「サラちゃん!!!!!!」
……体が強く揺さぶれる。頭が……なぜか痛い。
はっ! と目を覚ましたときには、目の前に青色の瞳があった。
「……エルサ、さん」
「サラちゃん! 良かった、どうしたの? いったいなにが?」
「エルサさん!! グレースは!?」
エルサさんの腕を強く握り締める。青い瞳は驚いたように丸くなった。
「グレース? 一緒……じゃないの? 私は、魔法ショップ街で騒ぎがあったって聞いて、来てみたらサラちゃんがたおれていて……教会から近いから、たまたま……」
「そんな!」
助けに行かなきゃ──と起き上がろうとするも、なぐられた頭に痛みが走ってまた倒れ込んでしまう。
「まだ動いちゃダメ! 今、応急処置をしてるところだから」
「そんなの待ってられないよ! グレースが連れてかれたんだ! 早く助けに行かないと!」
無理やり動こうとした体をエルサさんが強い力で引き止める。
「エルサさん!!」
「ダメ。サラちゃん、まずは傷の手当てをしないと。そんなんじゃ助けに向かったってすぐに動けなくなっちゃう。それに、グレースがどこに連れてかれたかなんてわからないでしょ」
「それは、そうだけど──」
「はい、それじゃあ、ベッドに大人しく横になって」
にっこりと笑顔を向けると、エルサさんは頭の傷の手当てをしながら、近くにいた強面店主に話を聞いた。……強面店主!? そうか、倒れた私をここまで運んでくれて。だから、ここはお店の中……?
いっつ! ちょっと、消毒がしみる……。
「3人組だったな。俺が表に出たときはもう街外れの方に消えていっちまうところだった。だが、追いかけるのはやめた方がいい」
「なんで? グレースは私たちの仲間! 助けないと!」
店主は腕を組むと、太いあごをつるりとなでた。
「こんな白昼堂々と人さらいをする奴らだ。多少なりとも、腕に覚えはあるんだろう。嬢ちゃん、あんた戦闘経験は?」
「……ないけど」
「あんたはどうなんだ?」
エルサさんは私の頭を包帯でぐるぐる巻きにすると、「よし」とひとり言を言った。そして、店主の顔を見上げる。
「私も誰かと戦ったことはありません。戦いたくもない、血は、苦手だから。でも、だからと言って、大切な人を助けに行くことを怖がるほど臆病でもない」
「……エルサさん」
そう言えば、私は頭から血が出ていたんじゃないだろうか。そう思って、エルサさんの指先を見れば、べっとりと血が付着していた。エルサさんが苦手なはずの、見ただけで卒倒するはずの赤い血が。
「サラちゃん、起き上がれる?」
「はい! もう、大丈夫です!」
私がそのまま立ち上がると、エルサさんも丸イスから腰を上げた。その表情は、本当に血を克服したみたいに落ち着いている。
「……待ちな」
「なに? 悪いけど、忠告なら聞かない。私たちは助けに行かないといけないんだから!」
「そうじゃねぇよ。ほらこれ──」
そう言って店主は、部屋の隅に置いていた剣を手に持つと、突然、宙に放り投げた。くるくると回る剣はエルサさんの手が正確にキャッチする。
「これ……」
「ただの剣だ。護身用のな。もろいがまあ、役には立つだろう」
「でも、私、剣なんて──」
「大丈夫だ。テキパキとしたあんたの動きを見ていたらなんとなくわかる。あんたは剣を扱えるはずだ」
そうだ……たしか、前にチハヤが。
『エルサさんは前衛で戦う剣士に向いている。向かってくるモンスターを切り刻み、切り捨てる──そんな姿が目に浮かびます』とか言っていた気がする。
「うん、美容師だしね、刃物の扱いはわかってるかも。わかりました。とりあえず──」
天然を発動し、店主の言葉をいい方に解釈したエルサさんは、ずっとまとっていた血まみれの白い服を脱ぎ捨てると、もらった剣を肩にかけた。
「これ、申し訳ないんですが、教会に返してもらっていいですか?
「ああ、いいぜ。それから、ギルドにもよって応援を頼んでおく」
「ありがとうございます。よし、今度こそ行こうサラちゃん!」
「はい!! ……あっ、ちょっと待ってください」
背負っていたリュックを前に持ってくると、中からチハヤのくれたクローバーの髪飾りを取り出した。
「チハヤ! 聞こえるか!! 緊急事態だ!!」
くっそ、応答がない。いつもは聞かなくてもいい会話を聞いてるくせに!! それとも、聞こえているけど返事はできない状況だったりするのか!?
「グレースがさらわれたんだ!! とにかくチハヤ!! 私とエルサさんはさらった奴らを追うから、チハヤも頼むから急いで来てくれ!!!」
チハヤ、お前! 来なかったら恨むからな!!