「殿、中津城に中々面白いお方が……。」
「面白いお方?」
三郎は虎助の報告を聞いていた。
「実際に会っていただいた方が宜しいかと。」
三郎は共に中津城にある資料を漁っていた他の諸将の様子を見る。
中津城には数え切れんばかりの書状があり、それを読み解いていた。
「織田殿。ここは任せよ。何かわかれば直ぐに知らせよう。」
「三郎。蜂須賀殿の言う通りじゃ。ここは我等に任せてそっちへ行け。あまり時間もかけていられんからな。」
信包の言葉に頷く。
ここは情報の宝庫であり、対黒田の為の貴重な情報が山のように残されていた。
それを調べることが勝利につながる。
そう考えたのであった。
「殿、こちらです。」
虎助の案内で通された間には一人の男がいた。
「龍造寺政家に御座います。」
「龍造寺……。」
三郎はその名を聞き、考える。
先程まで調べていた資料に鍋島直茂の名が所々に出てきており、黒田方として九州各地で戦っていた事が分かる。
まだ直接戦っていないが、鍋島直茂が黒田に味方しているとすれば……。
そう考えた三郎は口を開く。
「……龍造寺殿。単刀直入にお聞きしますが、鍋島直茂殿はあなたの為に戦っておるのですか?」
龍造寺政家は頷く。
「……如水に実質的に幽閉され、儂を人質として鍋島直茂を使っていた。あやつには申し訳無い事をした。」
「三郎!大変じゃ!」
すると、信包が現れる。
「鍋島直茂が僅かな手勢で四国へ渡ったと書かれている!藤堂高虎や加藤嘉明と連携されたらひとたまりないぞ!」
「……その心配は御無用。」
三郎は龍造寺政家を信包に紹介する。
「こたらは龍造寺政家殿に御座います。如水に幽閉されていたそうで。」
「……ならば、鍋島殿も黒田に従う理由は無くなるな!」
三郎は頷く。
「政家様。文を書いてはいただけませぬか。私からも書きますが、黒田から開放され、今は自由の身であると。」
「無論に御座る。すぐにでも。」
鍋島直茂も政家の言葉なら動くであろう。
そう考えた三郎は直ぐに行動に出た。
「三郎殿!」
すると、今度は生駒一正と蜂須賀至鎮が現れる。
「どうやら、如水は臼杵城襲撃を見抜いていたようだ。既に多数の防塁が築かれているらしい!」
「われわれも早く向かわねば!」
三郎は焦る二人を制止する。
「お待ち下さい。」
三郎は少しニヤける。
「確かに、見抜かれていたのは意外でした。が、策がありまする。」
その言葉を聞き、皆は安堵の表情を浮かべる。
「三郎の策ならば、慌てる必要は無いな。」
「ありがとうございます。まず、噂を流します。中津城が陥落し、城兵は散り散りに逃げたという。」
皆は静かに聞く。
「我々は少数で様々な方面に散ります。数は、ここにいた城兵の数より少し少ない位にして。そして、旗指し物をここにあった黒田のものにしまする。」
「成る程……。敗残兵を匿うために城内に招き入れた所を内側から崩すのか。後方の城が多数落ちたとあれば、臼杵城も何もしない訳には行かなくなる……か。しかし、そう上手くいくかの?」
蜂須賀至鎮は疑問を口にする。
すると、安国寺恵瓊が姿を表す。
「ご安心を。既に織田殿から策を聞いておった故、手配は済ませてありまする。武装を解除し、密かに運ばせ、農民に紛れさせた将兵達を敵方の城の近くに潜むように手配致しました。噂を流し、準備を整えて出陣する頃には完璧に用意は済んでおりまする。」
「……流石だな。三郎。」
その策を聞いた信包は感服する。
「中津城の陥落は全ての黒田方の城にとっては予想外だ。簡単にやれるだろう。すぐに支度に取り掛かろうぞ!」
蜂須賀至鎮と生駒一正も頷き、その場をあとにする。
「お見事に御座る。」
「龍造寺殿。」
すると、その会議を聞いていた龍造寺政家が頭を下げる。
「儂も協力させてくだされ。さすれば今は黒田に味方している我が家中の者も寝返るでしょう。」
「お顔をお上げくだされ。ご助力、願ってもない事。感謝いたしまする。」
三郎達は順調に事が進んでいた。
しかし、小早川秀秋の死はまだ伝わっていなかった。