の力量は良く知っておりまする。」


 長政は少し考えた。


「……黒田家の家中の者は皆強い。出来れば皆を救いたいのですが……。」

「……なれば、武功を上げるより他はありますまい。さぁ、戦はまだまだ始まったばかり。張り切りましょうぞ!」


 長政は頷く。

 決戦はまだまだ始まったばかりである。

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