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第105話 今こそ一つに

「太陽の魔神、お前を相手に出し惜しみはしない!」


 カサミテーションの刀身にあたる部分が紫色の光に包まれます。

 感じるのはカサブレードと似たような力。つまり、月の力!


「今こそカサミテーションの真の力を開帳する! その身で受けろ!」


 月の光はどんどん伸び、エイリスさんよりも巨大な刀身となりました。エイリスさんは重さを感じさせない様子で振り上げ、そして、一気に振り下ろしました!


『これは月の力か! ほう、面白い!』


 太陽の魔神から炎が吹き上がります。炎は渦巻き、盾のように広がります。

 カサミテーションの刃と炎の盾がぶつかります。

 拮抗しているように見えましたが、なんと光の刃が押し始めます。


「き、り、さけぇ!」


 月の光は太陽の魔神ごと炎の盾を切り裂きました。すぐに身体の修復が始まりますが、どうにも回復が遅いように見えます。


『流石に蝕むか……!』


 太陽の魔神は一度拳を握りしめたあと、 ゆっくりと開きました。


『傷をつけられた褒美だ。受け取るが良い』


 太陽の魔神の手の平から、花びらが舞いました。いいえ、正確には花びら状の炎が生み出されていました。私のような戦いの素人が見ても分かります。あの花びら一つ一つが必殺級の威力だと!


「カサプロテクト!」


 私はマルファさんとエイリスさんの中心に立ち、カサブレードを広げます。

 カサブレードから生み出される鉄壁の防御力場は舞い落ちては爆ぜる花びら状の炎を食い止めます。


「あ、明かない……! らちが!」


 防戦一方です。この花びらはいつ降り止むのか、太陽の魔神の手のひらからどんどん生み出されます。

 カサプロテクトはともかく、私達の体力がもちそうにありません。


「何か、何か……!」


 こんな状況だというのに、私はこの花びらを見て、ついメイドのお仕事を思い出してしまいました。

 あぁ、よく枯れ落ちた花びらを掃除していましたね。箒とちりとりを使って、どれだけ手早く、そして美しく片付けられるか試していましたね。


 そうだ。降ってくるなら、掃除をすれば良いんだ。


 私はマルファさんとエイリスさんに手早くこれからのプランを話しました。

 これからやろうとしていることは、一瞬とはいえ、二人に大きな危険が及ぶ可能性があります。


「アメリア!」

「は、はい」

「お前、ほんっとメイドだな」

「そうですよ!」


 カウント、一、二、三ッ!


 カサプロテクトを解除した私は花びらの雨に突っ込みました。


(お願いです、私に応えてカサブレード!)


 カサブレードが光り輝き、どんどん形が変わっていきます。

 そうなんです。花びらが降ってくるのなら、その前にかき集めて、払ってしまえば良いんです。

 こういった花びらの掃除に適した道具。カサブレードがその形に変わっていきます。


「カサクマデ!」


 カサブレードは熊手くまでへと姿を変えました。私はカサクマデを振り回し、舞い落ちる花びら状の炎をかき集めます。

 カサクマデから生まれている力場のせいか、爆ぜるようなことはありません。

 どんどん集めていき、大きな塊に変わっていく炎。


「ゴミのポイ捨ては、いけません!」


 私は太陽の魔神の頭目掛け、炎を束ねたカサクマデを叩きつけました。


『我の力を利用するか……!』

「まだです!」


 攻撃が止みました。その隙を見逃さず、私はカサクマデをがむしゃらに振り回しました。

 手応えあり。カサクマデは確実に太陽の魔神の身体を削り取っていきます。


『鈍い、まだ力を取り戻せていない……!』


 太陽の魔神の動きはどうにも鈍かったです。先程のような攻撃もありません。

 カサクマデが効いたのでしょうか。それを確かめる手段はありません。

 ただ確かなことは、今が最大の攻撃のチャンスということです。


「マルファ! ボク達も続くんだ!」

「分かってるっつーの!」


 エイリスさんが再び月の光を刃にし、太陽の魔神を両断します。

 直後、マルファさんが箒星ほうきぼしの魔法を放ちます。光線は箒のように広がり、太陽の魔神の全てを貫きます。


「こ、れ、でぇ!」


 カサクマデを大きく振り上げます。そして、渾身の力を込めて、一気に振り下ろしました。

 太陽の魔神の身体が半分に裂けます。修復する気配がありません。

 サンハイルさんは太陽の魔神の力を使っていただけ。だけど、太陽の魔神は本人です。それだけカサブレードがより効果的に力を発揮するのでしょう。


『ぐ、お、おお、おおお……!』


 太陽の魔神の身体が崩壊していきます。これで終わり。

 一瞬でも油断したのがいけませんでした。


『カサブレードの使い手よ。まさかここまで喰い甲斐のある存在になっていたとは』

「どういうことですか!?」


 すると、崩壊しかかっていた太陽の魔神が私に覆いかぶさりました。



『今こそ全てが一つとなる』



 何かをされた――そう思う前に、私の意識が遠のいていきます。

 エイリスさん、マルファさん……!


 次に目を覚ましたのは、真っ白い世界でした。


 この世界のことを、私は知っています。

 そう、ここは――。


「私の、精神空間……?」

『そうだ。良く覚えているではないか』


 太陽の魔神が姿を見せました。

 ここが精神世界だからでしょうか。私達が必死に与えたダメージは綺麗さっぱり消えていました。


「どうしてここに……!?」


 エイリスさんやマルファさんの姿がありません。冷静に考えれば、ここが精神世界だからなのですが、私には余裕がありませんでした。


「皆は!?」

『さぁな。今はそんなことよりも、これからのことだ』


 太陽の魔神は私へ手を差し伸べます。


『今こそ我と一つになる時。貴様の中にある我の意識を返してもらおう』


 一つになる? 私の中にある意識を返してもらう?

 一つも言っている意味が分かりません。


「私がどうして貴方の意識を持っているんですか!? 私を動揺させるのが目的ですか!?」

『違うな。これは事実だ。身に覚えがあるはずだ』


 そうです。

 確かに私は過去に二回ほど、この精神世界で太陽の魔神からの干渉を受けていました。

 それが、そうだというのですか?

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