裕福ではなくも平和な村、その近くの森、木の枝の上で、村を見ているスライムがいた。
「『方法は貴方に任せると、言いましたが。ここ一週間、貴方、ここから動かず、何をしているのですか?』」
いつの間にか、自分の隣に座っていた青髪の少女に、スライムは驚き、少し距離を開ける。
「イ…ンエ…ン…ミル…オヘンヨウ…」
スライムは、なんとか体から音を出し、人間族の言語を話す。
「『あら?アンタ、もう人語を話す…鳴らす?ようになったのね。』
『ま、結果が出てる以上、責めねぇし、研究に観察が必要なのも分かるが、お勉強ねぇ、それ以外になんか考え、ねぇの?』」
「ムラ…イク。マズ…ハナ…ス、テイルヨウニ…スル…」
「『見て盗むではなく、直接話を聞くと…そういう事か。』」
「デイタラ…スライムヲ…マモル…オネガイ…スル。」
人間族に、スライム族を守ってもらう、そのように捉えられるスライムの言葉に、少女は笑う。
「『いや無理でしょ。』
『希少価値は、高値になりますしねぇ。』」
スライムが不思議そうに、少女の方に近寄る。
「『なんでもねぇよ。』
『アハ!そんなことより、面白い事おーもいつーいた。』」
少女は、突然立ち上がり、手を腰に当ててスライムを見下ろす。
「『アンタ、人に化けて、村に行くつもりなんでしょ?しかも、アタシが思ってた、こっそり人間族に化けて知恵を盗むとかじゃなくて、直接人間族に聞く。』
『それなら、名前がいると思うんだ。』」
「ナ…マエ…?」
「『人間族が、個々を判断する為の、マウスの番号と同じものです。人間族は、誰の話をしているかなんかで、名前を使用するんです。』
『で、アンタの名前を、アタシが付けてあげる。リチュなんてどう?』」
「リチュ…?」
「『そう、貴方の名前はリチュです。うんうんいい名前ですね。』」
少女は口を手で抑えながら、うんうんと頷く。
「リーチュ…リチュ…リチュウ?」
スライムは、つけられたばかりの自分の名前を繰り返す。
「『気に入って貰えたようで良かったです。』
『んじゃ、俺はもう行くわ。あばよ。』」
「アンタ…ナマエ…?」
スライムが、少女に近寄り少女の名を聞く。
「『ああ、そういえば私、名前を名乗ってないですね。
私の名は『モルガナ』。こんごとも、よろしくお願いしますね。リチュさん。』」
『モルガナ』はそう言うと、突然木から落ちていった。リチュが確認すると、既に『モルガナ』はいなくなっていた。
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1ヶ月後、リチュは、様々なスライム達に、スライム族で集まり村を作る話をして回った。
5年生きたリチュですら、生き残れるならよく分からない作戦をやろうとするのだから、2、3年生きた他のスライムの中に、村を作ることを否定する者は現れなかった。
リチュは、とある目的のため、少し危険だが、村を作るための森に、いるスライムだけでなく、火山や沼地のスライムにも、村の話をし、1年経つ頃には、50もののスライムによる、小さな村が出来上がっていた。