【503号室】
「そ、それじゃあ俺は隣りの502号室に行くからな。何かあったらスグに呼んでくれよ……じゃあ明日の朝8時にロビーでな。朝食に遅れないように来てくれよ!」
そう言うと太一は、やや前屈(まえかが)みの姿勢で部屋を出て行った。亜沙美と梨香には太一の不自然な姿勢の意味が分からず「キョトン」としていた
「亜沙美さん。だいぶ良くなりましたか?」
「え、ええ。おかげさまで…」
再び2人きりの部屋に沈黙が訪れた
「私ね…小さい頃から太一くんと会う度に遊んでもらってましたの。太一くん優しいから…中学に入るまでは「お兄ちゃん」と呼んで慕ってましたのよ」
「へぇ、そうなんだ。うん…太一って普段はデリカシー無いとことかあるけど、要所要所で優しいんだよね…」
「やっぱり知ってますのね…ですから…正直に言いますと…私(わたくし)太一くんのことが好きなんです…」
(キタ━━(*゜Д゜*)━━!!男女関係の質問が襲ってきたー!…もう逃げられないかぁ…)
「でも、ですね…いわゆる男女の恋愛関係とかいう風には見てませんでしたの…何と言えば良いのか…家族に対して好き。みたいな感じでして…」
「分かります!なまじ親しすぎると恋愛感情の前に、家族的な目線で見ちゃいますよね…」
「まあ!亜沙美さんもそうですの?一昨日、教室までやって来た太一くんと亜沙美さんのやり取りを見ていたら…もしかして2人は恋人関係になっている?…かと思いましたが…違いましたの?」
「言われたことを正直に伝えるとね…
幼なじみの私が居ないまま卒業するのは嫌なんだって。私と高校生活を終えて一緒に卒業したい!…って言ってくれたんだぁ」
梨香は少し考えを整理していた。亜沙美から聞いた話は…仲の良い友達と一緒に卒業したいが為に、友達として世話を焼いた
とも聞こえるし…違う見方をすれは…太一が亜沙美のことを異性として好きだから、恋愛関係になり得る亜沙美と高校生活を満喫したいとも聞こえるからだ
「…ん〜。でも、それって太一くんに恋人になりたい!って願望がある可能性も十分に考えられませんか?」
「いやぁ、それはどうかなぁ…太一がどう考えてるか?までは分からないけど、アイツって親友みたいに感じちゃうんですよね〜(笑)
それに………梨香さんは凄く素敵な女性だから…私みたいな子供っぽい奴より、梨香さんの方を恋人にしたい!って考える方が自然だと、私は思いますけどね…」
(そうだよ!太一だって、私なんかより梨香さんに惚れちゃうに決まってるって!私の気持ちなんか関係ないよ…私の気持ちなんか……)
「それは……無いかと思います。なぜなら太一くんは…私の前では素の太一くんしか魅せてませんから…たぶん、太一くんの好みは私じゃなくて…」
そこまで言って梨香はその先の言葉を飲み込んだ。それ以上言えば、太一と亜沙美がくっつくキッカケを与えてしまのでは?とも思ったし、そうなる事を何故、自分が躊躇(ためら)っているのか?自分は太一のことを好きなのか?その辺りに答えが出せないからだ
「……あの、どうやら2人とも太一くんに恋愛感情は抱いてないみたいですね…その…最近、急に色々と起きましたから…考えすぎてたみたいですね…ごめんなさい」
「良いんですよ。私もよく分かってないですし…」
亜沙美のその言い方が引っかかった梨香
(分かってない!?……「その気持ちは無い」とは否定せずに「分かってない」ですか…太一君からアプローチが来る可能性を期待されているのでしょうか?)
梨香は少し悩んだが…意を決して言葉にした
「それは…亜沙美さんがいつかは太一くんと、恋愛関係になる事を望んでいるからではないでしょうか?」
「……………………………………………」
「亜沙美さん!?」
「(*˘︶˘*)スヤァ…」
「寝られましたの?…そうでしたわ。湯あたりを起こして疲れてたのでしたね…付き合わせてしまってすみませんでした…おやすみなさい」
疲れていた亜沙美は、話の途中で力尽きて夢の中に行ってしまっていた
【亜沙美の夢の中】
「ごわぁぁぁ!!」
「ヒイィィィ!!(゜ロ゜ノ)ノ なんでゾンビがホテルに居るのよぉ!?」
今日、色々な事が亜沙美のメンタルを襲ったからか?亜沙美は夢の中で【バイオパニック】に出てきたゾンビに襲われている夢を見ていた
必死に逃げ惑う亜沙美だが…ゲーム内にあった武器などは一切なく亜沙美は部屋の隅に追い込まれていた
「な、なんでぇ?梨香さんも太一も居ないのよぉ…うぅ…食べられちゃうのかなぁ…」
自分の部屋に逃げ込んで仔猫のように、部屋の隅で丸まって怯える亜沙美
続く