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第37話 テンションの上げ方

【下校の続き】

立華梨花と別れた2人は亜沙美の家まで来た。太一の家はもう少しだけ奥なので、亜沙美の家が先に来る


「本当に大丈夫なのか?」


「………まだイクない…もう少し話して欲しい…上がって行ってよ…」


1日中クラスメイトからの、質問攻撃を受け続けた亜沙美の心はボロボロだった。このまま1人になると、また不登校を選択してしまう未来しか見えない亜沙美は、まだ太一と別れたくなくて彼を家の中へと誘う


「(º ロ º๑)エッ!?」

(それって…一人暮らししている亜沙美の家の中に、また入るって事になるよな?…同級生の亜沙美の家の中にまた…男女2人キリになっちまうけど…良いのか?)


亜沙美は傷心の真っ只中なので、またしても気が付いていないが…年頃の娘が異性を誰も居ない家の中に入れるのである

当然そんな場面をクラスメイトに見られでもしたら…今度は今日とは比較にもならない集中砲火を浴びせられる事になるのは、火を見るより明らかなのだが…またしても亜沙美はソコまで頭が回っていなかった



【竹取家リビング】

「座ってろよ、コーヒーくらいなら用意してやるから」


「うん…ありがとう太一…」


明らかに亜沙美は気落ちしていた。女心に疎(うと)い太一にでさえ、それは簡単に理解できた。取り敢えず彼女を落ち着かせようとコーヒーの用意をしに行った。竹取家のキッチンに詳しくはないが前回、亜沙美がドリップオン式のコーヒーを用意してくれたので、おそらく難しくない場所に置いてあるだろうとヤマを張った


……………………………………………


「ほら、コーヒー……やっぱり学校はツライか?」


あくまで確認で言ったに過ぎない太一だったのだが、学校での今日の1日を振り返った亜沙美は、再び涙が溢れ出すのを抑えられなかった


「うっ、ううぅぅ…予想はしていたけど…実際に行ってみたら…想像以上にツラかったよぉ!」


亜沙美はお気に入りのウサギのぬいぐるみを抱いたまま、ボロボロと泣き始めた


「そ、そうか…久しぶりだったもんな…」

(やべぇ。コレはまた不登校になる流れだよなぁ…)


それから太一は時間を掛けて亜沙美の話を聞いて、一旦落ち着かせることにした


「少しは落ち着いたか?」


「うん、ありがとうね太一…少しは落ち着いた」


と、言ってはいるが亜沙美の気持ちがドン底なのは隠しきれなかった。その時、太一はある事に気が付く


「そういや亜沙美、お前今夜のアレどうすんだよ?」


「今夜のアレ?………あー配信…どうしよう?こんな状態じゃリアルで何かあった事がモロバレだよぉ…」


確かに、こんな元気の無さが声に出まくっている状態で、いつも通りの配信をするのはVTuber初心者の亜沙美には到底不可能な事だ


「えっと、だな…亜沙美はテンション上げるための、お決まりなことって無いのかよ?何をすると嫌なことを忘れやすい?元気が出やすい事とか無いのか?」


「嫌なことを忘れられる事?…そうだ!」




【お風呂場】

「ねぇ太一、ソコに居てくれてる?」


「お、おう。居るって!」


亜沙美は大胆にもお風呂場に太一を誘った。もちろん一緒に入ったりはしていないが、亜沙美が浴室に入ってから脱衣室に太一が入ってきて亜沙美の話し相手になっていた


「もうね、昼休みが終わって午後の授業中は、ずーっとバックれて家に帰る事ばかり考えてたよ…本当にツラかったんだもん…」


「そ、そうなのか?そんなにツラかったか?」


亜沙美に合わせて話をしている太一だが、薄いすりガラス1枚を隔(へだ)てた浴室には全裸の亜沙美が身体を洗っているのだ

流れる水の音、ボディタオルで身体を擦る音が普通にしてても聞こえてきてしまう距離に、太一は立って話し相手になっている

思わず太一のキカン棒も立ち上がりそうなのを、別のことを考えて必死に耐えている太一だった



「………ありがとう太一。私そろそろ上がるね」


「わ、分かった。リビングに居るからな」


脱衣室から太一が退出した音を確認してから、お風呂場から出てきた亜沙美。火照った身体をタオルで拭く

まさか有り得ないとは思っているが、もしも太一が侵入してきた場合を考慮してタオルを巻きながら、バスタオルで身体を拭く


「……(˶°口°˶)あっ!?もしかして私…もの凄く積極的なことをしてるのかも?……」


自分たち以外は誰も居ない家で、同級生の太一を薄いすりガラスを隔てた隣の部屋に立たせて会話した。考えてみればもの凄く積極的な行動をしていた事に気が付き顔を真っ赤にしている亜沙美

こんな心境で今夜の配信は大丈夫なのだろうか?




続く

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