「小早川殿が!?」
「は!殿は、三郎様に伝言を残されております。」
三郎は小早川秀秋の家臣、稲葉正成と会っていた。
「秀秋様は大願を成就せよと、申されておりました。」
「大願……。」
三郎は小早川秀秋の死を知った。
そして、考えた。
(……早い。想定よりも早いな。予定が……いや、好都合か。)
小早川秀秋の死は三郎の想定するところであった。
少し予定が早まっただけで、今後の動向に大きく影響は出ない。
そう考えたのである。
「うむ、稲葉殿。伝言、ありがとう御座いまする。」
「そ、それと、如水殿は降伏を拒否されました。」
「……長政殿でも駄目だったか……。」
しかし、細川忠興の行動は良い方向に動くという確信があった三郎は動じなかった。
「戦局は我が方が優位。何も問題はござらん。」
「それが……如水殿は決戦をお望みの用で、臼杵城から兵を引きました。」
「成る程……。」
すると、話を聞いていた信包が口を開く。
「しかし、三郎の策が無ければ危うかったな。我が方は完璧に負けておった。」
「うむ、我が蜂須賀や生駒殿も元は黒田についていた身。もし九州で豊臣方が負けていたら毛利も寝返り、豊臣の天下は終わっていたやもしれませんな。」
蜂須賀の言う通り、黒田に味方したのは元々は徳川方に付いた武将達である。
それらを如水が統合し、九州を統一していたのならば、弱腰の毛利は黒田に寝返り、宇喜多、小西らと大阪へ攻め寄せていただろう。
三郎がその全てを崩したのだ。
「では、我々も臼杵へ参りますか。」
「いや、それでは敵に有利になってしまいまする。稲葉殿。如水は熊本へ退いたのでは?」
「そ、その通りにございます!」
三郎は頷く。
「何故、わかったのですかな?」
安国寺恵瓊の問いに答える。
「熊本は九州でもかなり広い平野部を持っておりまする。その北に行けば更に広い平野がありまするが、熊本には熊本城がありまする。」
「成る程。熊本城は堅城。合戦で負ければそちらへ引くつもりか。」
三郎は頷き、続ける。
「はい。恐らくそうでしょうな。我等は北から周り、熊本へ入りまする。抵抗を続ける勢力を傘下に入れる目的もありまする。それに、時をかけて兵を進めることで南から島津殿も来るでしょう。本軍は東から熊本へ向かいまする。」
「そうなれば、兵の数ではこちらが上。更に包囲も出来ている……。流石ですな。」
しかし、三郎は良い顔をしない。
「……しかし、島津殿も本軍も、かなり疲弊しておりまする。あまり無茶はさせられませぬな。……それに、それは向こうも分かっているはず。あくまで抑えとしておき、敵がそちらに兵を置くことで我々がぶつかる敵の数を一人でも減らしておく。それが最善でしょう。」
「……そういうことであれば兵の数では下手をすれば我らの方が下回る。という事ですか。」
恵慶の言葉に頷く。
「もし可能であれば毛利殿の援軍も期待したいのですが……。」
三郎は惠慶を見る。
「成る程。中国地方が手薄になった今、こちらにも兵を避けるでしょうな。では、私が直接お願い申し上げましょう。……ですが、確実に動いてくださるとは申し上げられませぬ。」
「いえ、少しでも可能性があるのならばありがたい。」
惠慶は軽く頭を下げ陣を後にする。
「三郎。兵の数は然程問題ではない。この戦、必ずや勝つぞ!」
「はい。信包様!必ずや勝ちましょう!」
決戦の時は近い。
三郎も如水もそれを理解していた。
決戦の地は、熊本。
西の関ヶ原が始まろうとしていた。