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第64話 ついに接触

「この王城で働きませんか!? アメリアさんは副総メイド長として、あたしのことを助けてほしいっス!」

「え、ええっ!?」


 まさかのスカウトでした。

 私がうろたえていることを察してくれたのか、ルミラさんが理由を話します。


「正直、部下は皆、あたしについてきてくれています。でもあたしはこの立場に見合った仕事が出来ていないように感じるんス」


 それは卑下だ、と私は思いました。だってルミラさんは元々仕事が丁寧だったし、今日の働きぶりは凄まじいものでした。

 私がそれを否定すると、ルミラさんの表情が曇っていきます。


「あたしが見ている限り、あたしよりも仕事が出来る部下はいます。だからあたし、悔しいし、不安なんです。いつか、あたしは皆から見限られるんじゃないかって」

「ルミラさん……そこまで思っていたんですね」


 あれだけ豪快だったルミラさんが今は、小さく見えてしまいます。

 私はルミラさんに何と声をかければ良いのでしょうか。 タオコール家のことを思い出します。……駄目だ、罵詈雑言しか飛んできていませんでした。

 全く参考にならない思い出を丸めて隅に追いやり、私は改めて考えます。

 私がルミラさんの立場の時、一番欲しい言葉……。


「皆、ルミラさんだからついてきているんですよ。もちろん仕事の出来る出来ないもあるんでしょうけど、皆がルミラさんについてきているのは、決してそれだけじゃないと思います」

「それは一体……」


 私は知っています。

 ルミラさんが声を掛けると、皆の士気が高まることを。誰かが失敗したり、十分でないところはしっかりとフォローをすることを。もう駄目だ、と立ち止まりそうな人に寄り添い、背中を叩いてあげられることを。

 だから私は握り拳を作り、ルミラさんの胸にトンと当てます。


「ルミラさんはそのままでいれば良いんです。今は分からなくても、きっと分かる日が来ます」

「そのままで……良いんスか?」

「はい。私の言葉は信じられませんか?」


 ルミラさんはブンブンと首を横に振りました。


「そんな訳ないっス! 尊敬するアメリアさんなんスから!」

「それはそれで照れますね……」

「うん、何だか吹っ切れました。あたしはひとまず、このままで行きたいと思うっス」


 曇っていた表情が、晴れやかなものに変わっていました。色々と頭の中で整理が出来たのでしょう。

 そのはずなのですが、ルミラさんは私の方をチラチラと見て、何かを言いたそうです。

 何を言いたいのか分からないので、黙ってみていると、ルミラさんは小さく口を開きます。


「そ、その……もしもあたしがまたこんな感じになっていたら、その時はまたアメリアさんに相談しても良いスか?」


 ルミラさんの顔がほんのりと赤くなっていました。勇気を振り絞ってくれたのだなと思いながら、私は即答します。


「はい! もちろんです!」


 その時のルミラさんは、本当に嬉しそうでした。



 ◆ ◆ ◆



 帰路についている途中、私は今日のことを思い出していました。

 メイド業務はいつやっても私を最高の気分にさせてくれる魔法の時間です。


「たまにルミラさんのところへ遊びに行こうかな」


 ルミラさんからの申し出は丁重にお断りしました。……いや、本当は受けたい気持ちでいっぱいでした。

 メイド業務とカサブレードの件は両立出来そうにないからです。カサブレードがなかったら、きっとルミラさんの申し出を受けていたことでしょう。


 ますますカサブレードの放棄に対し、やる気を上げた私は今日の疲れを取るために、宿へ向かいます。



「よぉ。また会ったな。太陽の恵みに感謝したい気分だぜ」



 私は立ち止まり、後ろを振り向きました。

 オレンジ色の髪、縁無しメガネ、この特徴を私はよく覚えています。

 フレデリックさんの訓練帰りに現れた怪しい人です。


「貴方はあの時の……」

「久しぶりだな。太陽の光、浴びてるか? 俺は浴びてるが?」

「毎日浴びていますが……」

「良いね。もし浴びていなかったら、俺が太陽光の素晴らしさを教えようと思っていたんだ」


 嫌な状況になってしまいました。今はエイリスさんもマルファさんもいません。つまり、一対一でこの良く分からない人の相手をしなくてはなりません。

 普通の人だったら、こんな失礼なことは思いません。


「……ン? どうした?」


 ですが、この人から滲み出る嫌な感じ・・・・はどうしても私に嫌な感情を抱かせてしまいます。



「唐突な確認で恐縮だが、お前はカサブレード使いなんだよな」



 心臓を鷲掴みにされたような気分になりました。疑問形ですらなかったことにより恐怖を感じます。

 私は咄嗟にカサブレードを出現させ、構えていました。

 この類の人には話術は通用しません。すぐに認めて、どれくらいの敵なのかを判断しなければなりません。


「もう少し誤魔化されると思っていたら、まさかの即答か。良いね、太陽の光のように澄み切った心を持っているな」

「貴方はもしかして……太陽の魔神の仲間なんですか?」


 ずっと気になっていたんです。事あるごとに太陽という単語を口にしていたのを。

 カサブレードのことも考えれば、この人は太陽の魔神の仲間ということで間違いないはずです。

 ですが相手はそれに答えず、手の甲を見せました。


「それを確かめたいなら、ぶつかってきな。あ、名前だけは教えてやる。俺はサンハイルだ」


 このあたりは人通りが少ないため、すぐに助けを求めることは難しいでしょう。

 それならば、相手の言うことに従って、速やかに倒すのが吉のはずです。


「じゃあぶつかります!」


 カサブレードの力で身体能力を底上げし、私は突撃します。

 一瞬で懐に入り、カサブレードを相手の胴体目掛けて振り抜きました。


「なるほど。強いな」


 気づけば、私の顔面はサンハイルさんによって掴まれていました。五指が私の顔を締め付けます。


「ッ――!!」


 このまま締め付けられれば、大変なことになる。持てる力を使ってカサブレードを振り回し続けますが、サンハイルさんの握力は緩むことがありません。

 本当にピンチです。こうなれば一か八か、カサバスターを撃ってみましょうか。


「このまま強くなれば、いつかお前は俺を倒すのだろうな」


 そう言って、サンハイルさんは私の顔面から手を離しました。


「はぁ……はぁ……!」


 押さえつけられていた血流が一気に動き出し、頭の中がドクンドクンと脈打っています。

 あのままいけば私を殺せていただろうに、あそこで攻撃を止める意図が分かりません。


 すると、サンハイルさんは私に背を向けました。


「ついてきな。小腹が空いたからパン屋さんに行くぞ。そこで話をしてやる」


 なんと、まさかのパン屋さん呼びでした。

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