「かかれ!」
長政隊が先陣を切る。
敵先鋒、母里太兵衛隊とぶつかる。
「流石は長政様!お見事なご差配!されどまだまだ!」
「くっ!流石は太兵衛!押しきれん!」
長政は自ら槍を振るい、敵を蹴散らしていく。
しかし、母里太兵衛の勢い凄まじく、長政隊は徐々に押され始める。
「殿!敵中央は某が抑えまする!」
「又兵衛!……すまぬ!」
又兵衛は頷き、長政も信頼して後を託す。
軍の大半を率いて長政は離脱した。
又兵衛は槍を握りしめ、太兵衛を見る。
「おお、又兵衛!長政を良く支えているようだな!」
「ええ、もちろん!」
「関ヶ原でどれ程経験を積んだのか、見せてもらうぞ!」
後藤又兵衛は少数の手勢で母里太兵衛の軍を食い止める。
又兵衛の奮戦凄まじく、少数ながらも敵を押し返した。
「流石だな、又兵衛!だが、これならどうだ!」
「ぐぅっ!」
前線で槍を振るう又兵衛と母里太兵衛が直接刃を交える。
「流石は太兵衛様!でも、まだまだこれからですぞ!」
「はっ!面白い!」
太兵衛と又兵衛の一騎打ちは暫く続いた。
互いに一歩も譲らぬ激しい打ち合いに、敵味方問わず、目を奪われていた。
しかし……。
「……又兵衛。お前はさっき雑兵を蹴散らして体力を使いすぎたんだ。それに対して、俺は軽く手を抜いていた。」
「……。」
太兵衛は槍を又兵衛に向ける。
「お前の負けだ。ここは戦場。見逃すなど甘い事はせん。」
「……この首、取れるものなら取ってみせよ!ただでは死にませぬぞ!」
すると、太兵衛の軍が横腹を突かれた。
「な!?」
「又兵衛!待たせたな!」
「殿!待ちわびましたぞ!」
黒田長政は引いたと見せかけ、大きく迂回し、太兵衛の軍の横腹を突いたのだった。
しかし、太兵衛も長政を警戒しない程戦下手ではない。
予想通りであったのか、的確な差配で対応する。
「怯むな!敵は寡兵ぞ!」
「我らだけではありませんぞ!太兵衛様!」
「何!?」
又兵衛の言葉に反応する。
すると、長政隊の反対から攻め寄せる軍があった。
旗印は毛利。
「母里太兵衛殿。横槍、失礼致す。安国寺恵瓊、長政殿にご助力致す!」
「ほう、毛利とは!……流石は長政様!お見事!一旦引くぞ!」
長政勢は見事猛将母里太兵衛の軍を退ける。
長政は又兵衛に太兵衛の軍を任せ、恵瓊と共に母里太兵衛の軍を挟撃した。
これは予め予定されていた計画であったが、想定よりも早く長政勢が崩れ始めた為、敗走した様に見せ、安国寺恵瓊を予定よりも早く出陣させた。
太兵衛の軍は引き、長政と恵瓊は顔を合わせる。
「流石は長政殿。少々焦りましたぞ。」
「いえ、騙すような真似をして申し訳無い。」
恵瓊は首を横に振る。
「いえ、お助け出来て良かった。予定の通りに動けばどうなっていたか……。」
「……そうですな。本当に助かりました。太兵衛の力量は良く知っておりまする。」
長政は少し考えた。
「……黒田家の家中の者は皆強い。出来れば皆を救いたいのですが……。」
「……なれば、武功を上げるより他はありますまい。さぁ、戦はまだまだ始まったばかり。張り切りましょうぞ!」
長政は頷く。
決戦はまだまだ始まったばかりである。