「敵勢、四万。我が方、三万。兵の数では不利ですが、我々は士気は高い。勝てぬ戦ではありませぬな。」
「そうだな。蜂須賀殿の言うとおり。ここまで大きな戦に参加できるとは……我が生駒家が織田殿に味方したのは間違ってはいなかったか。」
敵の大軍を前に蜂須賀至鎮と生駒一正は話し合う。
「さて、それぞれ持ち場に戻りますか。とは言っても、目標は同じですがな。」
「うむ、生駒殿も、ご武運を。」
それぞれ、自陣に戻る。
頃合いを見て、長政が三郎に申し出る。
「三郎殿。この黒田長政に先陣をお任せ下され。」
「……勿論に御座る。長政殿。お頼み申す。」
長政は頷き、陣を後にする。
「三郎。長政殿におまかせして良かったのか?」
「……何も問題は無いでしょう。必ずや武功を上げるべく、活躍してくださる筈です。」
両軍は西南戦争の激戦地、田原坂を超えた所にて相見えた。
既に両軍とも布陣は完了しており、敵方には黒田家重臣、母里太兵衛、栗山善助、井上九郎右衛門等、歴々たる将が待ち構えていた。
そして、猛将、加藤清正。
向こうも本気であるということが伝わってくる。
「しかし、龍造寺殿。助かりました。龍造寺殿のお名前で多くの方がこちらについて下さった。ここまでの兵を集められたのは龍造寺殿のお陰です。」
「いや、毛利殿の援軍も大きかったでしょう。我らの名だけではそうそう集まらない。せいぜい旧家臣の者達程でしょう。毛利殿が参戦したという話が広まったお陰でここまで兵が集まったのです。」
三郎と龍造寺の目線が恵瓊の元へ集まる。
「いやはや、本当に間に合って良かった。僅か五千の兵ばかりの兵ですが、お連れできて良かった。」
「……私一人ではここまで来ることは出来ませんでした。真にありがとう御座いまする。この決戦の地に、赴けたのは皆様のお陰です。」
三郎は頭を下げる。
「……しかし、ここまで人を集めることが出来たのも、織田殿のお力。もっと胸を張って宜しいかと。」
「そうで御座る。織田殿には小早川殿の代わりに、豊臣の家をまとめてもらわなければなりませぬしな。宇喜多殿は寝返り、毛利殿も弱腰。頼れるのは上杉殿か、織田殿で御座ろう。」
龍造寺政家の言葉に恵瓊が反応する。
「……そうですな。中々、困っておりまする。上杉殿と織田殿、お二人で秀頼公をお支えするのです。今、石田殿、宇喜多殿、輝元様の代わりにそれが出来るのは織田殿。あなたをおいて他におりませぬ。」
「……あくまで織田家の当主は我が兄秀信。それを超えることはするつもりはありませぬ。それに、織田が力を持ちすぎると良く思わぬ者も多いでしょう。まぁ、そこは考えが御座いまする。ご安心を。」
その言葉に信包が頷く。
「うむ、弟は弟らしく、兄を支える事だ。さすれば、その兄からも重宝されよう。」
「……左様ですな。信包様の仰る通り。」
三郎は頷く。
「さて、あまりゆっくりもしていられませぬ。如水殿がそう簡単に勝たせてくれるわけがありませぬ故。早く動かねば。」
「だな。後手に回っては、それこそ勝ち目が無くなる。三郎。指示をくれ!」
如水と三郎の決戦が今、始まった。