フレデリックさんとの面会も終わり、私達は城の正門まで来ていました。
「何だか落ち着かない見送りでごめんね。視線、すごかったでしょ?」
「えぇ、まぁ、ディートファーレさんは有名人ですからね」
すごかったどころの話ではありませんでした。
軍団長であるディートファーレさんが自らお見送りすることは滅多にないようです。その証拠に、通りがかった城の関係者が漏れなくざわついていたのですから。
私達の顔はきっと覚えられたのでしょう。……そんな中、エイリスさんは非常に堂々と歩いていたのは流石だと思います。
「アメリア、こういうのは自信だよ。バレるかもしれないと思って歩いてたら絶対バレるしね」
「その強気をぜひとも王女状態でも見せて欲しいもんだけどなー」
「マルファ? ボクと一騎討ちでもしたいのかな? ん?」
「はいはい。そこまで。これ以上、私が長居しちゃうと人が増えちゃうからそろそろ帰りなさい」
「そうだね。行こうかアメリア、マルファ」
「はい。ですが、その前に……」
私はディートファーレさんに駆け寄り、頭を下げます。ずっと言いたかった事があるからです。
「ディートファーレさん、ありがとうございました。おかげさまでまた、こうして三人一緒にいることができます」
「私は何もやっていないわよ。望み、掴み寄せたのは貴方達なんだから。ま、それでもお礼がしたいのなら、今度また紅茶でも淹れてほしいわ」
◆ ◆ ◆
「エイリスさん、マルファさん」
宿へ向かっている最中、私は二人を呼び止めました。
今回の一件で、私は決意したのです。
「やっぱり私、カサブレードは放棄したいです」
「まぁ今回の一件があったらそう思うのは仕方ない、か」
「すいません、言葉が足りませんでした。太陽の魔神をどうにかした後に、カサブレードを放棄したいんです」
二人は私の言葉に驚いた様子でした。それはそのはずです。太陽の魔神をどうにかする――それはつまり、太陽の魔神と本格的に戦うことを意味しているのだから。
二人は口にしないまでも、こう思っているでしょう。
――どうやって?
私はこう答えます。
「私、強くなります。強くなって、カサブレードを守って、そして二人と肩を並べて戦いたいんです」
「アメリア、それは茨の道だよ?」
エイリスさんは少し辛そうな表情で続けてくれました。
何故、茨の道か? そもそもの話、私がメイドだということ。職業がどうかという話ではありません。私は戦いの素人なのが大きな要因です。
エイリスさんは優しく、だけど厳しく言ってくれました。
人間同士ならまだしも、太陽の魔神などという空想レベルの存在に戦いを挑もうとすることの意味。死ぬのが当然と言われても仕方ないほどの存在を相手に、本気で強くなっていけるのか。モチベーションはあるのか。
そういうことを、エイリスさんは問いかけてくれているのです。
だから私ははっきりと、胸を張って言えるのです。
「覚悟の上です」
私は戦います。カサブレードを守りきって、いつか必ず放棄するために。
「そんなに覚悟決まってんならしょーがねーなー」
マルファさんはニッと笑います。エイリスさんも厳しい表情が和らいでいきます。
やっぱり二人は私がこう答えるのを信じてくれていたのです。そう考えると、私はとても嬉しくなりました。
「よし、そうと決まれば早速行動だ」
エイリスさんが立ち止まり、くるりと
一体どこに行くのでしょう。私が問いかけると、エイリスさんは親指を王城の方へ向けました。
「どこって、王城だよ。フレデリック軍団長のところへ戻るんだ」
「……ってことはエイリス、まさかお前」
「察しが良いねマルファ。そうだよ、フレデリック軍団長にカサブレードのことや戦いについて教えてもらおう」
「ええ!? フレデリックさんからですか!?」
確かに私達が現状思い浮かぶ最善の選択肢といえるでしょう。カサブレードのことや扱いについて、フレデリックさんから学ぶことが出来れば、もっとマシな戦い方が出来るはずです。
ですが、フレデリックさんはディートファーレさんの手によって拘束状態にあります。
ついさっき会って別れた私達がすぐに会えるのでしょうか。いや、そもそももう会えないのかも……。
「え? フレデリックに? 良いわよ、いま拘束を外すわね」
快諾でした。ディートファーレさんはすぐに拘束を解きました。あまりにも上手くいきすぎたので、つい私はディートファーレさんにもう一度確認してしまいます。
「ほ、本当に良いんですか!?」
「良いわよ? ただ、万が一のこともあるから、私が監視していることが条件だけど」
「それじゃあディートファーレさんにご迷惑が……」
「大丈夫だよアメリア」
エイリスさんが笑顔で答えてくれました。
「ディートファーレには十分な給金と手当を与えている。その分はしっかりと働いてもらうから」
「……一応私、軍団長で大忙しなんだけど?」
「へぇ、じゃあ今度抜き打ちで仕事ぶりをチェックにしに行くけど、それでも良いなら――」
「アメリア、いつでも来ていいわ。早朝だろうが夜だろうが、時間は問わないわよ」
「え、えぇ……」
ディートファーレさんの目は本気でした。もしも深夜に行けば、笑顔で対応してくれそうです。
ですが、まさかそんな図々しいことはできないので、時間を指定してもらうことにしました。
軍団長としての業務が比較的少ないであろう日をピックアップしてもらい、王城へ行くという流れです。
「はい、これあげる。大事に持っていてね」
ディートファーレさんから受け取ったのは紐のついたタグでした。タグにはディートファーレさんのサインが書いています。
こういうこともあろうかと、ディートファーレさんは既に手を回してくれていたようです。具体的にはこのタグを衛兵さんに見せれば、すぐに通してくれるようにしてくれたとのことです。
当然と言えば当然かも知れませんが、エイリスさんにも渡されています。王女だというのに何だか不便な気もしますが、元々城を抜け出していたことを踏まえると、もしかしたら出入りが楽になったのではないでしょうか。
「さ、とりあえず今日から頑張りなさい。今日と明日は割と暇だから、付き合えるわよ」
まさか今日からとは思いませんでしが、今日から私達の修行が始まります。