「た、たたタオコール家って、あの!? あまりの仕事の厳しさに、『地獄のメイド養成機関』と言われているあの家の!?」
「そこで生き残ったメイドは皆、どこかの総メイド長や王族の世話役になっているって聞いたことがある!」
「総メイド長以外の生き残り、初めて見た……!」
エイリスさんが私の肩をちょんちょんと叩きました。そして、エイリスさんは私の耳元に顔を寄せます。
「タオコール家にそんな噂があったのね。初めて知ったわ」
「あはは……そうみたいですね」
「知らなかったの?」
「正直言えば、はい。仕事が楽しすぎて、そういう噂には疎かったので……」
「筋金入りね」
私とエイリスさんが話していると、ルミラさんが手招きをします。そして、私を前に出しました。
「あたしが保証する! この方は最強の助っ人だ! お前ら仕事をするぞー!」
メイド達が皆、思い思いの道具を掲げて、ルミラさんに応えていました。
私は感動しています。ルミラさん、こんなに立派になって……! こんなにたくさんのメイド達の上に立てるなんて、すごいです。
「アメリアさん、もっとゆっくり話してぇところなんスけど、早速仕事手伝ってもらっていいスか?」
「了解です。あ、その前に道具の置き場所と入ってはいけない場所を教えてもらえれば、あとは大丈夫です」
ルミラさんから教えてもらった道具の置き場所を頭に叩き込みます。……よし、完璧です。覚えました。
「アメリア、色々とあったけど、予定通りお願いするわね」
「全力で頑張ります、エイ――イーリス王女様!」
エイリスさんとも別れ、早速仕事開始です。
これだけの大きな城を
うん、大丈夫でしょう。前の職場では大掃除を一日で二回やったので、なんとなく要領は掴めています。
……まぁ、ポンコツメイドなので、やはり旦那様には怒られましたがね。
◆ ◆ ◆
「ふぅ……最、高」
気づけば午後になっていました。私は久々の充足感を味わってます。
掃除、洗濯、炊事、そして在庫の管理などなど……目についた業務は全て出来ました。とはいえ、これは私の力ではありません。ここの道具が一級品だったの一言に尽きます。
そしてなにより、ここのメイドのレベルは高いです。そもそも仕事が丁寧で完璧なので、私はその隙間を埋める役目をしただけに過ぎません。
あれもこれも全てルミラさんの監督能力が高いおかげですね。人が足りていないところは手助けに入り、多ければ他の場所に回し、その人の適性を見て、与える仕事の種類を変える。単純な話ですが、中々出来ることではありません。
「アメリアさん!」
一息ついたあたりでルミラさんが走ってきました。
また何か別の仕事でしょうか?
「ルミラさん、どうしたんですか?」
「休憩の時間っスよ! 厨房にまかないを用意しているんで、食ってください!」
「あぁ、そうですよね。ここは休憩時間があるんですよね」
前の職場は休憩時間が存在しなかったので、すっかり頭にありませんでした。しいて言うなら、寝る時くらいでしょうか? まぁでも三時間も寝ることができれば十分ですよね。
「それにしても相変わらずの仕事ぶりっスね。部下のメイド達がドン引いていたっス」
「えぇ!? 私、何かドン引かれるようなことをしていましたか!?」
王城メイドの仕事レベルに見合っていなかったのでしょうか……。もしそうなら、私はますますポンコツメイドになってしまいます。
ですが、そうではなかったようで、ルミラさんがブンブンと首を横に振りました。
「なんつーこと言うんスか!? 大人数でやるような広間を一人で完璧に、しかも短時間で掃除してたからっスよ! 洗濯もあれだけ大量にあったのに、一人でさっさと終わらせるし、物品庫もめちゃくちゃ綺麗に整理されていたし! おかげさまであたしらの仕事の予定が激短縮されたっスよ!」
「それなら良かったです……。でも、まだまだ詰められるところはあったなぁと反省ですよ」
「流石アメリアさん……。タオコール家のメイドの中でも特にモチベーションの鬼でしたもんね」
「一番仕事が出来なかったから当然ですよ。だからこそ、当たり前にやれることは当たり前にこなしたいんです」
「タオコール家といえば、アメリアさんはどうしてここに? もしかしてタオコール家を辞めたんスか?」
そこで私は何と言おうか悩み、固まってしまいました。
カサブレードの気配を掴んだ太陽の化身、フランマがやってきて、タオコール家のお屋敷を壊滅させました! などと、ありのまま言っても正しく伝わるのかどうか……。
ルミラさんが心配そうにこちらを見ます。これ以上は黙っていられません。
考えに考えた末、私は口を開きます。
「実は、何者かに屋敷を襲われてしまいまして……」
「えぇ!? 誰っすか!? というかガルヘイン様や他の皆は!?」
「爆破の魔法によって、屋敷が破壊され、旦那様や仲間のメイドはその瓦礫の下に……。私はたまたま買い物に出ていたから難を逃れたんです」
「そん……な」
ルミラさんがうつむいてしまいました。
ごめんなさいルミラさん。正確に事情を言うべきなのだろうけど、今の私にはこれが精一杯でした。いつかちゃんと本当のことを言いますからね。
「そうっスか……アメリアさんが最後のタオコール家のメイドなんスね」
「はい。みんないなくなってしまいました。ですが、私にはあの屋敷で培った技術があります」
あの屋敷で習ったことは永遠に忘れないし、劣化もさせません。だから私はいつまでもメイドの仕事をしていたいです。
そして、いつか誰かにあのタオコール家で培った技術を伝えて、この世を去りたい。
これがカサブレードの放棄とは別に抱いている、私の夢です。
気づけばルミラさんが泣いていました。
「漢っス……! アメリアさん、あんた漢っスよ……!」
「い、一応私は女性です」
「違うっス! アメリアさんの覚悟に漢を見出したんス! やっぱりアメリアさんはアメリアさんっスね!」
「そんな大したものじゃありませんよ。ただ、タオコール家でのことは忘れたくないだけです」
「それでもすごいことっス! そんなアメリアさんにお願いしたいことがあるっス!」
すると、ルミラさんが急に真剣な表情に変わりました。